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孤島奮起  作者: つふら
鶏と山羊と牛があらわれた
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とある聖霊の苦悩(サクセスストーリー)

久しぶりに古代の契約魔法を唱えられた。よりによって、俺が勤務当番の日に。


「先輩、これって、古の契約魔法じゃないですか。リアルに聞いたの、俺、初めてっす。」


後輩がワクワクしながら俺に言う。俺だって初めてだ。


この地に配属が決まったから三千年とちょっと、そもそも言葉を話す生き物がいなかった。


『君は、うん。成績的に考えてもね、この場所がいいと推薦したんだ。』人事課の人が俺に告げた。ただの左遷だ。


俺は別に仕事が嫌な訳じゃない。ただ小難しいもんが嫌いなだけだ。毎日、風が淀まないように、酸素と二酸化酸素の割合が適応するようになど、バカな俺にも出来る仕事はある。サボったことは少ししかない。



からの、この古代契約発動だ。


これはすごい昔に聖霊王と、聖霊王の親戚筋のエルフという種族が取り決めた契約で、いまだに契約書のコピーも各支部に保管されている。


俺も新人研修の時に先輩からチョコット教わっただけなんだけ。『一応、書類あるけど、発動したことないから話し半分でいいから!』からの三千年ちょいで、契約発動に立ち会うハメになるとは。



「何でも先輩に聞いちゃダメっすね。とりあえず俺、わかんないから職務マニュアルみるっす。」


後輩がマニュアルを開く。


どうしよ、俺。どうしていいか全然わかんねーや。後輩が出来て、先輩ヅラしてるだけなのに。ヤバい、どうしよ。


「先輩、これって古代エルフ語っすね。しかも、契約にバッチリ乗っ取ってるっす。」


「当たり前だろ。エルフ人種との契約なのに、他の人種が唱えても効果はないだろうが!ちっとは頭使って考えろや。」


偉そう俺。でも、威勢を張るしか出来ないんだよ。


「相手は・・・・あー検索にヒットしました。これっす、『日本語』。なんすかねー、初めて俺、聞きました。先輩は知ってます?」


「当たり前だろ。」


知らんよ。初耳だよ。


「マニュアルによると、『各々の言語データを並列化して同期する』ってあるんすけど、どうやるんですかね。」


「あの埃(ほこり)を被ってるアレだよ。アレ持ってこい!」


無論知らない。長年使ってないのは当然埃を被ってるだろうから、あとは適当に『アレ』とか言ってればなんか持ってくるだろ。


「アレっすね!先輩、すぐに持ってきます!」


後輩が走り去る。


今のうちにマニュアルを読む。なになに、『各々の言語辞典を機械に繋いで、並列化する。それを契約に乗っ取り読み取ったあと、声の波長に合わせて同期する。作・聖霊王』


一体何を説明してるんだ?ワケわからん。もう少し簡潔に分かりやすくマニュアル書けよ聖霊王め!


そうそうしてると、後輩が戻ってきた。


「先輩、お待たせしました。これっすね。契約の翻訳機!」


俺に見たこともない箱を渡す後輩。それと、エルフ語言語辞典と日本語言語辞典と書かれた箱ももってきた。


「ほら、さっさと翻訳機に辞典を差し込め。」


「わかりましたーっと。」


各々の言語辞典から出ているコードを、翻訳機の所定の場所に各々差し込む。


「なんだ、何も変わんないじゃないか。壊れてんのか?」


ガンガン叩く。


「先輩、横のスイッチ入れないと無理っすよ。」


あ、スイッチな。


「知ってたわ。おい、ほらお前がやれ。勉強になるだろ。」


そういってマニュアルと翻訳機を後輩に渡す。




後輩がスイッチをいれると、モニターが緑色に光る。


画面右にはエルフ語、左には日本語が表示されている。


「先輩、エルフ語の翻訳要求きましたよ?どうします?この翻訳でオッケーしますか?」


ん?どれどれ?なんだ、簡単じゃないか。


エルフ語『聞こえるかしら?』


⇒


日本語『聞こえるかしら?』


意味がお互いに合っていることを確認したら、確定キーを押せばイイっぽい。


「俺にいちいち確認するな!どっちもあってるなら問題ないだろ。」


「わかったっす。えーと、オッケーと。」


エルフ語と日本語の会話は問題なく続けられた。



その時だ。


「先輩!これ、どうしたらイイっすか!?選択肢が出てきたっすよ!?」


モニターを見る・・・・・ホントだ。選択肢が出てる。



日本語『採血』


エルフ語『並列化出来る単語がありません。類似する単語を使用して翻訳し、翻訳機決定キーを押してください。』


え?なんだよサイケツって。


「先輩、どうします?」


「ちょっと待て、サイケツって意味を調べるから。」


エルフ辞書を取り出し調べるが、そんな用語はない。


「先輩!時間がまずいっすよ!」


「うるせぇ!わかってる!」


モニターには4つの選択肢がある。


うーん、どれも小難しい。なんだよ『皮膚に金属を突き刺し、体内の血を流す管に・・・』『中が空洞の鋭利な針状の物を・・・・』


どれもこれも長ったりい。


「先輩!時間!」


「わかってる!うるせぇ!」



くそっ、一番短いヤツを選択し、確定を押す。


ふぅ、焦るぜ。


モニター画面が更新される。


「先輩、また選択肢が!」


またかこの日本語野郎!なんだよ『点滴』って。


選択肢を見て、一番短いのを選んで確定。


「先輩の決断力はすごいッス。マジ半端ないッスね!」


ふふん!


「また選択肢ッスよ!」


またまた日本語野郎か!こいつは他人を気遣うってことしらないのか!


『手術』。あれ?俺にもわかるぞ。


そうか、相手側の歴史や文化や知識にない場合もこうやって選択肢がでるのか。えーと、『腹を切り裂き、臓物を包んでいる膜を・・・・』いらんいらん。こんなリアルな説明はいらん。


俺が読んでもソフトに伝わる選択肢を選んで確定。


それ以降、選択肢は出ずにエルフ語と日本語は眠りについた。


「いやー、ヒヤヒヤでしたねー。」


「ホントだよ・・・・ほれ、さっさと休むぞ。」


俺は後輩を追いやったあと、日報を書いて本部に送る。ここまでが俺の仕事。


あとから聞いた話しだけど、俺の日報を受け取った本部は、ざわついたらしい。『あの523地区で古代契約が発令されたってよ。』『え?マジで?あそこ僻地じゃん。バカが行くところだろ?』などと、風聖霊チャットではちょっとした盛り上がりをみせていた。


因みにこの地域を担当するのは俺を入れて3人。勤務は3日交代制。特に大変な仕事もないから3人でもまわせる程度。まぁ、日本語とエルフ語翻訳の仕事が増えても、ぶっちゃけそんなに忙しくはない。基本、暇なので翻訳選択肢にヒヤヒヤする位だ。





そんな事、いってられなくなる事態が来た。


「先輩!神語ッス!神語!」


なっなんだよ!俺、勤務明け3日ブリの睡眠なんだ。やっと眠れるっーつーのに、邪魔しやがって。


「あ?人様の睡眠時間を邪魔するってのは・・・相当な覚悟を持って来たんだろうな。歯ぁ、食い縛れや後輩。」


子供の頃、嫌々通わされたボクシングのパンチをお見舞いしてやろう。


「ちょっと、先輩!寝ぼけてるんですか?!緊急事態ですってば!」


あぁ?


「翻訳対象者が増えました!その相手が神語なんですよ!二人で同時通訳出来ないから早く手伝ってください!」


マジか。神語なんて、伝説級だぞ。そもそも超エリート地区のみで、希に発生する事案だぞ?


フリフリのパジャマのまま、翻訳機へ急ぐ。ワチャワチャやってる後輩達をどけ、緑色のモニターを見る。


ホントだ。神語だ。神語翻訳は専門家の仕事なんだよ。俺達ごときが手を出していい翻訳じゃない。


ここにいる3人だけでは対処で来ない。翻訳機をもう1台、専門家スタッフを3人ほど増員しないとブラック企業の仲間入りになってしまう。


俺はここに来て初めて本部に直接連絡をとれる緊急用発信器に手を伸ばす。


「こちら本部。どうしましたか?」


「こちら523地区、責任者。現在、エルフ語・日本語の翻訳を行っていましたが、急遽、神語の翻訳が必要となりました。至急、機材搬入とスタッフ増員の手筈をお願いします。」


「え?」


「え?じゃないですよ。至急、お願いします!」


「あ、はい。すぐに上役へ報告します。それまでの対応、よろしくお願いします。」



あ、切られた。


対応って、どうすりゃいいんだよ。よろしくお願いされても困るんだよ、現場を知らねぇクソ役人め!


「先輩、急いで!」


後輩達に腕を引きずられモニター前に連れていかれた。


「早く!制限時間か来ちゃいますよ!」


「わかってるよ!黙ってみてろ!!」


なんだよ、この『訛り変換の必要があります。それぞれ同期させますか?』


しらん、イエスだ!


『どのタイプが適合していますか?』


しらん、適当に複数のチェック項目を確定!


『それでは翻訳内容を選んで下さい。』


で、選択肢がエルフ語、日本語、それぞれに8個。


わかるか!読んでられるか!


短い内容の選択肢をそれぞれ選ぶ。


『この内容で宜しいですか?』


もぅやけくそだ。次々確定ボタンを押す。




無事、会話は進んでいるようだ。よかった。


「さっすが先輩ッス!」


「おうよ!」


後で責任問題になったらどうしよ、俺の心臓はドキドキだよ。ま、そしたらここよりも更に僻地に飛ばされるはず。それもいっか。命まではとられない。また、のんびり生活が送れると思えば嬉しいくらいだ。



本部はすぐに翻訳機と増員スタッフを送ってきた。神語のエキスパート達だ。


俺は適当に引き継ぎ、眠りにつく。明けなんだよ俺は!寝てないんだよ俺は!送り込まれたエキスパート達は俺の申し送りにご立腹だったけど、知るか。俺は眠いんだ。






その日の時に来たスタッフ達が本部に書いた報告書。


『あの523地区の責任者が実施した神語翻訳は、過去の翻訳内容と比較し、最高クラスの精度である。特に未だ謎の多い神語方言に対する理解とその表現方法には、長年研究してきた我々の解答となりうるものであった。更に、エルフ語のみならず、難解な日本語においての同期は、非常に珍しいケースと言えよう。責任者の翻訳力能力は極めて高いと我々は断定した。詳細は後日、改めてレポートを送るものとする。』


そして、バカな後輩達がフリフリパジャマで翻訳機を弄る俺の写真を風聖霊チャットなあげやがった。


俺のフリフリパジャマ画像は拡散され、俺の知らないところでパジャマは売れに売れたそうだ。


村の服屋のバーちゃんからお礼の手紙と新しいパジャマが届いたことで、初めて拡散されてたことを知った。


「先輩、よく撮れてるっしょ。」


笑顔の後輩に助走をつけて右ストレート放った。


その動画もアップされた。






そうこうしているうちに、俺の身分があがった。


『523地区翻訳主任』



ただのヒラリーダーから一気にな。その昇進に納得がいかないと本部に抗議した。俺はそんな長なんてやりたくないと。


『523地区翻訳統括長』


本部から更に通達。上がってるし、身分。そういう意味じゃない、俺をヒラ社員に戻してほしいだけなのだ!


後輩2人だった俺が、今や部下30人。どうしてこうなった。後輩達もそれぞれエルフ語管轄長と日本語管轄長になった。


「いーじゃないっすか先輩。賑やかになったし。」


そういう問題じゃない。俺はのんびり適当に生活したいだけだ。


「なんなら、オオカミ語部門も作っちゃいます?」


黙れ日本語管轄長。契約にないことは勝手にするな!俺の仕事を増やすな!


「え、でもあいつらの内容、面白いっすよ?エルフ娘のことを『細ゴリラ』って言ってるんですよ?翻訳したら絶対面白いことになりますって!」


黙れエルフ語管轄長!余計な翻訳機会を増やすな!



くそ、どうにか仕事を減らしたいし、異動したいのに。


・・・そうか、異動願いだ!異動願いを書こう。


俺は机に向かい書き始める。


激しく開くドア。


「統括長!新たな言語が確認されました。ドワーフ語とフランス語です!至急モニターを確認してください。」



「無視しろ。」



「え?」



「無視しろ。」



無言の統括副長と神語管轄長に引きずられ、またモニターまで連れていかれた。


助けて下さい!誰か俺を助けて下さい!


俺はモニターが立ち並ぶ部屋の中心で、心の中から『助け』を叫んだ。








そして、本部より通達。


『523地区統括指令長』


聞いて。誰か俺の願いを聞いて。


俺、出世とか肩書きとかいらないから。お願いだから、仕事を減らして。降格させて。異動させて。


「先輩、あの馬語の翻訳しませんか?あいつらあの細ゴリラのことをね・・・・」


聞かん!やらん!話すな!俺に提案するな!




あー、明日こそ18回目の異動願いを受理してもらいたい。また破られるかもしれないし、笑いながらゴミ箱に捨てられるかも知れない。けど、俺は諦めない。何回でも書いて本部に送ってやる。





翻訳する人って、大変だと思ったんですよね。

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