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孤島奮起  作者: つふら
エルフがあらわれた
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いただきます



彼女の解体捌きは見事だった。


あっという間に肉、皮、骨、内臓と切り分けられる。



子犬達、大興奮。


ごめん、俺も大興奮。


「凄く切れ味の良いナイフですね。いつもの半分くらいの時間で捌けましたよ。」


右手に刃物を持ち、血の浴びた顔で見せた笑顔は、なんとも形容しがたい。


「いやぁ、本当に凄いですね。」


「いえいえ、このくらい出来ないと私の国では生活出来ませんから。」


すいません、スーパーで何でも購入出来る環境でしか育ったことない自分で。



朝食作りをリスタート。


何時もと変わらないラインナップ。


焼き魚、先日干した魚で出汁をとった味噌汁、焼きバナナ。それぞれを2人分なので、いつもの2倍量を仕込む。


そして、彼女が捌いた肉の調理。


薄くスライスし、海塩(海水から作製した塩)をふって寝かせる。その後、鍋で軽く表面を焼き、砂糖と醤油で味付けを調えた。


猪の内臓はどこかに埋めるか・・・・おい、子犬達、これが食べたいのか?


わかった、わかったから、捨てないから俺の足元でカバディするのはやめてくれ。


子犬達用の大きい葉っぱ皿に内臓を置く。横に、水飲みも置いておく。見向きもしない4匹。『俺<内臓』が今の君たちの心の内なんだな、よくわかったぞ。


じゃあダイヤが獲ってきた(あさごはん)は昼御飯にとっておくか。今朝捕った魚も焼かなくていいな。干すぞ。


さて、子犬達も食べ始めた事だし、俺達も朝食にしよう。


「いただきます」「いただきます」


違う言語で聖霊補正が入っていたとしても、『生き物をいただき生を紡ぐことへの感謝の念』は変わらないんだろう。彼女が極々自然にそのセリフを言っていたからだ。


食事をする事、それは命をいただくと言うこと。


ここに来ても必ず『いただきます』と言ってしまっていたが、他者のセリフを聞くことで、感慨深くなってしまった。


久しぶりの肉を噛る。



お、美味しい。


あー、ドーパミン全開だわ、これ。


「このお肉の味付け、初めて食しましたけど、本当に美味しいですね。」


お気に入り召されたようで、よかった。


彼女は魚も味噌汁もバナナも美味しそうに食べていた。味わう度に食レポ風の味分析が始まるほどに、楽しんでくれたのだろう。


食べ終わる。


食後の片付けをしていると、


「・・・・あの、昨夜話せなかった話を・・・いえ、お話したいことがあります。」


彼女が思い詰めたような顔をして、俺に話しかけてきた。



「ゆっくり話を聞きたいところなんですけど、午前中は食材収集をしたいので、昼食の時にゆっくり話しませんか?」


猪の肉が手にはいったとはいえ、2人分の食糧を確保しなければならない。


「そうですね、わかりました。」


彼女は、そういって少し表情を緩める。


「ところで、私に何かお手伝いできることはありますか?」


まだ昨日の疲れが残っているだろうし、肩の傷も完治していないからあまり動いて欲しくはない。


「えーとですね、干し肉って作ったことありますか?」


ダメもとで聞いてみた。


「ありますよ。うちの村では毎日のように作っていましたから。」


「俺、いまいちちゃんとした作り方がわからないんですが、教えて頂けますか?」


「えぇ。」


そういって彼女が教えてくれた作り方、



肉を薄く切る

切った肉を塩と香草をまぶし涼しい暗所で半日ほど浸ける

塩抜きをする

日の当たらないところで干す


という方法。


塩抜き、やったことなかったな。香草もわかんない。ローズマリーとかオレガノとかかな。


俺が初日に作った方法を彼女に伝えた。


最初に肉を湯がいてから、切り分け、塩揉みにして干したことを。


「その茹でる方法も良いですね。湯で汁もスープになるなんて発想、私達の村にはなかったですよ。川が遠くて、水がとても貴重だったんです。」


俺は彼女に、拠点で干し肉の下準備をしてくれないか、と依頼してみた。彼女の村で作っている方法で食べてみたかったからだ。


それなら、彼女は俺のやり方でも作ってみて食べ比べしてみたいと、とのこと。


彼女に、お任せしよう。けど、香草ってのはどこにはえているのだろう。


彼女は少し笑う。


「香草ならあります。朝、猪と一緒に持ってきた草、あれは薬草の材料でもありますが、香草でもあるのですよ。」


この森にはあちらこちらに色んな種類の薬草やら香草が沢山はえていて、取り放題だそうだ。それならばよかった。


肉の処理は彼女に任せるとしよう。


あと、1つ、言っておかなければ。


「えーと、まだお伝えしていませんでしたので、改めて自己紹介をさせてください。俺の名は伊東(いとう) 武尊(たける)といいます。」


よろしくお願いしますと、会釈をする。


彼女は、そういえばお互い自己紹介を忘れていましたねと、少し微笑む。お互い忘れていたわけではなく、警戒していただけだ。


「タケル、よい響きね。」


久々に他人の口から名前を呼ばれ、少し目頭が熱くなる。歳を重ねていくと涙もろくなるって本当だな。


「私の名前はルル・エルフレル、こちらこそよろしくお願いします。」


笑顔でそういうルルさんは、とても可愛かった。

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