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摩天楼の令嬢  作者: みわみわ
安寧の神と魂の連なる血脈
6/15

父と叔父とわたし

ブックマーク登録、ありがとうございます!

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

家族は皆温泉に入り、弟たちはそのまますぐに眠ってしまった。これから、父とメイプルと話をするのにはベストなタイミングである。

弟たちが眠っている部屋から離れた談話室にはすでに二人がいた。父はパーソナルソファに座り、その斜め後ろに執事見習いとなったメイプルが立っていた。わたしは父に促され、長いソファに腰を下ろした。しばらくの沈黙の後、口火を切ったのは父だった。


「君は聡い子だ。彼の素性と現状を話そう」


メイプルの本名は、クリストファー・ウェストン。彼は、ウィリアム・モルガン(わたしの父の名前)の父である先代モルガン公爵(わたしの祖父)が、メイドのマープルに手を付けて生まれた異母兄弟だった。マープルが男の子を産むと祖父は女として育てるなら、追い出さないと言ったそうだ。マープルは父である男爵が再婚していて、先妻の子である彼女の居場所はすでになく、彼女はクリストファーをメイプルと呼んで今の場所を確保した。しばらくして祖父が亡くなり、モルガン公爵となった父はメイプルに自分らしく生きるよう枷を外した。彼は自分を見直し、男と自覚し出した。彼はずっとアイラのメイドをしていたが、アイラが8歳になると彼も女装をするにはもう完全な大人の男になっていた。故に父は執事だったジュゼッペに彼の事を相談し、執事見習いとして、別荘で教育してもらっていた。

大体の予想通りだけれど、この事はやはり隠したいのかしら?


「お父様。もう一つ隠し事をされてますよね?その方はあまりにも可愛い"スコット"に似ていますもの」


ガタガタ…

この言葉に、震え出したのは、メイプル…いえ、クリストファーだった。わたしは先ほどメイプルと気付いたと同時に、"スコットが成長したらこんな感じになる"と思ったのだ。


「発言をお許しいただけますか?旦那様」


「ああ、許す」


久しぶりに聞いた声はメイプルの頃より、かなり低くなっていた。そして彼は本当は口に出したくないであろう話を子どものわたし用に変えて語り出した。


モルガン公爵となった父がモルガン家系列のサリヴァン伯爵令嬢と婚姻を結び、子どもが生まれた…が、この子は生まれつき体が弱かった。母はこの娘を乳母に預け、父と子どもをすぐ作ろうとするが父は病弱な娘のために、金策や病の情報を得る伝手探しも兼ねて城勤を始めた。父は有能だったため、時の王は父に色々な仕事をさせて帰れない状態が続いた。そうなると困ったのは母で自分の名誉回復のためにどうしても子どもを作る必要があった。


「その時、あのお方の中で浮上したのが、先代の隠し子だった私の存在だったようです。私はあの頃、旦那様に男として生きる事を許されており…少々羽目を外しておりました。偶々ですが男である事をあのお方に知られ、脅され…1年後にはスコット様が誕生されました。私は彼を見て初めて、自分が旦那様を裏切っていた事を自覚しました。あのお方はスコット様が生まれた後も私との関係を続けようとしていたようですが、私はもうあのお方と顔を合わせるのも嫌になり、私はお嬢様付きになるため、旦那様に志願致しました…そして私は晴れてお嬢様の"メイド"となりました。あの時の私はお嬢様のおかげで生きていけたと今でも思っております」


クリストファーは、語り終えると口元を右手で抑えながら、嗚咽を漏らした。…これは確実に母の罪だ。あの身勝手さは婚姻した10代後半でも遺憾無く発揮されている。抑圧されて生きてきた人を脅すなんて卑怯だ。でも…それでも…私は被害者である彼にどうしても確認しなければならない事があった。


「クリストファーさん、あなたはスコットについて、自分の罪以外の思いはありますか?」


クリストファーはこの問いに更に嗚咽を漏らす。だがこの答えによっては、スコットの立ち位置が危うくなる可能性がある。あの母があの子に接触する可能性がないとは言い切れない。しかも今度は実の子を脅すかもしれないのだ。


「お嬢様。わたしはマープルという母はおりましたが、ほとんど育てられておりません。母の愛を感じた事すらありません。スコット様が生まれた時も、罪の意識以外浮かびませんでした。スコット様の成長にも関与していませんし、今も正直、父としての自覚もない状態です」


「なるほど…でもこのままでは、あなたが今後、父親であると自覚しても、わたしはあなたにスコットの父であると名乗らせる事は出来ないわ。あなたはスコットを愛していないようだけれど、わたしはスコットを愛しているの。寄り添ってやりたい存在なの。…あなたにはこの1ヶ月、スコットの身の回りの世話をする事を言い渡します。彼は母に母らしい接し方をされていないので、心の状態が危うくなっている。今日はしっかりと食べられたけれど、明日は分からないわ。昔わたしを懸命に支えてくれた"メイプル"を信頼して…お願いします」


わたしはクリストファーの中にまだいるであろう"メイプル"に縋る事にした。クリストファーは、困惑した表情を浮かべたが、仕事は引き受けてくれた。

なんだか課題が増えた気がする。クリストファーは会釈をして部屋を出た。

部屋には父とわたしが残った。


「お父様…わたしの身体が弱過ぎたため、平和な生活を乱してしまいました。申し訳ありません」


「アイラ…君が悪い事など断じてない。我が子が苦しんでいたら、苦しまないようにしてあげたいと思うのが普通の親だ。だがね…普通の親になる以前に…君の母は…元々モルガン家に嫁ぎたがってはいなかったのだ。ずっとフロントライ公爵の御子息が好きで、かなり強引な事をしていたらしい。サリヴァン伯爵は娘に異なる四大公爵家系間での婚姻は認められていない事を説いたが、彼女は全く理解しなかった。結果、自殺未遂を起こして、フロントライ家だけでなく、社交界へも出入り禁止となってしまった。

彼女は勉強が出来、見た目も現在の社交界で"花“と呼ばれる資格はあった。だが彼女は君も知っての通り、身勝手で傲慢で…そして美しい男が好きだった。

でも婚姻出来る相手はもう平凡な容姿の私しかいなかった。サリヴァン伯爵に他の相手はいないのかと尋ねて、自分に婚約の申し込みが一つもない事を知ってから、ようやく現実が見えたらしい。形だけの婚約と婚姻を行い、彼女はモルガン公爵の妻となった…」


父は母が親らしくない理由を語ってくれた。フロントライ公爵は、モルガンの文に対して武の家。一族の容姿は安寧の神曰く、"クールビューティ"。銀の髪に紫色の瞳だそうだ。母は確かにメンクイだ。クリストファーもずっと不倫相手だった庭師も美形だった。そう言えば、その庭師ってまだ庭師をやっていたような…父は平気なの?


「君が生まれてから、君が虚弱な体質と知り、優秀な乳母をマイケル〔コナー医師の事〕に頼んだら、君の母は暇を持て余していた。そんな時にメイプルが私の腹違いの弟と知って…生まれたのが、スコットだった。あの子が生まれた日は君や小さな君の弟たちが生まれた時と同じく覚えているよ。元気な産声で私が手を伸ばすとね、小さな手でぎゅっと握ってくれた。私にはこの子も守るべき対象だった。彼にも優秀な乳母を付けた。また暇になった彼女は、庭でぷらぷらして、庭師をしているもう一人の弟を見つけた」


「えっ!お父様…もう一人の弟!?」


ここでまたとんでもない爆弾が投入された。庭師も弟?


「驚くのも無理はない。彼はあまり表には出てこなかったからね。私の父は、私の母が亡くなってから、身分の低い娘ばかりに手を出していた。ほとんどは自分の動かせるお金で解決したようだが、そのお金とて、いつまでもある訳では…ない。庭師であるグレッグの母はモルガン家御用達の花屋の娘で、彼を身籠もるとやはり父に縋ったが、父の隠し財産も底をついていて支払う手切れ金はもうなかったらしい。父は愛人になる事を条件に囲おうとしたが、娘は弟を産むと男を作り逃げてしまったとか?残った弟は子どものいない庭師夫婦が面倒を見て、穏やかに生きていたが、あんな女に彼は目をつけられてしまった」


父が庭師を追い出さなかった理由の一つは、彼も被害者だったからだ。フロントライ公爵の御子息同様、母の身勝手な執着の被害に合っていたと推測される。


「あの…お父様は、ハリソンとロナルドにどう話されるのですか?庭師のグレッグさんの意見は?」


「彼は出来るなら、あの子らの父は自分だと名乗り出たいそうだ。彼はクリストファーと違い、庭師夫婦に愛されて育った。だからか、子どもを産みっぱなしにする君の母を理解出来なかったようだ。私はね、徐々に彼をあの子たちに近付けているのだ。父と違和感なく思われるくらいになったら、父が二人いる事にすれば良い。この件は問題ないと思っているよ」


わたしは父の話にただそうなのかと思った。







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