弟と叔父とわたし
(改)となっておりますが、サブタイトルの訂正のみです。
お騒がせして申し訳ありませんでした。
朝早めに起きたわたしは、スコットを起こし、軽く運動をした後、脱衣場に入った。
「あれ?誰かいるのですか?」
先にスコットが中に入ると人の気配を感じたらしく、声をかけていた。わたしは誰がいるか知っていた。リクエストで動きやすい服を着てきた彼は風呂場の掃除を終えた後だったようだ。
「おはようございます。スコット、こちらはジュゼッペさんの下で働いている執事見習いのクリストファーさんよ。彼はこれからあなたの身の回りの世話をすることになったの。世話といっても、これからする洗濯や掃除であなたの補助をしてくれるの。彼は一通りの仕事をこなせるそうよ。わたしも基本はスコットと一緒にいるから安心してね」
「おはようございます。クリストファー・ウェストンです。スコット様、"初めまして"。昨日は帰宅が遅くなり、お会い出来ませんでしたため、ご挨拶が本日となって申し訳ありません。これから、スコット様の身の回りのお世話を致しますので、よろしくお願い申し上げます」
「は…い、私はスコットです。よろしく…」
堅いな、うん。スコットに子ども特有の警戒心があるのは当たり前だけれど、クリストファーは、メイプルの時…も、ああ〜お堅かったわね。悩んでも仕方ないので、昨日脱いだ服を回収して、洗濯場に向かいましょう。
この世界は金属製の大きなタライに洗濯ものを入れて、オーガニックな石鹸とキレイな水と、流水でキレイにした足と手で踏んだり、叩いたりして洗う。
またですが風呂場と洗濯場にも湧き水が流れる壁があり、止めどなく流しっぱなしだわ。このスタンレイ山脈は潤い豊かな場所なんでしょうね。流しっぱなしを屈指して、洗濯ものをゆすぐの楽しい。昨日、スコットはこの楽しさに目覚めてしまったのよね。今も流水に手を伸ばしているし。
一方、クリストファーは黙々と煮沸用のカマドを熱魔岩で温めて、ゆすぎ終えた服をその中に入れていた。これはおそらく伝染病対策ね。前世とは違い、ワクチンがあるかどうかも分からないし、破傷風も怖いから、子どもたちに絶対土は触らせないようにしないと。〔父が雇った乳母たちは優秀な人たちだったので、子どもたちへそういった躾けはしていた。ただし、壁から出る流水は屋敷になかったので、不測の事態となってしまった〕
煮沸を終えて、手で触れるくらいになってから、洗濯ものを伸ばして、干し場に張られた無数の麻ひもに吊るした。洗濯バサミは木製でバネは鉄製だった。スコットは伸ばして干した洗濯ものを心配そうに見ていた。
「どうしたの?」
「なんで伸ばしてから干すんですか?」
ああ、結構手間な作業だから気になるよね。では…
「うん、その答えのために、このまだ伸ばしていない手ぬぐいをこのまま干しておきましょう。洗濯ものが乾いた時のお楽しみ!」
クリストファーはわたしの行動をハラハラしながら、見ていたようだ。あなたにはわたしがスコットにしている事を見て覚えて欲しいのよ。そんな調子では先が思いやられるわね。
洗濯を終えると次は朝食の用意だ。ジュゼッペ農園に三人で赴き、昨日聞いた収穫可能野菜を確認した。
「お姉様、昨日のレタスとハーブはここで収穫されたのですか?」
「そうよ、ただ土にはあなたもわたしも触らない方が良いので、慣れているクリストファーさんにお願いしましょう。クリストファーさん、今日収穫して欲しいのは…」
野菜の収穫後、調理場に入ると、ジュゼッペさんが待機していた。
「ジュゼッペさん、おはようございます。今日の予定は昨日お話しした通りです。父と弟たちは…」
「はい。旦那様にやっていただくのは大変恐縮ではございますが、食堂の掃除をしていただいております」
父と小さな弟たちは問題ないわね。では朝食を作りますか。はい、みんなメイド用のエプロンを…えっ?クリストファー、見覚えがある?だってこれは昔あなたが着ていた…ゲフンゲフン!
食糧庫内の冷魔岩室から、ベーコンと卵を持ってきたわたしは、レタスとトマトを洗って待っていたスコットとガラスの広口瓶を2、3個用意して煮沸消毒してもらったクリストファーにお礼を言った。スコットにレタスのちぎり方を教え、クリストファーにはお茶の用意をしてもらった。
ジュゼッペさんはパン屋がくる時間になったので、使用人用の門に向かっていた。
わたしはコンロの片方に目玉焼き用、もう片方にはベーコン焼き用のフライパンを置いて、焼き始めた。ちぎったレタスを小さなボウルのような皿に乗せ終えたスコットへ、ついにトマトを切る任務を与える。もちろん切り方を教えるのは…わたしです。〔クリストファーに教えさせようと思ったら、さりげなく躱されてしまった〕最初はわたしがトマトを縦に半分切って、ヘタ部分を切り捨てた状態で切るよう指示。左手を握って山の薄皮部分を押さえてまっすぐ切らせてみた。グチャッ!ど…んまい?では切り込みを包丁の切っ先でちょこっと入れてその上からすくように切ってみて。
スッ!
「アッ!?」
「スコット、上手く切れたわね。その要領で切っていって」
出来ないと思っていた事が出来た時の感動は半端ないよね?その笑顔や可愛いくてまた良し!この調子でいこう。
クリストファーは嬉しそうにトマトを切っていくスコットを見て、驚いた表情を浮かべた。スコットの嬉しそうな笑顔はとっても魅力的でしょ?
ジュゼッペさんが調理場に戻ってきて焼きたてパンを切り分けた。わたしは目玉焼きとカリカリに焼いたベーコンを平皿に乗せて、掃除の終わった食堂に向かう。
「おはようございます。お父様、ハリソン、ロナルド」
「おはよう、アイラ」
父は昨夜、自分を平凡な顔と言っていたけれど、ピンク色の瞳は大きめで、少年っぽい好奇心溢れる表情をよくする。今もわたしと手料理をキラキラした目で追い、口元は口角を上げていて嬉しそう。愛嬌のある男性だと思う。
「今日はモルガン一家と管理人さんたちで朝食にしましょう」
父たちがランチョンマットを人数分テーブルに敷いてくれたお陰で朝食がすぐ置けたわ。料理が温かい内にいただきますか。
朝食は昨日に引き続き楽しかった。ジュゼッペさん執事現役時代の父とのエピソードその1はとっても面白かった。スコットは洗濯や調理をした影響か朝食も完食していた。自分で切ったトマトを美味しそうに食べていて、少し目が潤んできてしまった。まだ始まったばかりで気は抜けない。スコットの心の地盤をわたしたち家族が固めて行くのだ。でもそれには本当の父であるクリストファーの心のケアも必要だと徐々に感じてきていた。
お昼を過ぎた14時頃、干した洗濯ものをスコットとクリストファーとわたしの三人で取り囲みに行った。そして先ほどの手ぬぐいの状態を見せた時、事件は起きた。
「洗濯ものをキレイに伸ばさないとこんな風にクシャクシャのまま、手ぬぐいが乾いてしまうのよ」
「そうだったのですね…ごめんなさい、お姉様…」
スコットは生まれて初めて洗濯をした。こういった失敗例を見せるのも何かの役に立つと思い、実例を見せてみたが、洗濯ものを一枚無駄にしたのも事実で、彼はそれに対して謝った。だが先ほどまで大人しかったクリストファーが冷たい目でスコットを睨むと口を開いた。
「…謝れば、済むとか…あなた様くらいの子どもでしたら、そのまま干したらどうなるか、分かりそうなものですが…ね。現にアイラ様は理解してらっしゃった。思ったより、出来が悪いのですね…」
「えっ?ちょっとクリストファーさん、急に毒舌…」
わたしは急に毒舌を吐き出したメイプルじゃなくて、クリストファーにビックリした。いや、さらに…
「なんだって?私は洗濯ものを干したのは初めてだ。お姉様は私のために実例を見せてくれたのだ。私は別に知らない事を恥ずかしいとは思わない。知ったかぶっている割にトマトも切れない三十路間近の執事見習いにとやかく言われたくはない」
ひっ!スコットってば、クリストファーがトマトが切れない事にわたしと同様の疑念を持っていたのね。だって家事は一通り出来るって言っていたのにおかしいと思うよね?野菜の収穫もあまり上手とは言えなかったし。これは…今度はジュゼッペさん案件だわ。とりあえず…
「スコット、わたしのした意図に気付いてくれてありがとう。知らない事は知った喜びでドンドン吸収していくものです。先ほどのトマトの切り方もそうね?今度は切り込みを入れなくても切れる方法を教えるわ…クリストファーさんと一緒にね?」
スコットはこの言葉を聞き、ドヤ顔をクリストファーに見せると洗濯ものを器用に外していった。ぶっちゃけ、クリストファーより取り囲むの上手い…ね。クリストファーは悔しそうな顔してから、わたしを涙目で見た。その目は捨てられた子犬のようで、スコットとどちらが子どもなのか分からなくなってしまった。
洗濯ものを畳むのも一度教えるとすぐ吸収するスコットの方が上手だった。クリストファーは上級メイドだったので、こういった仕事はしていなかったと思う。でも一通り出来ると言われたら、人はジュゼッペさん並みの働きを期待してしまう。わたしはジュゼッペさんにクリストファーさんの仕事的な状況を確認する事にした。




