別荘で半年経った家族とわたし
3日目までのわたしの日記帳を読むと、とにかく計画を遂行する事に気が向いていたようで、ある意味ストイックだったと思う。
でもね、この日記帳の内容が、いつの間にか違う方向に向かっているのよね。
というのも、4日目以降はスコットとクリスが一緒に何かする事が多くなり、2週間後には二人でキャンプに出かけ(といっても一応敷地内の森)、その最中クリスは自分とグレッグ師匠が父と腹違いの兄弟である事を告げた前提でスコットに自分が父である事を告白したそうだ。
スコットは割と早い段階で、そうじゃないかな?と思っていたらしい。まぁ、髪の色と手以外は似すぎていたものね。クリスはハリソンとロナルドの父がグレッグ師匠である事も話した。これにはスコットもショックを受けていた。でもクリスの献身的な愛に2週間浸かっていた彼は、母が普通の人間ではない事をもう理解していた。
またスコットは、自分と他の弟たちがモルガンの血は引いていても正統なモルガン公爵家の後継者ではない、後継者は姉のみだとクリスに強く主張したという。
そう、確かにわたし以外は正統ではないわ。母は先代モルガン公爵の子と生せば、父の子を産んだフリが出来ると思っていたようだけれど、魂宿神である安寧の神さまは、父の子以外には魂が繋がらない。当たり前だ。通常は当主の子どもにしか繋がらない仕組みなのだから。
母はこの事にまるで気付いていなかったのだ。子どものスコットですら分かった事なのに。
でも後継者はわたしだけ、これはマズイわ。わたしは元気になったとはいえ、また何か起きた場合、モルガン公爵家は終わってしまう。
でもこの事も危惧に終わる。苦い話ではあるけれど。
別荘に来てから、2週間後父に話があると呼ばれた。
「アイラ、弟たちと子どもたちの仲は順調のようだね?君のおかげだよ」
父は1週間前城からの呼び出しがあり、飛んで行って帰ってきたのがこの日だった。
「いいえ、特にわたしは何もしておりませんわ。グレッグさんもクリスさんも子どもたちを本気で愛しているのでしょう。わたしは…お父様の方が心配ですわ」
グレッグ師匠も来た次の日から、ハリソンとロナルドを構い出した。彼は来た当初大きな荷物を持ってきていた。あの中身は二人の為に彼が作った、オモチャだった。母が離縁されてようやく彼は我が子と抱き合えると喜んでいた。彼は子どもたちに頭を使って遊ばせるオモチャで文字を覚えさせたり、ダルマさんが転んだ(ボウさんがへをこいた)のような遊びもするようになった。快活なハリソンもちょっと内気なロナルドも次第にグレッグ師匠をパパと呼ぶようになっていた。
「アイラ、わたしはあの子たちの"父"である事に変わりはないのだよ。心配はしなくて良い。ただ…ここから話す事で私を…"嫌いにならないで"欲しい」
嫌いに?
「私は1週間前、城で正式に婚姻届を提出した。相手は城勤で知り合ったジャネット・グワトキン。四大公爵家と縁のない侯爵家の三女で24歳。私とあまり立場が変わらない役職の才女だ。彼女と私は昨日まで本邸で過ごして…そして…彼女は私の子たちを身籠ってくれた」
え?えーーーーーーーーーーーーっ!?
「安寧の神さまが教えて下さった。アイラが宿った時もそうだった」
ああ、安寧の神さまは優秀な妊娠検査神ですもの。
「だが、子どもたちが産まれた後、彼女とはすぐ離縁する予定だ。そういう契約で今回は婚姻している」
な…
「…んで、お父様!そのお相手に失礼です!子どもたち?あれ?双子?にも母は必要です。スコットの件で理解されましたよね?酷いです!酷すぎます!!」
「貴族は…そういうものだよ、アイラ。君の母より上位貴族の娘で、君の母に対抗出来る女性は彼女しかいなかった。当のジャネットは元々婚姻する気がない独身主義者で、子どもが産まれてすぐ離縁を望んだのは彼女の方だ。だが彼女は子どもという存在がどんなに素晴らしいか、初婚なので分かっていない。私は契約に彼女の逃げ場を作るつもりだった。でもね彼女は拒否してしまった。もう彼女は産む前から子どもたちと会えなくなる契約をしたのだよ。だが、子どもたちは私の子だ。いかなる場合でも連れ出す事は許さない。だから…アイラ、君はこんな愚かな婚姻をしてはいけないよ。分かったね?」
「お父様…その方を愛しているのですか?」
「愛がないから、離縁を了承した。私のためにも子どもは必要だった…」
お父様はそう言って、わたしに近付き抱きしめたけれど、わたしの心は恐怖で渦巻いていた。父が怖い…わたしはしばらく父の側に近寄らず冷たい態度を取るようになっていた。
半年経って改めて思う。父の後妻もかなりおかしい人のようだ。今24歳という事は亡くなった時のわたしの年齢に近い。お父様と同じくらいの役職ということは、前世的にはどこかの部の長ではないかな。お父様は公爵という肩書きもあるので役員クラス。同等の役職となると役員クラスか部長か。あの若さで、王族ではないので役員ではないわね。色々聞くと侯爵の娘という肩書きで、部長クラスになっている可能性が高い。なぜかと言うと契約結婚で"逃げ場を作らなかった"のですもの。本当に優秀な人は自分の逃げ場をちゃんと作るわ。父もああは言ってもそれが出来ている。また彼女は妊娠が本格的に発覚した後、実家には戻らず、モルガン邸の何故かわたしの部屋に入り込み、勝手にわたしの私物を使っているらしい。父が諌めても今は自分が正室であり、"娘の物は正室の物"とまるでどこかのガキ大将みたいな事を言っているとか?大事なものは安寧の神さまのアドバイスで金庫に入れておいて正解だったわ。しかしこの人、生まれは良いはずなのに人の物を使っても平気とか、かなり異常だ。実家の侯爵家にも戻れないところをみると、家族から見放されている可能性があるわ。父は女運が悪すぎではないかしら?
グレッグ師匠と新しく作った畑に野菜の種を植えた。半年も経てば、色々慣れてきて、ネギを長くする方法とかブロッコリーの生え方がモコモコしているとか、害虫駆除のやり方もわかるようになった。グレッグ師匠は来た日以来、わたしに抱きつくとかはなくなった。でもたま〜に凄く熱い視線を感じる時がある。例えば、今とか?
「師匠…あまりわたしを凝視しないで下さい。穴が開いてしまいますわ?」
「最近のアイラお嬢様はよく食べるようになった影響か、背も伸びたし、顔も大人っぽくなってきました。日々あなたの成長を見るのが楽しくて仕方ありません」
確かに最近のわたしは凄い量食べるようになった。別荘に来た日と比べると3倍くらい。背も今165センチに迫る勢いかも?横に育たないようにしないとね。最近鏡の前に立つと、豊かな長い黒髪を顎辺りで左右に師匠のような麻紐(でもさり気なく小花を挟んでいるの)で束ねたピンクの瞳の中学生くらいの少女が見ている。服も別荘に着た時の簡素なワンピースが着られなくなったので、クリスに測ってもらい簡素なワンピースを作り直した。
母方の祖父であるサリヴァン伯爵がたまにお手紙をくれるようになった。母はどうやら、実家に帰らず、友人の屋敷に住んでいると連絡があったそうだ。祖父は母が絡まなければ、お茶目で可愛いもの好きで、わたしが最近お花の髪飾りやブローチを作るようになった事を手紙に書いたら、ぜひ自分に似合いそうなブローチを作って欲しいと返信があった。祖父とわたしはお互いに魔箱で今の姿を記録して送りあっているので、容姿はよく知っている。祖父に似合いそうなお花は何かしら?
わたしは朝早く起きて、グレッグ師匠と敷地内の花のスケッチに行った。
「お嬢様は花が好きですね」
「わたしは7年間寝たきりでしたが、メイプ…クリスが素敵なお花をいつも活けてくれていて。わたしは生きることにいっぱいいっぱいで、でもそのお花たちにはいつも励まされていました。今思えば…あのお花はグレッグ師匠が育てたお花ですよね?グレッグ師匠、ありがとうございます。あの花たちを通して、わたしはあなたに励まされていたのですね」
今も師匠は別荘に来て以来ほとんど毎日、忙しい合間を縫ってわたしと一緒にいてくれる。どれだけ心強いか…
「お嬢様、あなたのそういうところが俺は愛おしくてたまりません。お嬢様とこうして何気ない時間を過ごせるこの一瞬も幸せなのです」
グレッグ師匠はそう言うと、ふんわりと笑顔を浮かべた。
…わたしも師匠のように髪を"麻紐"で結び、一緒にいる事が嬉しい。何故?わたしも…グレッグ……師匠を好きだから?好きだけれど、これは…………ラブじゃない、ライクの方!アイライクマスターグレッグ!
「わたしもです。師匠!」
こんな穏やかで優しい日々がこのまま続けば良い…のに。




