† 一の罪――堕天使斯く顕現す(拾)
魔王などという言葉ですら彼を表現するには生易しい。極太の光線が駆け抜けた街は、もはや煉獄そのものと化していた。
「……まあ四枚羽では此の程度、か」
派手に抉られた道に目を落とし、独白する破壊の権化。射線にいた怪魔はおろか、他の数十体も跡形もなく消滅している。
「あー、飛蚊症患者にゃきついってこれ」
植え込みから上体を起こして、変わり果てた大通りと俺を多聞さんが見比べた。
「まったく、なんてことをしでかしてくれたんだ……悪魔の召喚は厳禁だっておじさん言ったよねー。しかもよりにもよってルシファーなんて規格外とはやってくれたなあ」
「命令に違反し、取り返しのつかないことをした罰は覚悟の上です。でも実際あそこで奇跡にでも縋んねー限り、連中にみんな食われてたじゃないすか」
「結果論でしょ、まったく……この世の終わりかと思った」
尻餅をついたまま不平を唱える三条の瞳には、語勢に反して覇気が失われている。
「いやー、よかったよ、この世が終わらなくて。ルシくんも青臭いガキんちょの願いごとにのってくれた上、パワーもおさえてくれたみたいでありがとうね」
近所の主婦と居合わせたかのように、彼は魔王に話しかけた。上司の人間離れした胆力と、地形を変えた一撃があれで加減していた、ということに驚愕する。当社比百パーセントだったら、今頃は東京が二十三区じゃなくなっていたかもしれない。
「余は飽いていた。地獄の底にて悠久の刻を過ごしていた折に、稀有な魂の味に誘われたまで」
淡々と述べる彼だが、どうやら呼び出されたことに怒ってはいないみたいだ。
「ノリいいんだねー。でもいろいろ大人の事情があってさ。この様子を証拠としておさえられちゃったら、おじさんの首が飛んじゃうんだわー。たぶんいろんな意味で」
「案ずるな。斯様に畏れを知らぬ酔狂な者の顔を拝す為に、余が手ずから赴く訳無かろう。我が肉体は地獄に在る。具現化した身は人間の文明――」
言い終わるより先に、シャッター音が鳴った。
「ホントだー。ルシくん写ってない」
ちなみに、私も多聞丸と同じく飛蚊症を疾患しています。
視界を半透明の浮遊物が漂うようになって「我が厨弐力も極みに達し、遂に妖精が視えるようになったのかー(ワクワク)」と興奮していた矢先に、目の病気と判明した時の切なさorz




