次回への階段
会場の雰囲気は一気に静まり返っていた。
「さあ、今日の試合はこれで終わりです」
そうアナウンスが流れる。
「一体どうなっているんだ? なぜかここの人達は異様に静かだ。さっきまでの感じとは全く違う。まあ、終わりなら戻るか」
俺は重い体をなんとか持ち上げる。そしてマイルが待つ待合室に戻る。
「キク殿。もう戻ったのか。予定が変わったのか?」
マイルはよく分からないことを言う。
「いや、普通に戦っていたと思うけど……。なんか力を出し過ぎたせいかは分からないけどあまり覚えていないんだ。でも相手は倒れていたから多分勝ったと思う」
俺は自分の状況をわかる範囲で精一杯説明する。
「変だな。私も全然記憶にない。いや、私は確かに見ていたという感覚はある。私はなにか見てはいけないものを見てしまったのか?」
マイルもこの異様さに頭を抱える。
「コンコン」「入るぞ」
兵士達が入ってくる。
「上から試合中止の判断が出た。どうやら相手が原因不明だが、突然倒れたらしい。それでも不戦勝という扱いになるらしいからそこは安心しろ。さあ、今日は少しグレードアップした部屋だ。Aランク部屋のな」
俺達は兵士達についていく。
「やっぱりAランク部屋だな」
マイルがそういうように、部屋は確かに前よりも豪華になっていた。しかし、それよりも驚きなのはその広さだ。
「うわー 広いな。体育館ぐらいあるぞ。あれって誰だ?」
部屋の隅には一人の男が立っていた。
「あいつはここの部屋の執事だ。好きに使ってくれ」
兵士の一人は言う。
「えーー 囚人なのに執事を使えるのか」
「とりあえず休むか」
マイルは近くにあったフカフカのソファーに座る。
「ねえ執事さん。ここにはどのくらいの期間いるのですか?」
俺は聞く。
「私はもう20年くらいになります。その内のほとんどはサック様のお世話をしていました」
「そうか、そういえばマイルが倒したやつだよなサックて」
「まあ、サック殿も強かったという事実には変わりない。だが、経験不足だな。今まで格下としか戦った事が無いのだろう」
マイルはそう言いながらくつろぐ。
「あっそうだ。ウルバイってどういう奴なんですか?」
俺は対戦相手の事を聞く。
「あの方は異常です。魔術のプロです。唯一彼を抑えられるのはライジング様だけです。私はそれだけの事しか知りません。しかし、今回は驚きました。あのウルバイ様が棄権なさるとは」
「棄権だったのか。まあ、勝ったのならいいか。戦ったら勝てるかな?」
俺はその話を聞きながらそんな事を思う。
「ピピっ」
「ウォータープロテクト再起動。これより主の体の回復を始めます」
ウォータープロテクトが俺の体を治していく。
「ふうーー ありがとうウォータープロテクト。それで聞きたいのだけど俺は一体どうなっていたんだ?」
「キク様の体を少しお借りしましてウルバイという魔術師を倒しました。その際ですが、少々力を使い過ぎてしまったようでキク様の体と脳に軽い負担がいったようです。申し訳ございません。私の力不足です」
「ええ! 俺って勝ってたの!?」
俺はウォータープロテクトからの報告を受けて驚く。
「記憶がないのはそのせいですキク様」
「なるほど、でもなんで他のみんなも覚えていないんだ?」
「それはこの戦いが高度なものだからです。一般の魔物、人間の脳には対処し切れない情報が含まれています。そのため戦いの光景を見た者は脳が自ら強制的にシャットダウンするのです」
「まじか…… そんなすごい戦いだったのか。それにしてもウルバイって奴はなんなんだ?あいつも人間なんだよな?普通の人間が見た瞬間に気絶するほどの攻撃を繰り出すなんて……」
俺はベッドに横になりながら考える。
「キク様も途中まではご自身で戦闘をしていましたよ」
「え! 俺も。で、どうやって……」
「キク様がそれを出来たのはこのウォータープロテクト、私が処理の一部を負担していたからです。そうすれば一度に大量の処理も可能です」
「そうか。そういえばそんな事前からやってたもんな。ウォータープロテクトが分析をして俺がその行動をとる。その延長線上っていうわけか」
俺は自分で納得する。
「そうです。そして相手もそれと似たような事をしていたのでしょう。魔法を使って」
「それは大いにあり得るな。まあ、勝ったって分かってスッキリしたよ。ほとんどはウォータープロテクトがやったけどね」
俺は心のモヤが晴れた気持ちがした。
「それは誤解ですキク様。私はキク様の能力を使って勝っただけです。通常の状態ではキク様は無意識に脳から制御を受けています。それは技や動き、感覚など。体はそれを百パーセント出してしまうと、その代償で大きな負荷がかかります。だから普段はそうならないように制御されています。これは至って正常な反応です。私はただその制御を外し、キク様の本来の力をお借りしただけです。決して私の力ではありません」
ウォータープロテクトは謙遜して説明する。
「本来の力か…… 。 もしそれが俺自身で出来たのなら下位スキル以外にも使えるかもね。例えばアルティメットスキルとか」
「その可能性はあると思いますよ」
ウォータープロテクトはただそれだけを言う。
「マイル、どうやら俺、勝ってたみたいなんだ」
俺はマイルに報告する。
「本当か! やっぱりそうだと思った。さすがだキク殿」
マイルは寝ていた体を起こして言う。
「まあ厳密に言うと少し違うけど」
「そんな細かい事はいいから。とりあえず明日交流会の仲間達に会いに行こう。今日はゆっくり休んだ方が良い」
「そうだな。あっ、そうだ執事さん。なにか眠れそうな曲をかけてください」
俺はそんな気分がしてお願いする。
「分かりました。どの曲をお聞きになりますか?」
「おまかせで」
「分かりました。ではこちらをおかけします」
そうして音楽が流れ始める。
「マジかよ……。全然寝られるような曲じゃないじゃん。何このゲームの戦闘曲みたいなやつ。それにシンセサイザー系かよ。なんか特徴的だな」
俺はそんな事を思いつつも自分がおまかせと言ってしまったので今さら曲を変えてくれとも言い出せず。仕方なく目を閉じるのだった。
そして翌朝。
俺は朝日で目が覚める。
「意外にあの曲でも寝られたな」
俺はスッキリした気分で起きる。
「朝食が出来ていますよ」
そう執事が言うと、テーブルの上に続々と料理が運ばれてくる。
「朝からこんなに……」
そんな事を思っているとマイルも起きてきた。
「美味しそうだな」
マイルは一目散にテーブルに向かう。
「マイルってすごいなあんな食欲があって」
そうして俺達は朝食にしては気が入り過ぎた食事を堪能するのだった。
「はあーー 食べた。いやー 朝からこんな豪華なものが食べられるなんて。どうしたキク殿。体調でも悪いのか?」
「いやー 体調は大丈夫だけど……」
俺は食べ過ぎで動けなくなっていた。
「おいしくてつい食べちゃったよ」
「そんなことか。少し休憩したら交流会に行くか」
「そうだな」
そうして俺達は数時間後に交流会に向かう。
「バタンっ」
俺達が部屋の扉を開けて入った瞬間、それまでのガヤガヤしていた音はピタリと消えた。
「え、なんか俺達は悪いことしたかな?」
俺はその様子に少し戸惑う。
「よく戻って来た。今日は祝いだ!」
一瞬で静まり返った会場は再び盛り上がる。
「なんだそういうことか」
「おめでとう」
ゴロンが近づいて来る。
「ありがとうゴロン」
「早速なんだがマスターがお呼びだ。話したいことがあるらしい。どうやら極秘らしくて俺にも教えてくれない」
「分かったすぐ行くよ」
そうして俺とマイルはバーへ行く。
「マスター話っていうのはなんですか?」
俺がそういうとセリウスは真剣な表情でコップを置き顔を上げるのだった。
今回は話が長くなりました。




