潮の満ち引き
「やはりな……」だんだんとモヤが晴れていく光景を見てミムラは呟く。
「我の本体を見極めるとはさすがだ」
カラミティはそう言いながらさっきとは違い短髪になった姿を現した。
「実はお前達の技を見ただけだと何か心配でな、おとりを使って調べていたのさ、見つかるとは思っていたが、まさかこんな早くにバレるとは。しかし、そのおかげでさらにお前達の特性を理解した」
カラミティは相手を見下したような笑顔を浮かべる。
「ああ、そうだな、これでやっと僕達も本気を出せる」
ラミルが言う。
「ほお、最初とは随分様子が違うなラミルよ」
カラミティが言う。
「僕も今までの戦いでお前の事を研究していたんだ。そして分かった、水流の流れのように戦う。それが一番のお前の弱点だってな。キク!頼むぞ!」
ラミルが突然、俺に呼びかける。
「発動!アイソレイトシステム!」
ラミルが静かにそして力強く言う。
「何!? まさかお前、空間移動系の技を使えるのか?」
カラミティはこの戦いで初めて焦ったような表情をする。
「ああ、お前の動きを見て、今習得したんだ。いくらお前が僕の技を知っていようとも、新しく技を習得してしまえば何も影響はないからな。そして、これはある運命の中の一つだ。さあ、キク! 存分にやってくれ」
ラミルが意気揚々に言う。
「ちょっと待ってよ。さっきから何が起こっているのか分からないよ」
俺は咄嗟に今、自分が置かれている状況を説明する。
「それでいいんだ。それが魔王カラミティに対抗する唯一の手段なんだ」
ラミルは頑なに説明しようとしない。
「パチンっ」
ラミルが指を鳴らすと俺とカラミティは別空間に飛ばされた。
「なるほどなラミル。この人間と一緒に送り込むことで封印の形を取ったか」
カラミティが不思議な事を言う。
「まあいい、つまりこの人間を倒せば良いって事だな」
カラミティは俺の方を向いて、攻撃の体制に入る。
「まずいって、なんかさっきよりも強そうだし、いわゆる第二形態っていうやつか」
そう思っていると、どこからともなくラミルの声が聞こえてくる。
「キク、君ならやれる。さっきのヒントと僕が言った事を思い出してくれ」
そう言ってラミルの声は遠くなっていく。
「全然分からない……」
そう思っているとカラミティは攻撃を仕掛けてくる。
カラミティの攻撃はさっきと比べて恐ろしく速い。
「なんて攻撃だ。でもなんとか頑張って対応する事ができている。よし、次はこっちの番だ!ファイヤーストーム!」
俺は技を打つが、やはり外れてしまう。
「どういう事だ?確実に狙っているのに……」
カラミティの攻撃は止まらない。
「でも、なぜか何も自分から攻撃を仕掛けないと上手く行く。もしかして…… よし、このまま俺の体の反応の任せてみよう」
そうして俺は、カラミティの攻撃をなんとなく弾いていく。そして、それは次第に防御から攻撃へと変わっていく。
「俺はさっきと違って相手に攻撃を加えようとしていない。しかし、勝手に技が出ている」
「まずい、あの人間の本能が強すぎて思うように操作できない。さっきまでは、あいつの思考から攻撃が出ていたのに、今は全く読み取れない」
そうカラミティは息を切らしながらいう。
「なんか不思議な感じだが、相手はさっきよりも余裕の表情が無くなっている。しかし、何か分かりそうで分からない、今の俺に何が起こっているのか……」
そう考えていると一つひらめきが出て来た。
「待てよ、ラミルのヒントのあの時計、何か変だ。分かったぞ、カラミティは相手の思考、癖を全て考慮して攻撃がどのタイミングでくるか、予測しているんだ。
そして、その直前で、その攻撃の流れを止める。つまり、相手の攻撃の直前の時間を自分の意思で変えて、さらに自分の攻撃の流れをそこに組み込む事によって相手に何もさせないようにする。
だから俺は自分から攻撃しようとすると必ず止められてしまう。それを回避できるのが自分の本能で繰り出す技というわけか。
俺の本能という一本の流れが俺を勝利に導いてくれる。まるで小さな水の流れが自由気ままに坂を流れ下っていくように、発動!ウィル・メインストリーム!
これも不思議だ。なぜかこの言葉が脳に浮かんできた」
俺はそのまま、カラミティの攻撃を弾きながら少しずつ打撃を与えていく。
「ぷはっ」
「こいつ、さらに自分の流れを強くしていっている。我にはもう操作する事はできない」
そして俺の二連蹴りがカラミティに直撃する。
この二連蹴りも俺がやろうとしたことではない、体が勝手にそうなったのだ。この場所、この風の流れ、そして音の反響、全てが関与してこの攻撃を生み出した。
まさに奇跡と言うべきであろう。
「パチンっ」
ラミルが再び指を鳴らすと元の場所の戻ってきた。
「キク、よくやった、これは君にしか出来ないことなんだ。人間が元々持つ運命の力のおかげだ。僕はさっきこのことを理解した。キクは必ず勝つ運命だってね」
ラミルが言う。
「ああ、そうみたいだ、一番重要なのは己自身の時の流れ、つまり運命。運命と本能は直結している。勝つか負けるかは、己の運命を最後まで信じ切ることができるかどうかだ」
俺は自分でも驚くぐらい深く考えていた。
「なんと、まさかこいつが賢者の候補とは…… しかし、我もこんなところで屈していられない。最初言った話で我が人間に憎しみの感情を持っているのは事実だ。なんとしてもこの思いを晴らしたいのだ。この世界の軸を司る者よ、最後に力を貸してください」
カラミティがボロボロになりつつ最後の力を振り絞って何かの儀式をする。その時、裏で今までの戦いを見ていたソーダがカラミティのところへ行く。
「カラミティ様!その儀式を行なってしまうとあなたは天軸世界へと行ってしまいますと、もう二度と戻って来れなくなってしまいます。どうか考え直してください。カラミティ様!」
ソーダは一生懸命に呼びかける。
「ソーダよ、我はこの憎しみを晴らせるのなら、この世界に戻って来れなくたっていいんだ。お願いだ。最後に我の唯一の願いを叶えさせてくれ」
ソーダはその言葉を聞いて黙り込む。
「すまんなソーダよ、お前は本当に優秀な部下だ。我はこの力を使い、時、場所、そして存在自体を書き換える。力をお借りします。発動!シラカミ!」
そうカラミティが唱えると、今までの空間は徐々に崩壊していく。
「ラミル!どうなっているんだ?」
俺はラミルに聞く。
「分からない。だが、何か大変な事が起ころうとしている。どうやら僕達に止める術はないようだ」
そして次第に崩壊していく範囲は広くなっていく。
「キクの運命の力も崩壊されてしまってはどうしようもない。まるで川が干上がった状態だ。ここには運命のかけらもない」
そうラミルが言う。
「いや、まだ私達が存在していると言う事はまだ運命の力はあるんだ。干上がった川でもまた雨が降れば、元に戻る可能性がある。運命もそうだと思いたい」
ソーダはそう言ってカラミティのそばにいく。
「世界の軸を司る者よ、最後に力を貸してください。トレド!」
ソーダがカラミティの時と似たような儀式をする。
「ソーダ、お前! どういうことだ」
カラミティは大声で言う。
「カラミティ様に恥をかかせるわけにはいきません。去り際はきちんとするべきです。私がその手配をしましょう」
「もしかして、ソーダは自分の身を犠牲にして、止めるつもりなのか」
ミムラは言う。
「そうですミムラさん。私はカラミティ様に一生付いて行くと決めました。そして、最後のこの瞬間も共に散るために今までやって来ました。最後に皆さんにご迷惑をかける事はできません。どうかカラミティ様をお許しください。
この方はずっと今まで憎しみを抱えて生きてきた。でも、今、こうしてその憎しみをあなた達のおかげで晴らす事ができている。
憎しみを晴らす方法は復讐なんかじゃありません。
自分自身がやり切ったかどうかです。そしてカラミティ様は今、そう感じているはずです。そして私はカラミティ様の去り際は華やかなものにする。それが私達とカラミティ様の約束だったのです。
これが私の最後の任務です」
そしてソーダはカラミティの方向に手をかざすと神々しい光が辺りを一瞬で包み込む。
「うわっ、眩しい」
そう思った次の瞬間、ソーダとカラミティの姿は跡形も無く消え去っていた。
そしてカラミティが居たであろう場所には一本の百合の花が咲いていた。
それを見ていた俺達は、その一本の百合の花を見て、言葉は発さないが三人共に同じことを思っていた。
部屋の端にある小さな窓から漏れ出る光は、俺達を強く照らした。
「なあキク、僕達のこの世界は案外捨てたもんじゃ無いと思わないか?」
そうラミルに聞かれて、俺はただ頭を上下に振って返事を返した。
そうして俺達はついに念願の魔王討伐を成し遂げた……
「報告いたします。勇者成立条件を満たしました。」
そうウォータープロテクトが言う。
「何だ?勇者成立条件って?」
「勇者成立条件とは、簡単の言うと勇者になる資格を獲得したと言うことです。今回、魔王を討伐した事で獲得しました」
ウォータープロテクトが淡々と説明する。
「おい、キク!行くよ、みんなが待っているんだから」
「そうだね、行こう!あっ、そういえばカルベロス達は大丈夫かな」
「あっ、すっかり忘れてた」
ラミルが言う。
「大丈夫ですよ。カルベロス様は強いお方です。きっと強敵が現れても何とかするでしょう」
ミムラが言う。
「そうだな、じゃあ安心して帰れるな」
そうして俺達はまたいつも通り村へと帰還するのだった。
「ねえ、カルさん、そろそろ帰ろうよ、魔王も倒されたみたいだよ」
ウニヤがカルベロスに言う。
「え! 魔王が倒された!」
カルベロスは驚きを隠せない。
「うん、反応が無くなっている。きっと、カルさんのお仲間がやっつけたんだね。しかし、カラミティを倒すなんて。私の良い遊び相手になりそうだね」
ウニヤはニコッと笑う。
「そうだな、みんな、村へ戻るぞ。どうやらもう魔王はいないみたいだ」
そうしてカルベロス達も、一人の怪物を連れて村へ戻るのだった。
一応第一章の最終話です。だいぶ技のところとか説明が複雑になってしまったのが難点です。
もっと、練習をしないといけませんね。改めて、この作品を読んでくださった方、そして評価をくださった方、本当にありがとうございます。




