5.夢の守り人
雪は降り続いていた。世界は白く沈んでいく。僕の周りだけが赤と黒に染まっていた。
すべての影は消えた。ようやく消せた。
寒くて全身が震える。なのに割かれた肌、貫かれた足は熱を帯び、そこだけが強く脈打っている。乱れた息が空気を白く濁らせ続けた。
傷つき、倒れた勇者に雪が降り注ぐ。乳白色の光を放つ彼女に積もることはなく、僕の血と踏み乱した跡を覆い隠していく。
気が付くと、王さまの夢がそばにいた。身をかがめると、彼女の顔を慈しむように撫でる。微笑んだ彼女の体を抱き上げると歩き出した。青年の足元には幼い子供がいた。
僕も立ち上がる。傷ついた足が言うことを聞かず、前のめりに転ぶ。胸を打ち、息が詰まる。霞んだ目に映るのは幼子の足元だけ。小さな青い影が幼子の足に触れ――消えた。
気の……せい?
分からない。考える気力が湧かなかった。
足を引きずり、夢に遅れないよう歩くのが精いっぱいだった。
月影に入ると、勇者は消えた。青年は幼子を抱き上げ、語りかける。幼子はきょとんとした顔で聞いていたが、青年の顔を小さな手で撫でた。青年は優しく微笑み、涙をこぼした。
青年が幼子の小さな首にペンダントをかける。黒い星の散った濃紺の石がついたペンダントを……。
夢は正門から王城へと戻った。
僕は裏門へと回り、門番に声をかけた。僕の姿を見た門番は唖然とし、嫌悪も露わに言った。
「強盗でもしてきたわけじゃないだろうな? アウルカ」
僕は唇を噛みしめ、首を振るしかなかった。夢は他の誰にも見えない。夢守の才を持つものでなければ。僕たちが……僕がなにをしているのか、理解できる人はいない。
小屋に戻ると、力が抜けて床に倒れた。ベッドまで這いずり向かうと、毛布を引っ張る。ふわり。落ちてきた毛布に包まり、床に転がったまま目を閉じた。
あれは、なんだったのだろう。
王さまに似た青年。
勇者の銅像から抜け出してきた女性。
子供。
彼らの戦い。
影。
アウルカの戦い。
黒い星の散った濃紺の石。
魔王の呪い――。
勇者の――記憶。
分からない。なにも分からない。
師匠が消えた日、僕は夢守になった。
アウルカは、僕だけになった。
師匠……どこへ行ったのですか?
冷たい床が体温を奪っていく。毛布に沈み、僕は夢も見ずに眠った。
そして、また夢は抜け出してくる。
完




