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異世界建築無双《BLUE COLORS》〜BIMとCADが使える俺、美少女領主に雇われ、伝説の職人たちを率いて理想の街を爆速で竣工させる〜  作者: beens
第6章:月面開拓編

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第2話 真空の理(ことわり)――超高強度・分子接合溶接

応急処置で気密を取り戻した月面ドームだったが、ひび割れた強化外壁は依然として不安定なままだ。空気のない真空の世界では、地上のような「接着剤」や「コンクリート」は使いにくい。だが、この過酷な環境こそが、最高の溶接環境ラボでもある。

「……エレナ、準備はいいか。ここからは『真空』という最強の味方を使って、このドームを分子レベルで一体化させる」

俺は作業服の酸素残量を確認しながら、巨大なひび割れの前に立った。真空状態では、金属の表面に酸化膜(酸素と反応してできる錆のような膜)が形成されない。そのため、磨き上げた金属同士を接触させるだけで一体化する「冷間圧接」や、不純物の混ざらない極めて純度の高い溶接が可能になるのだ。

 俺が提案したのは、魔導レーザーを用いた『真空電子ビーム溶接』の応用だ。

「ガッツ! 特製のニッケル合金製『肉盛材にくもりざい』を用意しろ。ひび割れの溝に、一ミクロンの隙間もなく流し込むぞ!」

「おうよボス! だが、ここは空気がねえ。溶接の熱が逃げねえから、やりすぎるとドーム自体が熱で歪んじまうぞ!」

ガッツの指摘は正しい。地上なら空気への熱伝導(対流)で冷めるが、真空では「放射」と「固体への伝導」だけでしか熱を逃がせない。一箇所を熱しすぎれば、強化ガラス状の外壁が熱膨張で爆発しかねないのだ。

「分かってる。だからエレナ、お前の出番だ。魔力による『ヒートパイプ・冷却陣』を展開しろ。溶接箇所から発生する熱を、ドームの反対側の影の部分へ強制的に転送するんだ」

「了解ですわ! 熱力学の法則を魔法でバイパスしますわよ!……冷却同期、完了! 一ノ瀬様、いつでも焼いてくださいませ!」

 俺は右手に持った魔導溶接機を起動した。

青白い極細の光線が、真空の闇を切り裂き、ひび割れた断面を正確に捉える。

「……焦るな。表面だけを溶かすんじゃない。母材ぼざいの深部まで熱を浸透させ、新しく流し込む合金と『一つの金属』に編み上げるんだ」

シュゥゥゥ……と、骨に響くような微細な振動が伝わる。

空気がないため、音は一切聞こえない。だが、ゴーグル越しに見える溶融池ようゆうちは、これまで見たこともないほど澄み渡り、銀色の鏡のように美しく輝いている。大気による汚染(気泡の混入)がゼロだからこそ成し得る、究極の溶接品質だ。

「フィラ! 溶接ビームの裏側に回り込んで、反対側の『裏波うらなみ』を確認してくれ! 貫通ペネトレーションは十分か?」

「バッチリだよ、聖! 向こう側まで綺麗に金属が溶け出してる。まるで、最初から一枚の板だったみたい!」

 数時間の極限作業を経て、全長50メートルに及ぶひび割れは、鈍い銀光を放つ一本の美しい「筋」へと変わった。もはやどこが割れていたのか判別できないほど、ドームの外壁は完全に一体化している。

「ふぅ……。これで強度は元通り、いや、以前の1.5倍は確保したはずだ」

俺が溶接機を置くと、ドーム内から歓声が聞こえてきた。基地の管理ゴーレムたちが、無機質な電子音で感謝を伝えてくる。

「一ノ瀬様、素晴らしい出来栄えですわ。非破壊検査ひはかいけんさの結果もオールクリア。真空を不便なものだと思っていましたが、これほど完璧な工事ができるなんて」

エレナが感心したように、新しく接合された壁を撫でる。

だが、その時。ドームのさらに深部、溶接によって安定を取り戻したはずの床下から、重低音の「拍動」が響き始めた。

「……ボス、変だぜ。ドームの気密が戻った途端、地下の『休眠システム』が勝手に動き出しやがった」

ガッツが床に耳を当てて警戒する。

俺たちは直感した。この月面基地は、ただの居住施設ではない。

何千年もかけて、月そのものを「改造」しようとしていた巨大な工場の、ほんの入り口に過ぎなかったのだ。


今回の建築・土木用語解説

• 真空溶接: 空気がない場所で行う溶接。大気による酸化や不純物の混入を防げるため、航空宇宙分野などで使われる超高品位な接合が可能。

肉盛材にくもりざい: 欠けた部分や溝を埋めるために、溶かして付け加える金属材料。

母材ぼざい: 溶接される側の元の材料のこと。

溶融池ようゆうち: 溶接中に金属が溶けて水溜まりのようになっている部分。ここをコントロールするのが職人の腕の見せ所。

• 非破壊検査: 構造物を壊さずに、内部の傷や欠陥を調べる検査。レントゲンや超音波などが使われる。

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