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未来を変えるために

 夜になって、重兼は北条義時邸を訪れた。

 日中の義時が公務で忙しいのもあるが、出来る限り秘密にしておきたい話があるからだ。

「義時様。 まずはこのような時分に訪れた事をお詫びいたします」

 義時の私室に通されて、重兼はまず丁重に詫びる。

「構わぬ。 どうやら重大な用件のようだからな」

「おっしゃる通りにございます」

 さすが、洞察力が凄い。

 本当にそう思う。

 そこで重兼は、伴をしてきた経義親子に目を向けた。

「二人とも、席を外してくれ。 義時様もどうか人払いをお願いします」

「分かった。 お主達も席を外せ」 

 義時は同席していた下人を下がらせた。

「して、話は何だ? つまらん話ならば許さんぞ?」

「断じてその様な事はありませぬ。 幕府の、将軍家の未来に関わる話、進言でございます」

「何だと!?」

「先代の将軍、頼家公の御子息達の事ですが……」

 重兼が口にしたのは二代将軍頼家の遺児、千寿 公暁、禅暁ぜんぎょうの事だった。

 先日、泉親衡達に担ぎ出された千寿丸は鎌倉にいるが、残りの二人、公暁と禅暁は出家してそれぞれ近江国の三井寺園城寺と京都の仁和寺にいる。

「……それがどうした?」

 義時はいささか戸惑っているようだった。

 重兼の来訪の目的を、恩賞の礼か何らかの要求だと思っていたらしい。

「御三方とも鎌倉において、幕府の庇護の下におくべきと考えます。 先日の兵乱の如く、どなたかを旗頭にして挙兵する者が現れるやも知れませぬし、或いは……」

「或いは?」

 重兼は言葉に詰まった。

 このまま事が進めば六年後、公暁が実朝を殺害するのだ。

 それを防ぐために公暁を、念のために他の二人も幕府の監視下におく。

 それが重兼の構想だったが、義時に言えるはずもない。

 何故、そんな事が分かるのか。

 そう聞かれたら、未来を知っているからだなどと言ったところで信じてもらえるはずもない。

「どうした。 早く申せ」

「……」

 迷った末に、重兼はある程度曖昧に話す事にした。

「何者かが、御三方のうちのどなたかを唆して将軍を害するやも知れぬと思いまして……」

「将軍をすげ替えようとする者が出てくると言うのか?」

「いかにも」

 義時は腕組みをして、考え込んだ。

 少しして、口を開く。

「誰が、張本だ?」

「えっ?」

「だから、誰がその様な事を企むのだ?」

 これまた、回答に困る問いだった。

 このままだと実朝暗殺事件が起きるのは、重兼は知っている。

 しかし、事件の真相は知らないのだ。

 二十一世紀の日本でも明らかになっていない事を答えるなど、出来る筈もない。

 公暁の背後に黒幕がいた説、単独犯行説があるが、どれも決定打に欠けている。

 しかも黒幕存在説の中には今、重兼の目の前にいる北条義時黒幕説もあるのだ。

「張本人は貴方です」

 などと言えるはずがない。

 そこで、少しは信憑性がありそうな名前を出す事にした。

「三浦義村殿が、公暁殿を唆すやも知れませぬ」

「左兵衛尉が?」

 義時は怪訝そうに聞き返した。

 重兼は頷く。

 重兼が三浦義村の名前を出したのは、一応根拠があった。

 公暁は、三浦義村の妻が乳母を務めており、息子(次男)の駒若丸が稚児として仕えていたはずだ。

 その接点を利用して公暁を操る事は出来るだろうと思ったのだ。

 義時を見ると、真剣な面持ちで考えている。

 邪魔にならないように黙っていたが、しばらく待つと、口を開いた。

「下がれ」

「はっ?」

「下がって良い」

「……」

 失礼な対応だと思ったが、こちらの伝えたい事は話したのでもういいだろう。

「それでは某はこれにて」

 一礼して退室する。

 部屋を出ると、額戸親子が待っていた。

「お館様。 いかがでしたか?」

 最初に聞いてきたのは父だった。

「申し上げたい事は全て伝えた。 あとは執権殿が信じて下さるかだな」

「左様でしたか」

「如何なる話をなさったのですか?」

「氏経!」

 主君に尋ねた息子を、経義が咎める。

「我等に聞かせられぬ用件ゆえに、お館様は人払いをされたのだ。 それが分からぬか!」

「あっ……」

 氏経は慌てて口元を押さえる。

「し、失礼をいたしました。 どうかお許しを」

「良い良い。 氏経。 また一つ学んだな。 これからも父に学ぶのだぞ?」

「ははっ!」

 恐縮しきりといった様子の氏経が、勢い良く頭を下げた。



 重兼が出ていったあと、義時は真剣に考えていた。

 三浦義村が公暁を操って実朝を討つ?

 そんな事があり得るだろうか。

 確かに義村は公暁とは関係が深い。

 妻が乳母を務めていた縁で、何かと面倒をみている。

 しかし、公暁は実朝の猶子、地位や財産の継承権を持たない養子なのだ。

 実朝が死んでも将軍にはなれないし、殺したとなれば尚更である。

 それに、兄の千寿丸が健在である。

 今の時点では、実朝を殺しても利は無いはずだ。

(しかし……)

 義時は、重兼の言った事を戯言と片付けるには少し抵抗を感じた。

 三浦義村。

 この男の存在が気になるのだ。

 先の和田合戦の勝利の要因は、彼が和田義盛を裏切った事が大きい。

 しかし、その後の論功行賞の件(虚偽申告)で充分な恩賞が貰えなかったことで、不満を抱いている節がある。

 しかも、仲間を裏切った事であまり信用できない。

 御家人達の評判もかなり悪い。

 特に相模国の御家人には。

 いくら三浦一族の分家といっても、和田義盛は長年侍所別当として御家人の統括にあたっていた事もあり、大多数の御家人にとっては身近な存在であった。

 それを裏切ったのだから 、義村の印象は義時以上に悪い。

 義村本人は侍所別当の地位を望んでいるようだが、幕府のお膝元である相模国の御家人達から嫌われている以上はまかせるわけにいかない。

 有事の際の御家人動員に支障がでるやも知れないからだ。

 そんな男が他人を操って実朝を殺して、新将軍を擁立したとしても、支持を得られるだろうか?

 まず、無理だろう。

 しかし、頼家の遺児が謀反の旗頭になるというのはあり得る。

 幕府創立以来、急速に勢力を伸ばした北条家に対して反感を持つ御家人は多いのだ。

 その中には、三浦義村も含まれている。

 嫡男の泰時と義村の娘が結婚しているが、どうも信用できない。

「一応、手は打っておくか……」

 義時は呟いた。



「まずは、一つ片付いたな」

 重兼は屋敷に戻って一息ついた。

 あとは武田信光に会って、甲斐国内の金山を発見、開発するよう勧めるだけだ。

「お館様、お疲れ様です」

 私室に戻ると額戸親子が頭を下げた。

「いや、大したことはない。 それより、信光殿の件は……」

「明後日の午前に会うのがよろしいかと。 その日の大番役は午後かららしいので、それまでに宿舎に出向かれると良いでしょう」

 すかさず氏経が答える。

 父親の方は、苦笑いしている。

 おそらく氏経が、自分に調べさせてほしいと懇願したのだろう。

「そうか。 では氏経の言う通りにしよう。 あと、手土産はいらないからな。 大番役の最中に酒などを持って行く訳にはいかないからな」

「はっ」

 氏経が嬉しそうに頷く。

 自分の仕事が評価されたのが嬉しいのだろう。

「二人ともご苦労だった。 もう、休んで良いぞ」

「ははっ」

 一礼して二人は退室する。

 後ろを歩く経義が息子の背中をポンポンと叩く。

 良くやった。

 そう言いたいのだろう。

 微笑ましい光景だった。

 重兼は思った。

 この親子の献身に応えるためにも、新田家をより一層発展させたいと。

 それも、出来る限り平和的なやり方でだ。

 成功じょうごうによる官位の獲得。

 金銭での土地の買収など。

 少しばかりセコいかも知れないが、武力に頼るよりかはましだと思う。

 重兼の挑戦は始まったばかりだ。



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