裏切り
北条朝時の鎌倉追放が決定した日の夜。
和田義盛の館は騒がしかった。
義盛とその家族が酒宴を開いていたのである。
その中で一際ゴツい体格の男が義盛に声をかけた。
「父上。それは真ですか?」
「ああ、真だ」
長男の常盛の問いに、義盛は笑顔で答えた。
「義時の奴、身体を震わせておったわ。あれはお前達にも見せたかったのう」
「それはそれは」
次男の義氏が、酒をあおる。
「幕府を牛耳ろうとする者が、おのれの息子一人育てる事もできぬとは! 全くお笑い草だ」
「それにしても朝時の奴、泰時殿とはえらい違いですな」
常盛の言葉に、誰もが思わず真顔になる。
義時の長男の泰時は、北条家を毛嫌いする和田一族ですら認める人格者だった。
清廉潔白、公正な人物で生母の違う弟達にも分け隔てなく接しており、悪い話は一切聞かない。
母親の家格が低いので微妙な立場であるが、もし、彼が北条の次期当主になるのなら、北条と共存出来るかも知れない。
「泰時は、本当に義時の息子なのか? 信じられんわ」
そうぼやいて義盛は酒をあおった。
そこへ下人が来客を知らせてきた。
泉親衡と岩松時兼が面会を求めているとの事である。
義盛は、この場に通すように命じた。
二人は、それぞれ連れを伴っていた。
岩松の方は弟の田中時明、泉親衡は同じ信濃の御家人の青栗四郎だと言う。
田中の方はともかく、青栗は聞いた事が無い。
「青栗? 知らんな」
義氏の呟きに、青栗四郎の身体がピクリと震える。
「で、お主ら、何の用だ?」
酒のせいで呂律が怪しくなっている義盛の問いに、岩松が先に答えた。
「左衛門尉様に、我が弟もお味方する事をお知らせに参った次第です」
「それは結構。 そっちもか?」
「はっ。 この青栗四郎がぜひ、義盛殿のお味方に着きたいと」
「相分かった。もっと仲間を増やせよ? 見ての通り、取り込み中だ。 下がれ」
彼等は一礼して、退出した。
岩松時兼は、時明と共に館に向かっていた。
「良いのですか?」
途中で、弟が聞いてきた。
「うむ。 北条との戦いで、おそらく義盛殿が勝つ。本家の奴等は北条に着く積もりらしいが、大義は和田にある。 勝者に着けば、我等に新田の惣領になる道が見えてくる」
少し不安そうな弟に答える時兼は既に、その後の事に思いを向けていた。
和田義盛が勝ち、味方となった岩松が新田の惣領になる。
そうなると、本家の奴等は、政義と重兼は自分に従うであろう。
政義はまあ、寛大に扱ってやろう。
だが、重兼には思い知らせてやる積もりだ。
(早く、戦にならぬかな)
時兼は、顔がニヤけるのを抑えられなかった。
一方、泉親衡と青栗四郎の反応は違っていた。
「親衡殿。 あれは無礼が過ぎるのでは?」
「確かに」
親衡は、不機嫌さを隠さなかった。
酒宴の最中に訪ねた自分達にも非はあるかも知れない。
しかし、あれは無いだろうと思う。
「我等を何だと思っておるのか……」
そう呟くと、青栗四郎が意外な事を言ってきた。
「今からでも、北条に着きませぬか?」
「何だと!?」
「拙者はあの様な無礼、我慢なりませぬ。 あの様な輩に味方するなど御免ですな!」
親衡は黙って考えた。
青栗の言う事にも一理ある。
和田義盛は、武人肌の人間で北条義時に比べると思慮に欠ける傾向がある。
そんな人間が義時に勝てるだろうか?
「……」
少しの間考えて、親衡は決断した。




