悪党狩り
承元四年の春は、暖かかった。
陽射しも風も心地よく、田植えをする農民達も楽しげに見える。
巡回している政義と重兼も、自然と朗らかな表情になっている。
「今年も期待できそうだな」
兄の言葉に、重兼は自信たっぷりに頷く。
「勿論です。秋には余分な米を売って、かなりの儲けが出せるでしょう。石鹸と炭団の売り上げも伸びるでしょう」
重兼は笑顔を見せた。
「これからは、所領を担保に銭を借りなくて済むようにしてみせます」
「そうか!」
政義の歓喜ぶりには理由があった。
これは、ほとんどの御家人に共通しているのだが、京都大番役の負担が大変なのだ。
京都大番役とは、二十年に一度くらいに巡ってくる京都の御所の警備や都内の治安維持に半年間従事する御家人の義務である。
京都までの交通費、滞在中の諸経費は自己負担なので、費用を捻出するために所領を質入れする御家人は多い。
新田家例外ではなく、前回の大番役の時には所領の一部を質入れしている。
その時に借りた百六十貫を利息つきで返済するのに十年近くかかったのだ。
今後、借金する必要がなくなるのだから、誰でも嬉しくなってしまう。
重兼も嬉しくなってきた。
(これだけじゃない)
心中でそう思う。
新田家の別の所領、八幡荘で取り組んでいる葡萄の栽培が成功すれば、収入はさらに増える。
(未来はバラ色だあ)
重兼はそう思っていた。
とんでもない知らせが入ってくるまでは。
「商品を奪われた!?」
「それはまことか?」
総持寺の新田館。
新田兄弟は、商人の平次の報告に衝撃を受けた。
平次が、鎌倉で売ろうとしていた品物が略奪されたと言うのだ。
「相手はどんな奴だった?人数は?」
「侍さんが五、六人だったかと」
突然の事だったので、はっきりと覚えていないと前置きして、平次が答える。
「そうか……」
政義が思案する。
「わかった。しばらくは新田荘内で商売してくれ。今日は下がって良いぞ。災難であったな」
「はあ……」
平次は肩を落として帰った。
「犯人を捕らえねばなるまい」
同感だった。
こんな事を放置すれば、新田家の収入に悪影響が出てしまう。
「手を打たねばなりませんな」
「何かあるか?」
その日から、新田領内の巡回が強化された。
さらに、世良田宿に噂が流れた。
近日中にある商人が、大金と大量の商品とともに鎌倉へ行く。
しかも、その金額は二百貫をこえるらしいとの事だと。
鎌倉へ向かう街道を、商人らしき人馬の行列が歩いていた。
馬の背には、木箱や米俵が積まれている。
すると、その後方から駆けてくる騎馬の武装集団があった。
「待て待てぇー!」
あっという間に、行列に追い付く。
「ふふふ。噂は本当だったようだな」
頭目らしい武者が、下品な笑みを浮かべる。
「抵抗せずに、金目のもの置いていく事だ。そうすれば、命までは取らん」
一人の若者が、進み出てきた。
「それは真ですか?」
「無論だ」
「それでは早速」
彼の合図で、他の者が木箱を下ろし始める。
「それにしてもこやつら、あっさり捕まったものだ」
頭目がそう呟くと、商人達は箱から刀を取り出した。
「何!?」
それを突きつけられた武士達が仰天する。
「それはこっちの台詞だ」
商人に成り済ました重兼が、ニヤケ顔で言った。
「随分あっさりひっかかったもんだ」
多勢に無勢とあって、相手は抵抗はせずにお縄についた。
重兼が尋問すると、いくつかわかった事があった。
彼等は、荒巻藤次という武士と、その郎党である事。
所領を質入れして借金したのは良いが、金を返す事が出来ずに所領を失い、無足の御家人になってしまって悪党に転身した事など。
「だからといって、強盗を働いて良いわけではないだろう?」
重兼の言葉に、荒巻藤次が苦々しげに答える。
「新田家の連中には、我ら貧乏御家人の事情などわかるまいよ!一度、京都大番役をこなしたら、一生借金漬けになるなんて、まだましな方なのだ!全く、銭のある奴は良いな」
「うちは、そんなに金はないぞ?」
「最近、羽振りが良いだろう」
確かにそうではある。
しかし、それは米の増産や石鹸と炭団の生産と販売のおかげなのだ。
(あと、その前から新田荘内で産出する凝灰岩の販売)
それまでは、決して金持ちという程ではなかった。
「他にも、ワシと同じような奴はごまんといるわ」
「……お前を守護につき出す」
「勝手にしろ」
重兼は、部下に命じて悪党達を上野守護のもとへ連行した。
その後、重兼は同じやり方、商人に変装して悪党を誘き寄せるという方法で、三ヶ月で
二組の悪党を捕らえた。
商人の安全確保の為だがその直後、零細御家人達の間である噂が流れた。
新田家は弱小御家人を潰して、幕府に媚びを売っていると。
潰した御家人の所領を奪う積もりだと。




