三浦義村
三浦義村。
鎌倉幕府の宿老であった三浦義澄の嫡男であり、三浦一族の当主である。
相模国の守護でもあり、相模の武士達を動員出来る彼を味方にできれば、北条義時と戦う時に大いに役立つ。
和田義盛は、義村が味方になることを疑っていなかった。
義時が幕府を支配する事は義村にとっても好ましくないだろうし、北条を討てば、その所領が手に入る。
何よりも、自分たちは同族なのだ。
説得するのは容易いはずだ。
義村の屋敷に向かう途上、思い描く展開をどう現実にするか、ひたすら考えていた。
三浦邸についた義盛と景兼は、すぐに中へと招き入れられた。
義村のもとへ案内される。
義村は客間で二人を迎える。
「お二方、こんな時分に何の用で?」
屋敷の主、義村が無表情で聞いてくる。
二人は義村の正面に腰を下ろすと、義盛が口を開く。
「幕府の未来のために協力してもらうためにござる。」
「と、言われると?」
「義時めを討つ!」
「……何故?」
義村は、『お前は何を言っているんだ?』と言わんばかりの表情になった。
それに気づかずに、義盛は自宅で景兼に言われた事を話した。
そして、義時が自分の侍所別当の地位を狙っていることも。
「そんな事を許せば、幕府は奴の思うがままになり、将軍の御命も危うい。頼朝公以来幕府に、将軍家に尽くしてきた我に、そんな事は断じて見過ごす事はできん!」
義盛は語調を強めた。
幕府に対する忠誠を、義村に再認識して欲しい。
その思いゆえに。
三浦義村は、内心しらけていた。
将軍に対する忠誠?
この男は本気で言っているのだろうか。
そもそも、関東の武士達が源頼朝に従ったのは自分達の所領を安堵し、それを朝廷に認めさせたからなのだ。
頼朝はその後、源平合戦や奥州合戦で得た所領についても安堵した。
だからこそ、武士達は頼朝を将軍と『認めてやった』のだ。
義村は亡き父、義澄に何度も聞かされた。
頼朝がどれほど猜疑心が強く、自分の意に沿わない者に対して冷酷だったかを。
御家人達が彼に従ったのは、畏怖や敬意からではなく、恐怖と利益の為だったとも。
目の前にいる和田義盛だって、頼朝の息子頼家が北条時政に暗殺されるのを黙認したではないか。
しかし、今はそれを口に出さない。
相手の話を聞く事に専念する。
「それで、私にどうしろと?」
「わからんか?」
義盛の口調に苛立ちが滲む。
「拙者が義時を討つ兵を挙げた時に、合力願いたいと言っておるのだ!すぐにではないが、遠い日でもない、きたる時に……」
義盛とは対照的に、義村は冷静だった。
「承知した。心に留めておきましょう」
「おおっ!」
「有り難い!」
義盛と景兼が、喜色満面といった表情になる。
「これで我らの勝利は間違い無い!感謝いたすぞ!」
義盛は両の手で、義村とがっちり握手した。
「では、我らはこれで帰らせてもらう。その時がきたら、必ず知らせますからな!?」
そう言って、二人は帰って行った。
義村は不愉快だった。
義盛は、こんな時刻に先触れもなく訪れた事を詫びようともしなかった。
しかも、侍所別当の地位にあるからか、終始上から目線で話をしていた。
自分は三浦家の当主、三浦一族の惣領であり、分家の義盛が敬意をはらうべき存在なのだ。
それなのに……。
義村は確信した。
義盛は短慮というよりは、馬鹿なのだ。
大体、義村の娘は義時の長男、泰時に嫁いでいることもあの男は忘れている。
その義村が、北条を捨てて和田に味方するとでも思っているのだろうか?
(まあ良い)
今は、動くべき時ではない。
義盛はすっかり自分を味方だと思いこんでいるし、北条も縁戚である自分を少しは信じているようだ。
「ここは様子見だな……」
周りに誰もいないのを確認して、義村は思いを口にした。




