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治天の君、後鳥羽上皇

このエピソードから、皇族及びその関係者が頻繁に登場する予定です。

皇族に対する敬称や、その言葉使いに間違いが在るかもしれませんが、ご容赦願います。

私は日本人で、日本の皇室や皇族に対して敬意をはらっております。

ただ、如何せん知識不足ですので正しい用法がわからないのです。

皇室に対して不敬をはたらく意思はありません。

ご了承ください。

 承元三年四月の京都。

 日本の首都であるこの都は、鎌倉とは違って風雅に満ち溢れていた。水干(すいかん)を着た下級役人が行き交う庶民に混じっているのが見受けられるが、鎌倉のように武骨な鎧を着た武士の姿はほとんど見られない。

 この都は過去に、保元・平治の乱や治承・寿永の乱(源平合戦)などの戦禍にあってきたが、その都度立ち直ってきた。

 戦乱の終結によって、京都に対する軍事的脅威と言えば、僧兵による強訴くらいなものである。

 鎌倉幕府の成立によって、日本全土に対する影響力は低下しているが、京都こそが日本の政治と文化の中心であった。

 そして、日本の政治の中枢たる朝廷に君臨しているのが治天の君、後鳥羽上皇であった。



 後鳥羽上皇。

 (いみな)尊成たかなり

 日本の第八十二代の天皇であり、建久九年(1198年)に皇太子為仁(ためひと)(土御門天皇)に譲位して、上皇として院政を行っている。

 彼は、現状にはある程度満足していた。

 当然ながら、朝廷は自分の意のままであるし、野蛮な武士共の集団である幕府も一応従順ではある。

 ただし、『ある程度』ではあった。



 夢を見ていた。

 年配の男が、満面の笑顔で膝に抱き上げた自分の顔を覗き込み、言う。

「これこそ我が孫なり」

 そして、周りから感嘆の声が上がる。

「尊成様をでございますか」

 しかし、それとは別に疑問の声を上げる者がいた。

 それは、異様なまでにはっきりと聞こえた。

「三種の神器が無いのに践祚させるのでございますか」と。



 後鳥羽上皇は、そこで眼を覚ました。

「またか……」

 あの時、祖父である後白河法皇によって

 皇位継承者に定められて以来、時折見る夢だ。

 院御所の自室で床几に寄り掛かっていたので、春の陽気に誘われてうたた寝をしていたらしい。

 庭の方から、勇ましい掛け声が聞こえてくる。

 上皇は庭に出た。

 そこでは、数人の男達が木刀を振って鍛練に励んでいる。

 それは、後鳥羽上皇の命によってである。

 そのうちの一人が上皇の存在に気付き跪いた。

 他の者達も、あわててそれに続く。

「これは上皇陛下。御覧になっていたとは知らず挨拶が遅れました事、心よりお詫び申し上げまする」

 最初に跪いた男が、深々と頭を下げる。

「構わぬ。そのまま続けよ。」

「しかし……」

「よいよい。続けよ」

「仰せとあらば」

 再び、掛け声とともに鍛練が始まる。

 それを確認すると、上皇は歩き始めた。

 今度は、別の場所で流鏑馬に励んでいる者達を見なくては。



 本来、天皇や上皇が御所で武芸の鍛練をさせるというのは前代未聞である。

 皇族や貴族からすれば、武芸など野蛮さの象徴でしかなく、だからこそ武士達を東夷(あずまえびす)と呼び、見下しているのだ。

 しかし、後鳥羽は違った。

 頑強な肉体に恵まれたせいか、武芸、狩猟、水泳、蹴鞠などを得意とした異能の君主であった。

 蹴鞠については免許皆伝とも言える「長者」の称号を奉呈されている。

 さらに、和歌や琵琶でも卓越した才能を発揮した。

 琵琶を習いはじめて数年経たぬうちに数々の秘曲を伝授されて頂点を極め、和歌は勅撰和歌集である『新古今和歌集』を編纂し、自作をいくつか載せている。

 後鳥羽上皇は、多芸多才、万能の君主と呼ぶにふさわしい存在だった。

 しかし、それでも足りなかった。

 権威が足りない。

 万人がひれ伏し、自分を崇敬する。

 そのような権威が。

 だからこそ、後鳥羽は文武の頂点をきわめただけでなく、保元の乱以降衰退していた宮廷儀礼の復活させ、政治にも熱心に取り組んできた。

 自分の、朝廷の権威はおおきく高揚したと言っていいだろう。

 しかし、その自分の業績に大きな影を落とす存在がある。

 鎌倉幕府だ。

 幸い、今のところは彼等は朝廷にたいして敬意をはらっているようだ。

 特に将軍の実朝は感心な事に、和歌や蹴鞠に熱心に取り組んでいる。

 その褒美として先日、従三位の位階を与えてやった。

 自分が名前を与えたせいか、実朝は朝廷、自分にたいして非常に従順である。

 現在の日本の頂点に立っているのはこの後鳥羽である。

(しかし、まだ)

 まだ足りない。

 もっと権威が欲しい。

 権威への欲求が満たされないかぎり、今も耳に残るあの言葉、「三種の神器が無いのに践祚させるのでございますか」から自分が解放される事はないのだ。













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