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60.銀の騎士とアメジストの君

「……それはもう、どうしようもないわね」

「はい。念のため、先んじて使者には説明をさせる予定だったのですが……」

「それすら、拒絶されたのでしょう? その時の光景が、目に浮かぶわ」


 そして魔力持ちと同時に、自分たちにとっては本当かどうかも分からない不用品も、全て引き取らせることにした、と。

 本当に、どこまでも愚かな人たち。


「……ちなみに、()を失ったあの国は、どの程度持つと予想しているのかしら?」


 きっとそれすら、マギカーエ王国の人たちは伝えようとしてくれたのだろう。危険性だって、彼らは一番知っているはず。

 でも、突き返したのはエークエス王国だ。それならば、この状況はもう、どうしようもない。

 だからただ個人的に、先に知っておきたかっただけ。

 もしかしたら、罪のない人々にまで影響が出るかもしれない可能性が、とてつもなく高いその判断の。最終的な、期限を。


「そう、ですね……。おそらく、早くて数か月。遅くとも一年後には、領土を大幅に変更しているかと」

「……そう」


 大幅に変更、というのは。明らかに悪い意味で、だろう。

 でもそれが、彼らの選択だというのならば。もう国を出てしまう私には、なにかを言う権利もない。

 はじめから、そんなものありはしなかったけれど。


「今後どれだけ持ちこたえて、領土を取り戻していけるかどうか、は。おそらく、その実力次第ですね」

「難しいかもしれないわね」


 彼らは、今まで守られていたことすら知らないから。

 魔物が(とりで)に近寄ってこないのは、自分たちを恐れているからだと。本気でそんな風に解釈している人たちなのだ。

 きっとすぐに、大混乱に(おちい)るに違いない。


「薄情だと、思われますか?」


 それは、結果的にエークエス王国を見放すことにした、マギカーエ王国に対してなのか。

 それとも、あの国の人々の魔法に対する嫌悪感を利用して、そうなるような条件を出させたアルジェンティ王子に対してなのか。

 あるいは、そのどちらに対しても、なのかもしれないけれど。

 ただ、少なくとも。


「私から言わせれば、彼らの身から出た(さび)でしかないわ。自分勝手な感情で、その目を曇らせたせいでの、ね」


 そもそも魔力持ちの必要性は、マギカーエ王国から王女が嫁いだ時から語られていたはず。

 それを信じなかったのは、代々の王家の罪。そして国政に携わってきた、全ての為政者(いせいしゃ)たちの罪。

 それならば、いずれはこうなっていただろうし。


「それ以前に、他国に無償で手を貸さなければいけない理由がないわ。存在が軽んじられているのであれば、なおさら」


 エークエス王国の人々は、心のどこかでマギカーエ王国の人々を見下している節がある。

 それなのに、無償で手を貸せ?

 私だったら、そんなの絶対お断り。


「ただ、なにも知らずに王侯貴族に生活を左右されてしまう、あの国の民の未来を(うれ)う気持ちはあるけれど」

「……あなたは本当に、生まれついての王族なのですね」

「どうかしらね? この世界に生まれる前は、ただの一般人だったのよ?」


 そう。私のあの記憶が正しいのであれば、本当にただの一般人。

 特別なにかできるわけでもなければ、秀でたものがあるわけでもない。

 ただ日々を、真面目に必死に。時折息抜きしながら、楽しく生きていただけ。


「そうであるのなら、なおさらです」

「だといいけれど」


 もし本当に、私が根っからの王族のように見えるのであれば。それはきっと、教育の賜物(たまもの)

 教師がよかった、というのが真実のような気もする。

 あとは元一般人だからこそ、国の偉い人たちに生活を左右されてしまうことの大変さを、身をもって知っているからかもしれない。

 だから余計に、彼らの生活に意識が向きやすい。


「あぁ、そうでした。もう一つ、お伝えし忘れていたことが」

「……これ以上の、いったい何があるっていうのかしら?」


 ちょっとだけ身構えてしまうのは、仕方がないことだと思う。

 マギカーエ王国に向かい始めてから、衝撃的な真実をいくつも聞かされていれば。さすがに、こうもなるだろう。


「そこまで警戒されなくても、大丈夫だと思いますよ」

「本当に?」

「はい。兄上方が用意した物語の、題名についてですから」

「題名……?」


 それはつまり、あの同人乙女ゲームの?

 『銀の騎士とアメジストの君』なんて、どう考えてもプルプラの婚約者探しのための物語でしかないのに。

 このタイトルについて、まだ私が知らない、なにかが隠されているということ?


「実はあの『銀の騎士』とは、エークエス王国における『銀の騎士』とかけているだけの、別の意味を持たせていたのだそうです」

「別の意味?」

「これです」


 そう言ってアルジェンティ王子が指さしたのは、自分の頭。

 その髪色は、確かにまごうことなき、銀。


「『アメジストの君』であるヴァイオレット王女殿下を救い出すのは、銀の色を(まと)った私だから、だそうです」

「なっ……!?」


 あのタイトルに、そんな意味が隠されてたの!?

 っていうか、そんな恥ずかしそうな顔しながら言わないでくれる!?

 こっちが恥ずかしくなるから!!


「残念ながら、私は騎士ではありませんが」


 そうだけど、そういう問題じゃないし!

 そこ変に冷静にツッコミ入れられても……!


「私の持ち得る全ての力を使って、あなたを守り幸せにすると誓います」

「っ!!」


 騎士の誓いとは、確かに違うけれど。これはこれで、別の大切な誓い。

 タイトルに隠されていた意味にも、十分驚いたけれど。まさか最後の最後に、こんな言葉をもらえるなんて。

 『銀の騎士』を得ることなんかよりも、ずっとずっと嬉しいことだった。



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