59.エークエス王国の未来は
「……ちょっと、待ってちょうだい」
私の前世については、まぁ分かったけど。
自分の名前は覚えていないのに、ゲームの内容だけはやたら詳しく覚えている理由とか。
でも。
「それと出発までに時間がかかった理由が、どうしても繋がらないのだけれど?」
そう、そこだ。会話の始まりは、そこだったはずなのに。
いつの間にやら、壮大な計画だったことと私の前世について知られているという、ある種の告白になってしまっていた。
だからといって、その話と関連があるようには、今のところは思えないのも事実で。
「騎士の国は、魔法使いの国にあまりよい感情を抱いていない。そうですよね?」
「そう、ね」
アルジェンティ王子が国名ではなく、あえて通称を口にしたのは。誰にも聞かれてはいないとはいえ、あまり公にしていい内容ではないから。
これが我がお兄様だったら、きっとそのあたりのことを考えたりしなかっただろうなと。先ほどまで彼のお兄様方のお話を聞いていたからか、ふと考えてしまった。
とはいえ、今の今まで衝撃的な事実ばかり口にしていた気もするけどね。
まぁ、そんなことはともかく。
「なので、ただ私があなたとの婚姻を求めたところで、簡単には承諾していただけないと思ったのです」
「そう、でしょうね」
しかも彼は、そのことをエークエス王国に来て初めて知ったのだから。
私たちがもし、王子と王女として普通に出会っていたとしたら。たぶん、知らないままだっただろう。
(というか、出会うことは一生なかったかもしれない)
そもそも、エークエス王国にマギカーエ王国の王族を招いたことなど、私の知る限り王女を娶って以来ないようだし。
逆のパターンは、何度かあるけれど。それでも、マギカーエ王国の慶事の際とか、本当に限られた時だけだった。
もしかしたら、王族の代表として私が出向く未来もあったのかもしれないけれど。そんな万が一の可能性なんて、あってないようなもの。
「そもそも私がエークエス王国に向かったのは、そういった指示があったからです」
「えぇ、そうね」
その事実は、ついさっき聞いたばかり。
マギカーエ王国の兄王子殿下方の、超絶ブラコン伝説と一緒に。
(というか、弟のために次元を超えた場所に、同人乙女ゲームを作るとか)
色々とぶっ飛びすぎてて、驚きしかない。
そして、続編が発売されないままサークルが解散してしまったのはそのせいだったのかと、今さらながら真実にたどり着いてしまった。
まぁ、それも今は置いておいて。
「目的の一つは、ヴァイオレット。あなたと出会うことでした」
「そ、そうねっ」
真っ直ぐに見つめられながら、そんなことを言われると。不意打ちについ、照れが出てしまうけれど。
今は話の腰を折るべき場面じゃないから、なんとか気力で頷いておく。
少しだけ焦りが隠しきれていなかったのは、ご愛嬌ということで許してほしい。
「そしてもう一つは、確実にあなたとの婚姻の許可を得るための、交渉材料確保のため」
「交渉、材料?」
確かに、必要かもしれなかったけれど。
でも、私とほぼ毎日のように会話しつつ、手紙のやり取りなんかもしながら、フィールドワークと研究に勤しんでいた彼が。
「いったいいつ、どうやって、なにを?」
そんな時間があったようには思えないし、そもそも本当に収穫はあったのかと、疑問に思ってしまうのは仕方がないこと。
とはいえ、私は今こうしてここにいるのだから。おそらく、収穫自体はあったのだろう。
その証拠に、アルジェンティ王子は私の素朴な疑問に、こう答えてくれた。
「色々と、参考になりましたよ。あなたとの会話や手紙でのやり取りの日々も、様々な方々からの証言も」
そんなもの、あっただろうか?
とはいえ、彼が言うのならきっとそうなのだろうし。たぶん、本当に意味自体はあったんだろうな。よく分からないけど。
なんて、私が少々納得いかない顔をしていることに、気がついたのだろう。アルジェンティ王子は、こう付け足した。
「結論を言ってしまうと、魔法や魔力に良い感情を持っていないという、その部分を利用させていただきました」
「利用……」
言葉としては、悪そうなイメージがあるが。とはいえ、それ自体は事実だし。
それに利用ということは、それに付随するものがあの国にはあったということで……。
(あ、れ……?)
そういえば、一つだけ。私が知っている、あの国における魔力が必要なものといえば。
魔物たちから国を守るために、常に国を覆っている魔法の壁。
魔力持ちがいなくなってしまうと、維持できないと言われていたそれは。見えている私と伯母様以外、誰も信じてはいなかった。
「…………まさか、そのために……」
「はい。父上も兄上方も、エークエス王国に貸し出していた壁の撤去に、同意しました」
「そんな……!」
そんなことしたら、エークエス王国の未来は!?
これからあの国はどうなるの!?
「そもそも、古い魔法でしたから。本来の取り換え時期を、とうに過ぎていたのです」
「え……」
「古い魔法は、媒介の調整も必要なので。今回それを引き上げて、必要であれば媒介を必要としない、新しい壁の設置も提案はしたのですが……」
それって、つまり……。
「……エークエス王国側が、それを拒否した?」
「そうです」
その瞬間、思わず天を仰いでしまった私は。
彼らの愚かさに、改めて失望するとともに。ある種の絶望すら、感じてしまっていた。




