ようこそ異世界へ
第1話
少しの浮遊感の後、光が収まると周囲の様子が明らかにってきた。
辺り一面見渡す限りの木、木、木どうやらどこかの森の中に出たらしい。
あの神?の言うことを信じるならここは異世界ということになる。異世界に転移したのだが竜治の恰好は死んだ時と同じサラリーマンの代名詞と言うべきスーツのままであり、持っていたノートPC入りの鞄もそのままである。
森の中取りあえずどうしたものかと考える、周囲には人がいる気配はない。
悩んでいるとふととあることを思いつく、それはゲームでよくあるステータスを確認するということ。
と言ってもどうやったら見ることができるのか分からないし、本当にステータスがあるのかも怪しい。
取りあえず漫画などでよくある口頭での方法を試してみる。
「ステータス、ステータスオープン、ステータスウインド」
さまざまなパターンで試してみるもののステータスが現れる気配は一向にない。
「そんなに甘くないのか」
そう呟きここからどうしたものかと考えていると“ガササ”少し離れた茂みが揺れる音がした。
そう、悩んでいる間に竜治は失念していたがここは異世界、どんな生物がいるのかわからない。
じっと茂みを眺めているとそこからは腰のぐらいの大きさの生物が現れた。
人型で二足歩行をしているが、その生物の持つ一つしかない目玉と額から生えた小さな角が人間ではないことを示している。
明らかに今までの世界では見たことのない生物を前に竜治が固まっていると、その生物は牙をむき飛びかかってきた。
その飛びかかりをなんとか横にかわすが、再び襲いかかってくる。
[gaaaaaaaaaaa」
思わずその大きく開かれた口に持っていたカバンを突っ込む。鋭い牙が鞄を突き破るが中のノートPCまでは貫けなかったらしい。
そのまま鞄をくわえている小鬼を
「オオオオオ」
その鞄のまま大きく振り回し地面に叩きつける。
「gyaaaa」
“ドッドッ”ひるんで鞄を離した小鬼に鞄を何度も叩きつける。そう何度も、その体が動かなくなるまで。
「くそ、何だってんだよ」
ようやく動かなくなった子鬼を前に腰を下ろす。持っていた鞄は小鬼の血にまみれ、何度も叩きつけたことから中のノートPCもダメになっていることは予想に難くない。
「ったく」
懐に手を入れ持っていた煙草に火をつける。このままここにいるのも危険かなと思っていた竜治の頭に突然ファンファーレが鳴り響いた。
“パンパカパーン レベルが2に上がったよ”
そんな音とともに竜治の視界に突然ホログラムのようなものが出現する。
山中竜治
Lv2
Str 32
Def 25
Int 16
Agl 27
Luk 40
スキル:異世界探索 加護(経験知獲得時?倍)
それは先ほどまでは望んでも出なかったステータス画面だった。
「何で今更でするんだよ、それに倒してから時間開いてレベルアップってどういうこった」
そうぼやきながらステータスをじっくり見ようとすると“シュン”そんな音とともにステータス画面は消えてなくなってしまった。
「だーっなんだってんだこの仕様は」
思わず地団駄を踏んでしまう。それも仕方のないことではある。今まで見たかったステータスがようやく見れたと思ったらまさかの時間制限つきである。
こんな仕様にしたこの世界の神にいらつきながらも、もう見れないものは仕方がないと諦め短くなったタバコを携帯灰皿へ捨てる。
異世界ではあるが一応そこは喫煙者のマナーというやつである。
「さてどうしたもんかね」
座りながら考える。
この場に残る?NO、いつまた襲われるかわからない。
町に向けて移動する?YES、ただ町の方向はわからない。
どっちにすすむ?棒倒しで決めるか。
「よしっ」
そんな脳内会議を終え動きだすために木の棒を拾う。
正直どっちが東かもわからないし、どこに町があるのかもわからないのである、棒に運命を任せるのも仕方のないことなのだ……多分。
棒が倒れたのは向かって右の方向。竜治は血まみれの鞄を持つとその方角に向けて歩き出した。
「いつまで続くんだこの森はよ」
歩き始めて二日は経っただろうか、未だに竜治は森から抜け出せないでいた。
ただ幸いこの森はモンスターが少ないのかこの二日間で会ったモンスターは初日に会った小鬼が4体だけであった。
その竜治の今のステータスがこれである
山中竜治
Lv 6
Str 52
Def 37
Int 25
である。そこから下の数値はステータス画面がさっさと消えてしまって分からなかった。
正直スキルとかじっくり眺めたいのであるが制限時間がそれを許してくれない。
ただ小鬼と戦っている時に一度“スキルを獲得しました”とファンファーレと共に言われたので何らかのスキルが増えているのは確かである。
さてそろそろ町に着いてもらわないと困る理由が二つある。
一つ目は食糧問題だ。一日目は鞄に残っていたものでしのぎ二日目からは見つけた木の実でごまかしているもののまともな食事が取れていないこと。
二つ目は鞄が寿命を迎えてしまったことだ。これまで小鬼との戦いで獅子奮迅の活躍を見せてくれた鞄君であったがさすがこれまでの激しい戦いでその体は大きく損傷し、中のノートPCも見るも無残な姿になってしまっている。
落ち着ける場所に行ったらこの鞄たちのお墓を作ってあげよう、そんなバカなことを考えながら森を進む。
一応の今の武器は石と木の棒を蔦と電源ケーブルで固定したなんちゃって斧だ。これの欠点はすぐに石が外れてしまい結局素手で石を持って殴る羽目になることで、鞄君の後継ぎはとても任せられない代物になっている。
そんな事を考えながら森を歩いているとだんだん日が暮れてくる。このまま夜道を進むのは危ない。そろそろ今日の寝どこを探すか、そう思っているとようやく森が途切れるところまできた。
ようやく出口かと思わず走りながら森から脱出する。
竜治の願い通り、森から抜けた先には明かりが見え人が住んでいるのが明らかな街並みが広がっていた。
ただこの時竜治の胸に去来したのは喜びよりも疑問だった。
「なんで……異世界じゃなかったのかよ……」
竜治の目に飛び込んできた町は竜治もよく見知ったビル群で構成されていた。




