ダンジョンへ行こうその3
第12話
「あーあ」
ダンジョンを行く竜治の足取りは重い。先ほどの宝箱の件がかなり尾を引いているようだ。
何せあれだけ時間をかけて収穫がゼロなのだ、へこまない方が無理だというものだろう。
「はぁ……」
何度目かのため息をつきながら曲がり角を曲がると、いきなりゴブリンが飛び出してきた。
「gaaaaaaaa」
叫び声とともにジャンプしこちらの顔を殴りつけてくる。
避けようとするものの無警戒の状態でこれだけ近くに接近を許してしまっていてはろくに回避することもできない。
ゴブリンのこぶしが額をかすめる。こちらの体制が整う前に再度飛びかかってくるのを今度は腕をクロスして防ぐ。
腕の上から鈍い痛みが響いてくる。更に攻撃しようとしてくるところに、メイスを叩きこんみ、なんとか倒すことに成功するのだった。
「いてて」
結局2発もらってしまった体は無傷とはいかず、防御した腕に少しあざができている。
しかしまさかゴブリン相手にこれだけ苦戦するとは思っていなかった。
初めて遭遇した時からなんだかんだで負けたことのない相手である。
あれだけ攻められる事になってしまったのはここまで順調にきたことによる油断だろう。
第一いくら宝箱の中身が手に入らなかったとはいえここはダンジョンなのである。気を抜いてはいけない。
これがゴブリンだったからよかったものの、さっき遭遇した蜂だったらもしかしたら死んでいたかもしれない。再度気を引き締めさらに奥へと進んで行くのだった。
気を引き締めなおしたその後の歩みは順調だった。
モンスターが前階層とほぼ変わりなくスクエアタートルが増えたぐらいだったことも大きい。
ダンジョンで再開いした忌々しき亀は一体目は倒したものの複数体で現れた時にはとても倒す気が起きなかった。
幸い外の亀と同じ性質のようでその子おらの上を通過しても、一切攻撃を加えられることはなかった。
唯一倒した亀からは先ほどの蜂ぐらいの魔石を入手することもできた。
ただ宝箱は最初のあれ以来見ることはなかった。そう考えるとやっぱりおしいことをしてしまったなと思う。
2階層も順調に進みいよいよ3階層の階段が見えてきた。
ギルドで見た情報によるとダンジョンは5回ごとに転移装置が設置されており、それで帰れるとのこと、一度使うと次の時からは前に潜ったところまで転移装置で行けるとのこと。
初心者のダンジョンは10回までとのことだが、取りあえず今日のところは5階を目標として潜ろうと思う。
3階に降りてすぐの壁には順路の文字しか書かれていなかった。
もしかしたらこのダンジョンの宝箱はあれだけだったのかもしれないという思いがわくが大丈夫だと自分に言い聞かせる。
この3改組も順調に進むかと思ったがとある問題が竜治の前に立ちはだかった。
スライム、それはゴブリンと同じくもっとも知られたモンスターだろう。
人により少しの違いはあれど大体は同じ形を思い描く。
目の前にいるのは球状の丸い物体。半透明の緑色をしておりまるでゼリーのようである。
それは竜治の知識ではスライムとしか言いようがないモンスターだった。
ゴブリンの時はそんな余裕はなかったがファンタジーを代表するモンスターを目の前に少し感動を覚えてしまう。
しかし先ほどの失敗を思い起こしすぐに気を引き締め、スライムに向き直る。
スライムはその体を震わせながら徐々にこちらに近づいてくる。
取りあえず遠距離攻撃はなさそうだ。ゆっくり近づいてくるスライムに対しメイスをふりかぶり、射程に入ると思いっきり振り下ろす、スライムの体が大きくU字型に凹み“ボヨン”そんな音と共に元の形に戻りメイスが跳ね返された。
「は?」
思わずそんな言葉が出てしまうが、その間にもスライムはじりじりとこちら近づいてきている。
「くそっ」
再度メイスを叩きつけるが結果は同じ、またもスライムにはじかれてしまう。
どうやらこいつには物理、特に打撃は効かないらしい。
「どうする……」
メイスが通じないとなると竜治には攻撃手段がない。
一応素材剥ぎとり用にスクエアタートルの甲羅の破片で作ったナイフのようなものがあるが、打撃が効かない以上こちらも効くか怪しい。
というか短いナイフの射程に入った時にどんな動きをしてくるのか想像もつかない。
今のところ攻撃らしい攻撃はされていないが、もしこのスライムの攻撃手段が良くあるとりこんで溶かすタイプだとすると非常にまずい。このままではろくに反撃することすらできず飲み込まれて溶かされて終わりということになりかねない。
もうこうなってしまった以上取れる手段は一つしかない
「逃げるしかねーだろ」
向かってくる相手に背を向けると一目散に走り出した。
どれくらい走ったのだろうか。気がつけば目の前にはのぼり階段が見える。
どうやら3階に入ってすぐのところまで戻ってきてしまったらしい。
「はぁはぁはぁ……ふぅ」
階段に腰掛けここまで走ってきたことで乱れた呼吸を整える。
そうしながらこれからどうしたものかと考える。
今来た道をもう一度進むとなると再度スライムに行く手を阻まれてしまう可能性が高い。
幸い移動速度が遅いので追いつかれることはないと思うが攻撃手段がない以上どうしてもじり貧になってしまう。
ゆっくり考えながら目の前の看板を眺めているとふと思い立つ、そう言えば順路じゃない方はどうなっているのかと。
順路などと書かれているものだから初めからついついその方向に進んでしまっていたが、反対側にも通路は続いているのである。
よくよく考えればここはアトラクションなどではないわけで、元々順路を守る必要はなかったのではないか。
「よしっ」
そうと決まれば行動あるのみである。
順路と反対方向に進むことを決め歩き出す。
一応こちらにもスライムが出る可能性があるがその時はその時である。先ほどと同じように逃げて今日の探索自体をやめて地上に戻ればいい。
順路を守らないことに多少の不安があるもののもとから危険は承知で潜っているのだ、先ほどよりも気を引き締めて先ほどとは違う道を進んでいく。
“パンパカパーン レベルが11に上がったよ”
「やっとか」
どれくらい歩いたのだろうか、あれから数体のモンスターと対峙し今また蜂を退治したところようやくファンファーレが鳴り響きレベルが11に上がった。
山中竜治
Lv 11
Str 77
相変わらずろくに見えないステータスであったが今更ながら思うことがある、それはこの数値の意味だ。
順調に育っているようだが正直あまり強くなったという自覚はない。
確かにこのメイスを楽々振り回せていたり、モンスターの攻撃を避けたり、先ほどのゴブリンに殴られてもそこまで怪我をしなかった辺り日本にいた頃よりは確実に身体能力が上がっているのだろうが何というか地味な成長である。
特に鑑定持ちがいないと周囲と比べることができないため周りと比べて自分がどれくらい強いのかもわからない。
(もっとチートみたいに派手に上昇してくれたらよかったのに)
そんな事を考えながらT字路を右に曲がって暫く歩くと
「げっ」
忌々しいスライムが再び竜治の行く道をふさいでいる。
相変わらず動きは遅いものの確実にこちらへ近づいてくる。
もう攻撃が通じないことは分かっているので、当初の予定通り全力でスライムから逃げ出し来た道を戻りT字路をまがると
「げげっ」
よりによってもと来た道にスライムが発生していたのである。
もと来た道から迫ってくるスライム、今逃げて来た道に戻ろうにもおそらくこちらに向かって進んでいることだろう。
もうどうしようもないためどこに続いているかは知らないがもう一つの道に向かって走り出す。
いくつかの曲がり角を曲がり取りあえず視界からスライムが消えたことを確認する。
少し休もうとその場の壁に手をつくと“カチ”何かを押す音と共に竜治の立っている床が大きく開いた。落とし穴である。
「うそだろおおおおおおお」
そんな叫びもむなしく竜治はその穴に落ちていくのだった。
スライムはもっと強くていいと思う




