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夢の始まりは最高の笑顔で

序盤は二章以降の伏線的なお話になっております。

一応、前半で登場するキャラの設定等は考えておりますが、

この先どうやって本編に絡んでくるかは未定。

しっかり広げた風呂敷は回収できるよう、頑張ります。

 コツッ、コツッ……


 真っ暗な廊下に硬い足音が、ゆったりとしたリズムを刻む。


 本来であれば、天井に備え付けられた魔導灯が照らすはずの通路。どうやらさきほどの騒動の影響で魔力の供給がストップしているようだ。窓一つないその細長い廊下は、まるで冥府への門へ通じていると言われてもおかしくないほどの、深い闇に覆われていた。


 しかし、そんな闇の中でも、その足音には一切の淀みもない。コツッ、コツッと規則正しいを響かせて、奥へ奥へと進んでいく。


 やがて、その闇の先からわずかな明りが差し込んでくるのが見えた。一般的な人間の感性ならば、ようやく見えた光に安堵し、思わず駆け出してしまいそうなものだが、それでもその足音の主は全くペースを崩すことなく、その廊下を光に向かって歩き続けていた。


 そうして十秒ほど歩いたあとで、ようやく辿り着いたその場所は、あちこちに瓦礫が転がり、埃と土、そして生臭い血と死の臭いが充満した場所だった。血の臭いに紛れて、小さく人間の焦げた時の匂い漂ってくる。


「うっわ~、これはまた、派手にやっちゃったわねぇ~」


 そんな室内の一角。充満する悪臭の発生源に目を向けた何者かが、お道化た口調で呟く。フード付きの麻の外套によって顔は隠れているが、そのどこか艶のある声は間違いなく女性のものだ。


 悪臭の原因はエメネア国王や要人たちの死体。ミリルとファリンの手によって殺され、魔空船格納庫に棄てられていた者達だ。殺されたあとでここに運ばれたわけだが、砲撃によって崩れた城の外壁が、開け放たれた格納庫の屋根から降ってきたことで、より悲惨な状態に変化していた。まだ息があったものも、残念ながらそのほとんどが瓦礫に潰されて絶命している。


「まぁ私にはどうだっていいけど」


 そんな凄惨な光景を特に気にした風もなく切り捨てると、女は格納庫の中を歩き回り始めた。


 この部屋は魔空船の格納庫であると同時に整備場でもあった。辺りには整備に使う工具が散乱している。本来であれば、魔石や魔空船の図面もこの部屋にあったはずなのだが、ミリル達が全て回収しているので残されてはいない。


 まぁミリルもあまり時間が無い中で、手当たり次第に回収したため、まだ中身は確認していないのだが……


「う~ん、何も残ってないわねぇ。もしあの子達が持って行ったんだとしたら面倒ねぇ」


 一通り中を見て回った女が、フード越しに頭をポリポリと掻きながら、十分以上前にこの部屋の主が飛び立った空を見つめた。その声は残念そうにも、めんどくさそうにも、そして少し楽しそうにも聞こえる。


「やっぱり、追っかけないとダメかしら」


 仕方ないなぁ、と呟きながらも、フードからわずかに覗いた口元を吊り上げる女。


 しかし、そんな女の独り言に、応える者が現れた。


「その必要はない」

 

 その声は女の後方、開ききった格納庫の屋根の上から聞こえたものだった。


 突然、聞こえたその声に、フードの女は特に驚くこともなく、ゆっくりと振り返る。


 そこにいたのは銀髪赤眼の、まるで人形のような少女だった。それは顔立ちが作り上げられた芸術品のように整っていたり、服装が人形が着るようなフリルだらけの可愛らしいものだというのももちろんある。だが、それ以上に、一切の感情を排したようなその表情が、少女から人間らしさのことごとく奪い去っていたのだ。


「あら、早かったのね。目的のものは見つかったのかしら?」

「見つかった。国王の執務室で」


 女の問いに機械的に答えながら、少女は何もない中空に一歩踏み出した。格納庫の屋根までの高さは、王都の内壁くらいの高さがある。当然、重力に引かれて落下を始める少女だったが、まるで重さを感じさせない足取りで音もなく着地を決めた。


 そのままゆっくりと女の方へ歩き始める。そうして女の目の前まで来たところで、少女が無表情のままで首を傾げる。


「どうしたの?」

「……次に飛び降りるときは、しっかりとスカートを押さえなさい」


 少女の煌めく銀色の髪を撫でながら、女が忠告する。


 先ほど少女が直立の状態で落下したため、ヒラヒラとしたスカートが風を受けて見事に捲れ上がり、少女の履いていた、見た目に似合わぬアダルティックな黒のパンツが顔を覗かせていたのだ。


「?」


 だが、肝心の少女の方は、何か問題でも? といった様子で、相変わらず首を傾げている。もっともその表情にはほとんど変化はないのだが。


「まぁいいわ。それで? 例の物は?」

「ここ」


 女の問いに短く答えた少女が、何を思ったのか、来ていたフリル付きシャツの裾を掴むと、豪快に捲り上げた。少女の可愛らしいおへそや、パンツとお揃いの黒のブラまで露出している。


 そして、そんなシャツの中からピンで留められた書類の束が、パサリと床に落ちた。掴んでいたシャツの裾を手放した少女がその書類を拾い上げ、少女の奇行に小さくため息を吐いていた女へと差し出した。


「これ」

「ありがと。ご褒美に今度、私があなたに女の子らしい振舞いってものを教えてあげるわ」

「?」


 やはりよくわかっていない少女に、もう一度大きなため息を吐いた女だったが、結局今は諦めたようで、受け取った書類をペラペラと眺めていく。


「……例のアーティファクトに関する書類で間違いないようね」


 全体をざっと眺め終わった女が満足そうに呟いた。


 そう、その書類は、エメネアが独自で研究していたアーティファクトの研究報告書。かつてアスティア族の集落があった場所で発見され、孤児院襲撃の原因にもなったあのアーティファクトについて書かれたものだ。


「やっぱり国王が持ってたか……ここで魔導具の研究もやってたみたいだから、こっちかな~とも思ったんだけどなぁ。やっぱりあのアーティファクトについては、王都では完全に秘匿されてたみたいね。まったく……お陰で随分苦労させられたわよ」


 若干の呆れと侮蔑を滲ませた声。アーティファクトという人類の宝を隠し、その恩恵を独占しようと企んだ欲深な者達を非難するような色が見え隠れする。


「ま、あの子達のお陰で楽に手に入れることができたから良かったけど。そうじゃなきゃこんな簡単に王城に忍び込んだりできないものね」


 口元に怪しい笑みを浮かべるフードの女。つい先ほどまで王城内で大暴れしていた少年たちの姿を思い浮かべているようだ。


「あの子達もずいぶん立派になったものね」


 わずかな懐かしさと、感慨深さが感じられる口調で女が楽しそうに呟く。


 そんな女のひとり言を傍で聞いていた少女が、その赤い瞳でジッと女を見つめている。


「知り合い?」

「ん? まぁちょっと昔にね……」

「昔に、何?」

「何、って……まぁちょっと昔に、ほんの少しだけお世話してあげたことがあるってだけよ」


 女の説明を聞いた少女は、「そう……」とだけ小さく呟くと、ルビーのような赤い瞳をそっと伏せた。その仕草にどことなく残念そうな色を感じたフードの女が、少し驚いた様子で少女に尋ねる。


「気になるの? あの子達のこと」

「…………別に」


 女の問いに、少女はわずかに考える素振を見せたが、結局小さく首を振って否定の言葉を返してきた。


「そう……まぁそれならそれでいいわ」


 少女の言葉が嘘だとは気付いているが、女もそれ以上追及することはなかった。少女との仲がどういうものかは不明だが、少なくとも言いたくないことを無理に聞き出すほど、無遠慮な間柄ではないようだ。


「とりあえず必要なものは手に入れたわけだし、さっさと帰りましょうか。反乱軍にもエメネア軍にも見つかると面倒だしね」


 少女との会話を切り上げると、女はクルリと踵を返し、さっき通ってきた通路の方へと歩き始める。そこは国王たちが使っていた秘密の通路であり、途中の分岐を曲がると王都の外へと出られるのだ。


 さっさと歩き出した女の背中を追って、銀髪赤眼の少女もゆっくりと歩き出す。そうして秘密の通路の入り口付近まで来たところで、少女は一度だけ足を止め、振り返った。


「……お兄ちゃん」


 開け放たれた屋根の先に広がる空を、赤い瞳が見つめる。その少女のささやきが遠い空に届くことはなかった。








 エメネア王都の遥か北西。リオン達を乗せた魔空船が満点の夜空の下をゆっくりと進んでいた。


 王都を離れるまでは最大出力で飛んでいたリオン達だったが、安全を確認できるところまで離れた後は特に急ぐ必要も無かった。なので、今はどこへ向かうでもなくのんびりと飛んでいた。飛んでいるというよりは、浮いているという方が正しいかもしれない。


 そして、そんな魔空船の中では、五年越しの悲願を達成したリオン達が……


「疲れたな……」

「全くだぜ……」

「ウニャー……」


 だらけていた。


「だらしないわねぇ、まったく……」

「そういうミリル姉だって、ゴロゴロしてるじゃん」

「うっさいわねぇ……魔術の起動って結構魔力を使うのよ」


 椅子に座り、テーブルに突っ伏したアルと、ソファーにゴロゴロ寝転がるミリルがボヘーッとした表情で言い争いを始める。まぁ争いと言っていいほどのやり取りではないかもしれないが。


 朝から準備を始め、王都のあっちこっちを走り回り、夜には命がけの戦いをした挙句、脱出手段を確保して気を抜いてたところにまさかの攻撃だ。いくら鍛えに鍛えたリオン達でも、さすがに心身の疲労を隠しきれないのだろう。


 ちなみに今、リオン達がくつろいでいるのは、船内にある国王の寝室である。操縦室傍に休憩スペースはあるが、現在その部屋は空っぽになっている。国王暗殺の現場であり、ミリルの作った雷の檻の発動場所でもあるため、事が終わった後の部屋はかなり悲惨な状態だった。なので、中にあった高級そうな家具(全て黒焦げ)は、国王たちの死体と一緒に棄ててきている。


 ゆえに、全員がくつろげる場所として、個室の中で一番広い国王の部屋を選んだわけだ。


 部屋はまだたくさんあるので、一人一人の自室もあとで適当に決めるつもりだ。


「ところで、ミリルは操縦室を離れて良かったの?」


 結局、言い争う気力も続かず、ゴロゴロを続けたミリルに、ティアがふとした疑問をぶつける。


 ちなみにだらけるメンバーの中で、ティアだけは上品にソファーに腰掛けていた。もちろん場所はリオンの隣である。


「飛行するための魔術は、一度発動したらある程度放っておいても平気なのよ」

「そうなの?」

「必要な魔力は魔石から補充されるからね。今は風に流されないように浮いてるだけだし、魔石はかなりの量積んであるから、明日の朝まで放っておいたって全然平気よ」


 ティアの質問に丁寧に説明を返すミリル。疲れてだらけていても、魔導具関連の話はちゃんとするらしい。


「要するに、一度エンジンを起動すれば、ガソリンが尽きるまでは放っておいても動くってことか……」

「何よ、エンジンとかガソリンって? また男のロマン?」

「断じて違う」


 リオンの聞こえるか聞こえないかくらいの声量のひとり言を、耳ざとく聞いていたミリル。聞き慣れない単語に食いついてきたが、説明しようがないので放っておくことにする。ミリルもすぐに興味を失ったようで、ソファーでゴロゴロを再開した。


「そういえば、リオン」

「ん? どうしたアル」


 テーブルに顔の右側をくっつけた状態で、アルがリオンに声をかけてくる。


「何で騎士の奴らが使ってたサーベルを持ってるんだ?」


 リオンの足元に置いてあるミスリルサーベルを指差して、アルが不思議そうな顔をする。他の仲間もその件については気になっていたようで、全員がリオンへと目を向けてくる。


 ただ一人、ジェイグを除いて……


「そうだ、聞いてくれよ、ティア! リオンの奴、俺の丹精込めて作った刀を折っちまったんだよ!」


 ジェイグが大げさなアクションでオーイオイと泣き真似をしながら、ティアに泣きつこうとする。まぁその前にリオンが止めたのだが。


「だから、何度も謝っただろうが。あと、ウザい泣き真似はやめろ」


 いつものような辛辣な態度だが、どこか弱腰なリオン。わざとではないとはいえ、やはり作ってもらった刀を折ってしまったことには、リオンも負い目を感じているのだ。


 シューミットの戦いのあと、折れた刀の代わりにリオンはジェイグが敵から奪ったミスリルサーベルを使っていた。使い勝手はあまり良くなかったが、さすがに敵地のど真ん中で武器も無しというわけにもいかなかったのだ。


 刀のことをジェイグに伝えた時は、あまり言い争っている時間もなかったし、リオンが、あのリオン・・・・・が、ジェイグに心底申し訳なさそうに頭を下げたことで、ジェイグもそれ以上は何も言えなかったらしい。まぁ今も本気でリオンに対して怒っているわけではないだろうが。


 ちなみにその刀もミスリルサーベルの隣に納刀した状態で置いてあった。


「俺の自信作だったのに……」


 リオンの足元の刀を見つめてしょんぼりと肩を落とすジェイグ。鍛冶師としての自分に誇りを持っているジェイグにとって、作った武器は自分の息子のようなものなのかもしれない。


 そんなジェイグの気持ちは理解しているので、さすがのリオンもこのときばかりはいつもの口の悪さも鳴りを潜めているのである。また、リオンにとっても、あの刀は第二の相棒と言っても過言ではない。親友を失ったかのような喪失感を感じているのも確かなのだ。


「まぁ確かに残念ではあるが、ミスリル製の剣を相手にこの刀は良く戦ってくれたよ。お前が作ったものじゃなかったら、間違いなく俺は負けていた。それに最後にはシューミットのミスリルサーベルを打ち砕いたんだ。本当に凄い刀だったよ」

「リオン、お前……」


 ジェイグが感極まったように鼻をすする。


「それにな……シューミットとの戦いの後で、この刀が折れたときに思ったんだよ。この刀は役目を終えたんだなって……」

「役目?」


 リオンの言葉に涙目になりつつも、ジェイグがわずかに首を傾げる。


 そんなジェイグの前でリオンは足元の刀を持ち上げると、その鞘をそっと撫でた。


 五年前の事件よりも以前から、リオンはこの刀を使い続けている。つまりこの刀は先生の命を奪ったものだということだ。そんな刀を使い続けることに対しては、やはりリオンも葛藤があった。


 だが結局、リオンはこの刀で戦うことを選んだ。


 それは先生との約束。先生に皆を守るように頼まれ、死の間際に交わした誓い。その誓いを守るためには、この刀でなければいけない気がしたのだ。あの時、リオンと共にいて、先生を見送ったこの刀でなければ。


 だから、皆の心を守り、本当の笑顔を取り戻すための復讐を終えた瞬間にこの刀が折れたことは、決して偶然ではないような気がした。


 それに、この刀が折れた瞬間、確かに声が聞こえた気がしたのだ。


 先生の優しい声で――


 よく頑張ったな、と――


「この刀で先生を送り、先生の無念を晴らした。だからこの刀は、もう十分役割を果たしたんだ。だから、もうこのまま静かに眠らせてやりたい」

「……そうだな。それがいい」


 リオンの話を聞いていたジェイグが、リオンの想いを噛み締めるように目を閉じ、力強く頷いたのだった。


 その話が終わって、六人の間にどこかしんみりとした空気が流れだしたころ、王族用のフカフカベッドで丸くなっていたファリンがのそりと起き上がって、誰にともなく訊ねた。


「で、これからどうするニャ?」


 それは今後の方針を問うものであり、復讐という目的を終えた六人のこれからの道を決めるということだ。


「どうする、か……まぁ五年前の誓いの通り、空船団を始めて、世界を旅するってことでいいんじゃないか?」

「リオンの……いえ、私達の夢がようやく始まるのね」


 込み上げてくる想いを優しく包み込むように、胸に手を当てたティアがそっと呟いた。


「まぁ旅の目標も、次の行先も何も決まってないけどな」


 そんなティアの可憐な表情に若干見惚れつつも、それを誤魔化すようにリオンは苦笑してみせた。それから「でも……」と前置きをしつつ、わずかに笑みを浮かべながら自身の想いを告げる。


「今はそれでいいと思う。もう俺達を縛るものは何もないんだ。もちろん、これから先も大変なことは色々あると思う。辛いこともあるかもしれない。でも、俺達は一人じゃない。俺達は仲間であり、何よりも大切な家族だ。六人一緒なら、どこへだって行ける。だから自由に、気ままに、皆でこの空を旅しよう」


 一人一人の顔を見つめながら語られたリオンの想い。ティアも、ジェイグも、ミリルも、アルも、ファリンもきっと同じ気持ちだろう。それぞれのリオンを見つめる表情を見れば、それがわかる。


 そうやって全員の気持ちが一つになったところで、ジェイグが何かを思い出したように「あっ!」と声を上げた。何があったかわからない五人が、一斉にジェイグの顔を見つめる。


 そんな視線を浴びたジェイグは、妙案を思いついたとでも言いたげな顔で全員の顔を眺めると、ニッと楽しそうな笑みを浮かべてこう言った。


「じゃあさ、とりあえず皆で笑おうぜ! 思いっきり!」

「「「……は?」」」


 いきなりの提案に、リオン、ミリル、アルの三人が「何言ってんの、こいつ?」と言いたげな顔を向ける。ティアとファリンは頭にハテナマークを浮かべ、キョトンとしている。


「ジェイグ、お前いきなり何を……」

「だってよぉ、せっかく復讐を終えて、全員で夢を叶えられるんだぜ? だったらよぉ、笑おうぜ! 本気で、心の底から!」

「いや、嬉しいのはわかるけど、いきなり笑うって――」


 困ったような顔で苦言を呈するリオン。しかし、その発言の最中に、ふと何かに気付いたかのようにリオンが目を見開いて、ジェイグに問いかける。


「……お前、もしかして聞こえてたのか?」


 ジェイグが今言った言葉の中にあった、聞き覚えのあるフレーズ。それはつい数時間前のリオンの発言。


――本気で、心の底から笑えなければ、夢を叶えたとは言えないだろ。


 シューミットとの戦いの中でリオンが言った言葉を、ジェイグは聞いていたのではないだろうか。だからこうして、皆で笑おうなどと言い出したのではないか。


 そう思ったリオンだったが、ジェイグは「さぁ何のことだ?」と嘘だと丸分かりの態度ですっとぼける。相変わらず、妙な気の遣い方をする男である。


 だが、そんなジェイグの発言に積極的に乗っかる者が、この中に一人だけいた。


「賛成! 賛成ニャ! ジェイグもたまには良いこと言うニャ!」

「たまには余計だ!」


 ファリンだ。


 さっきまで座っていたベッドから飛び降りると、ジェイグの隣に立ってバシバシと肩を叩く。


「と、いうわけで、皆も一緒に笑うニャ!」

「理由もなくいきなり笑えるわけないでしょ?」

「細かいことは気にしたら負けニャ! とりあえず笑うことが大事ニャ!」


 呆れたような表情のミリルの発言に、ファリンが真剣な顔で熱弁をふるう。


 そうして、ガシッと肩を組んだジェイグとファリン。妙な凸凹コンビの誕生である。


「と、言うわけで、行くぜ! ファリン!」

「合点ニャ!」


 完全に心を通じ合わせた二人が、大きく胸を張って息を吸う。


 そして――


「がっはっはっはっは! がーっはっはっは!」

「にゃっはっはっはっは! にゃーっはっはっは!」


 ジェイグの豪快な笑い声と、ファリンの可愛らしい声が室内に響き渡る。他の四人は、笑い続ける二人をポカーンとした顔で見つめていた。


 そんな四人の様子を全く気にする様子もなく、ジェイグとファリンはひたすらに笑い続ける。


 魔空船の一室に、実に滑稽な空気が流れ始めた。


 しかし……


「……っぷ……ふ、ふふふ、あは、あははははは!」

「はは、二人とも、バカみたいだ、はは、ははは!」


 そんな二人の笑い声に、堪え切れなくなったようにミリルとアルも笑い出した。隣からはティアのクスクスという笑い声も聞こえてくる。


 そして、リオンも……


「ホント、馬鹿だよ、お前ら……くっ……あは、ははは!」


 ジェイグとファリンを指差し、左手でお腹を抱えて笑い出した。


 六人全員の笑い声が、魔空船の中を温かな空気で包んでいく。


 完全に元通りというわけではない。まだそれぞれに色々と思うところもあるだろう。悲しみや苦しみ、復讐に対する罪悪感だってあると思う。


 それでも、この六人でなら、いつか本当の笑顔を取り戻すことができる。


 そんな確信がリオンの、いや、全員の心に確かに芽生えた。


 そうして、しばらくの間、満点の星空の真下で、六人の笑い声が続いていくのだった。


 いつまでも、いつまでも……


なんか「一章完」みたいな雰囲気あるかもしれませんが、

まだ終わりじゃありません。

エピローグがまだ残ってます。

エピローグはもちろん、あの二人の話です。

この話せずに一章は終われません。


エピローグも今日中に投稿致します。


感想、ご意見、誤字脱字の報告等お待ちしております。

厳しいご意見なども真摯に受け止めさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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