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脱出

戦いの最後は派手に行こう! という感じの回です。

若干、勢いに任せた感はあるかもしれませんが、

書いてて楽しかったので悔いはありませんww

「全部、終わったみたいだな」


 魔空船の中から、国王たちの死体や、辛うじて生き残った王妃や王子たちを運び出し終えたミリルとファリンの許に、リオン達四人が姿を現した。


「そっちも終わったわけ?」

「ああ」


 ミリルの問いにリオンが短く答える。ジェイグとアルが無言でサムズアップを返し、ティアは穏やかに微笑んだ。


「よくやったニャー、リオーン!」


 抱えていた王子(ご存命)を放り棄てたファリンが、感極まった様子でリオンの頭に飛びついてくる。肩車のような状態になっているわけだが、この五年で随分女らしく成長したファリンにそんなことをされると、顔中にファリンの色んなところが当たって、とても困る。若干嬉しいが、やはり困る。あと、申し訳ないが、若干重いのと、ティアの視線が怖いので、早く降りて欲しい。


 まぁそれらの思いは全て、リオンの頭を抱きしめる脚と腕に口が塞がれることによって、モガモガという音へと変換されているわけだが……


「嬉しいのはわかるけど、ここはまだ王城の中なんだから、脱出するまで気を抜かないの」


 ようやくティアの手によって引きはがされたファリンが、親猫に咥えられた子猫みたいな状態で宙に浮いている。ちなみに、今の発言は半分が本心で、もう半分はただのやきもちだろう。


「じゃあ、さっさと脱出するわけだが……これ動かせそうか?」


 目の前に佇む巨大な魔空船を見上げながら、リオンがミリルに問いかける。


 計画では、逃亡を図った国王を魔空船で暗殺すると同時に、魔空船の起動キーを奪って、魔空船で脱出することになっている。近衛兵から起動キーは問題なく奪えただろうが、ミリルも魔空船に直接触れるのは初めてのはずだ。この大きな魔導具を、初見で動かすことができるのか。


 そんなリオンの疑念を鼻で笑って、ミリルがいつもの不遜な態度で胸を張る。


「あったりまえでしょ! あたしを誰だと思ってるわけ?」

「それは頼もしい限りだ。すぐにでも行けるか?」

「問題ないわ。さっさと乗り込んじゃって」


 親指で背後の魔空船の入り口を指し示すミリル。まるで女の子に「どう、俺の船? 乗ってかない?」と声をかけるイケメンのような態度に、リオンは苦笑が込み上げてくる。


「よし、じゃあ全員船に乗ってくれ。急いで王都を、いや、エメネアを脱出しよう」

「了解ニャ!」


 ビシッと右手を上げて返事をしたファリンが、猫まっしぐらといった速さで魔空船に突進していく。


「よーし! 出発前に魔空船を探検だ!」

「お、いいじゃねぇか! アル、俺も付き合うぜ!」


 アルとジェイグの二人が、ファリンを追いかけて元気よく走っていく。さっきまでは焦ったり、落ち込んだりしていたアルだが、もう完全に元気を取り戻したようだ。


「まったく……まだ完全に終わったわけじゃないんだぞ……」

「ふふ、まぁ皆、ようやく先生たちの無念を晴らせて嬉しいのよ」

「……まぁ気持ちはわかるけどな」


 呆れた様子で、走って行った三人を見つめていたリオンに、隣に来たティアが花のような柔らかな笑みを向けてくる。その笑顔に、リオンも毒気を抜かれてしまい、まぁ仕方ないか、といった表情で魔空船を見上げる。


「それにしても……」

「どうしたの、リオン? 龍の口に何かあったの?」


 巨大な龍の口の部分をじっと見つめるリオンに、ティアが小首を傾げて不思議そうな顔を向けてくる。


 そんなティアの疑問に、相変わらず龍の口元を見つめながら、リオンがポツリと呟く。


「あそこから波○砲とか撃てたりしないかな……」

「ハドーホーって?」


 リオンの聞き慣れない言葉に、ティアがキョトンとした顔で尋ねてくる。


 顔を下ろし、ティアの方へと向き直ったリオンが、ドヤ顔で告げる。


「……男のロマンだ」

「……リオンって、たまに不思議なこと言うわよね」


 どうやら男のロマンはティアには理解できなかったようだ。


「何やってんのよ、リオン! さっさと乗りなさいよね」


 出発の準備をしていたミリルに急かされて、リオンとティアも魔空船へと乗り込んでいった。


 そうして全員が乗り込んだところで、ミリルが格納庫の屋根を開くスイッチを押した。魔術の力でゆっくりと開いていく屋根を見つめながら、ミリルも魔空船に乗り込んだ。


 それから数分後。


 金属で作られた龍の首元。操縦室と呼ばれ、この船の行く先を決める部屋にリオン達六人は集合していた。


 周囲を見渡せるように全体が硬質なガラス窓で覆われている。部屋の中には立派な椅子がいくつか置かれており、中央に置かれた一番豪華な椅子が船長席だろう。王族や要人用の船ではあるが、さすがにそれらの人物が操縦室に来ることは、まずないのだろう。


「じゃあ、出発するわよ」


 操縦席である最前部のシートにちょこんと座ったミリルが、掌大の魔術陣の中央に開いた穴に差し込んだ起動キーに手をかけながら、威勢よく告げる。そうしてミリルが起動キーに魔力を注ぐと、キーを囲んでいた魔術陣が淡い光を放った。それを皮切りに、操縦席の周囲に新たな魔術陣が浮かび上がり、様々な色の光を放ちながら、魔力を伝播していく。


「スゲェ……」

「キレイね……」


 その幻想的な光景に、ジェイグとティアが感嘆の声をあげた。ファリンとアルは、ミリルの後ろで子どものようにはしゃいでいる。船長席の傍に立っているリオンも、広がっていく光の紋様に目を奪われていた。


(これが魔空船……魔術の力で空を飛ぶ船か……)


 ずっと追い求めていた魔空船の動き出す様は、リオンが思い描いていたよりも遥かに美しくて、さっきまで命がけの戦いをしていたことを忘れてしまうほどの胸の高鳴りを、リオンは確かに感じていた。


 その光が部屋を埋め尽くすほどに広がりきったところで、船体が一度だけ大きく揺れた。そして、その直後、窓の外の景色が下へ下へとゆっくりと流れていく。


「スッゲー! ホントに飛んでる!」

「ニャー! どんどん高くなってるニャ!」


 窓にベッタリと顔を押し付けたアルとファリンが下をのぞき込んで歓喜の声を上げる。浮上を開始した魔空船は、徐々にその速度を上げ、あっという間に格納庫を飛び出した。窓の外の風景も変わり、左側には王城の壁が、右側には王都内壁が見える。この格納庫は王城の東側にあるので、魔空船は今北を向いているということだ。


「このまま王都の北に抜けるわよ」

「ああ、それで頼む」


 後ろを振り返りながら、ミリルがリオンに進路を確認してくる。


 南側の外壁はすでに反乱軍が制圧している可能性があり、王族専用の魔空船が飛んでいけば、外壁上部に取り付けられた王都防衛用の兵器によって攻撃されるかもしれないのだ。


 一応、王族専用だけあって、この船の装甲はほとんどがミスリルで出来ているようだが、それでも油断はできない。装甲にも当然脆い部分はあるし、装甲は貫かれなくても、その衝撃だけでもかなりのダメージを負ってしまうだろう。最悪の場合、墜落もあり得るのだ。


「とりあえず王都を離れることさえできれば、大丈夫だろう」

「まぁね。エメネア国内には、危険空域もないしね」


 危険空域とは、龍などの大型の魔物の縄張りになっている地帯の事だ。地上の危険空域の知識は、魔空船に携わる者にとっては必須知識だった。


 そうして大まかな進路を確認し終えた頃には、魔空船は王城の屋根くらいの高さまで上昇していた。


「そんじゃあ、しゅっぱ~つ!」

「おお~!」「ニャー!}


 ミリルの号令に、アルとファリンが高らかに声を上げて応える。そんな三人を微笑ましそうに見つめるティアとジェイグ。ようやく辿り着いた夢の始まりに、リオンの顔にも笑みが込み上げてくる。


 そんなときだった――


 どおおおおおん! という、落雷にでもあったかのような轟音が空を揺らしたのは……


 そして、その直後、正面から飛んできた真っ黒な鉛の塊が、北に向かって進み始めた魔空船のすぐ脇を、唸りをあげながら通り過ぎた。そのまま王城の上部に着弾すると、凄まじい衝突音が王都全体に響き渡る。直径五十センチほどの鉛球が直撃した王城の東側の壁が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。


 突然の出来事に、さっきまでの緩んだ空気が一気に凍り付く。


 リオンは自分の頬を冷や汗が伝うのがはっきりと理解できた。


「ちょ、何だよ、何なんだよ!」

「今のって明らかにオレ達を狙った攻撃だよな!?」

「北側は安全なんじゃニャいの!?」


 ジェイグ、アル、ファリンが狼狽えた様子で砲弾の飛んできた方へと目を凝らす。


 リオンも魔法で強化した視力でそちらを見つめると、魔空船の進行方向で小さく光る何かが目に入った。


「マズい、来るぞ!」


 リオンにしてはかなり焦った様子で、何かの接近を叫ぶ。もっとも叫んだところで、それを防ぐ術はないのだが。


 再び、鳴り響いた轟音が空を貫いた。


 弩砲から放たれた巨大な矢が高速で飛来する。しかも今度の攻撃はさっきの砲弾よりも狙いがよく、魔空船の端、龍の翼の先をわずかに掠めていった。


 魔空船全体が、まるで大型の地震でも起こったかのように、激しく揺れる。リオンはとっさに船長席に手をついたことで何とか立っていられたが、掴むものが無かったティアとジェイグはその場に倒れ込んでしまった。


「大丈夫か、皆!?」

「何とかな……」

「ええ、大丈夫よ」


 リオンの近くにいたジェイグとティアが返事をする。前方を見ると、他の三人も平気そうだったので、リオンはホッと胸を撫で下ろした。


「何で王族の船が攻撃されんだ?」

「まさか、反乱軍がすでに北側も?」


 ジェイグのもっともな疑問に、ティアが慌てふためいた様子で不可解な攻撃の理由を推測する。その可能性もなくはないだろう。


 だが……


「いや、おそらく今のは王国兵士による攻撃だろう……」

「は!? 何で王国兵が王族の船を撃ち落とそうとするんだよ!?」


 リオンの発言を理解できないといった様子で、ジェイグが声を荒げる。そんなジェイグに言い聞かせるように、リオンは落ち着いた様子で理由を述べる。


「大方、自分達を見捨てて逃げる国王にブチ切れたってところだろ。国のために命がけで戦ってる連中からすれば、到底許せるものじゃないんだろうさ」


 さっき聞いたシューミットの言葉が脳裏を過る。


――戦い、続ける、民を見捨てて、逃げる国王など、いない……


(……これも反乱軍や、多くの人間を巻き込んだ報いってやつか……冗談じゃないぞ、全く)


 自身を皮肉るような思考を頭を振って追い出すと、リオンは打開策を考える。


(どうする? 進路を変えるか? だが、どこへ? 南側は反乱軍がいる。東側はまだ大丈夫かもしれないが、さっきの攻撃を考えれば安全とは言い難い。なら、いっそ装甲の強さを信じて強行突破するか? いや、さっきの揺れからして、直撃に何度も耐えられるとは思えない……)


 高速で頭を回転させて突破口を探すリオン。ファリンとティアが不安そうにリオンを見つめ、ジェイグとアルは憎々しげに窓の外を睨んでいた。


(クソ、時間がない! 砲弾の装填にどれくらいの時間がかかるかわからないし、他の兵達も、奴らに同調して攻撃してくる可能性も――)


 答えの出ない思考にリオンの焦りが募る。


 そんな思考の渦に飲まれそうになっていたリオンを呼び戻したのは、敵の砲撃音でも、魔空船の駆動音でも、起死回生の策を授ける天啓でもなかった。


「え~っと、これがあれで、ということはこっちがそこで……」


 操縦席に座ったまま、キョロキョロとしながら周囲の機材、おそらくコントロールパネルのような物をいじくるミリルのつぶやきだった。


「ミリル、何をしてるんだ?」

「ん~、何か、周りの魔術陣とか見ててわかったんだけど、どうもこの船には魔力砲が搭載されてるみたいなのよね」

「魔力砲……それは○動砲みたいなものか?」

「何よハドウホーって?」

「男のロマンだ」

「いや、意味わかんないから」


 やはり、ミリルにも男のロマンは通じなかったようだ。


 ちなみに、魔力砲とは魔銃の大砲版のようなもので、魔力を砲弾のようにして打ち出す兵器の事らしい。しかも使われる魔力のほとんどは、魔石に込められたマナを使うため、アウラのように干渉範囲による射程の問題もない。ただ、用いる魔術陣がかなり巨大であることと、その開発コストの高さゆえに、作られることも、ましてや実際に使われることもほとんどないが、その威力はかなりのものらしい。


 だが……


「というかお前、これだけの魔術陣を全部解析できたのか?」


 リオンは周囲の壁や床、それに操縦席の周りに置かれた魔空船のコントロールパネルに視線を巡らせる。


 そこには大小様々な魔術陣が所狭しと描かれている。複雑な紋様で描かれており、小さいものだと掌サイズ、リオンの体をすっぽり収まってしまうくらいの大きさのものまで。その数は五十は下らない。それだけの数の魔術陣を、起動してから今までのわずかな時間で解析するのは、決して容易いことではないはずだ。


 そんなリオンの疑念を吹き飛ばすような不敵な笑みを浮かべたミリルが問う。


「あったり前でしょ! あたしを誰だと思ってるわけ?」


 そんな実に頼もしい言葉を口にするとともに、ミリルが手元の魔術陣の一つにそっと手を添える。


 すると、その魔術陣がさっきまでよりも一際鮮やかな輝きを放つ。


 その直後、ゴゴゴ、と唸るような音が響き、魔空船の先端、龍の口が得物に食らいつくかのように大きく開かれた。


「魔力量もバッチリ。いつでも撃てるわ」


 そんなミリルの声に、リオンは一度だけ仲間全員と視線を合わせた。


 ジェイグが、ティアが、アルが、ファリンが、リオンに向かって笑みを浮かべて、力強く頷く。そうしてミリルの頼もしい背中に向かって、リオンが高らかに叫ぶ。


「ぶっ放せ!」

「りょ~かい! 最後は派手に行くわよ!」


 この場の全員の想いを乗せて、ミリルが魔術陣に魔力を込める。


 その直後、龍の口元に青白い眩しい光が集束していく。


 そして――


「「「「「「いっけええええええええええええええええええええ!」」」」」」


 六人全員の叫びを合図にしたかのように、膨大な魔力を込められた龍のブレスが放たれた。


 眩しい閃光が彗星のように尾を引きながら、王都の空を切り裂くように斜めに奔る。


 その巨大なレーザーは、王都北の外壁を貫き、その勢いのままに突き進むと、遠くの小高い丘を直撃し、その斜面に巨大なクレーターを作り上げた。


「スゲェ……」


 その凄まじい威力にジェイグが呆然とした様子で呟く。リオンを含む他の四人も同意見だろう。ただ一人、ミリルだけが「魔力砲サイッコ~!」と叫びながら、その威力に酔いしれていた。


(魔力砲だけでも、ミリルには起動できないようにできないかな……)


 そのミリルの姿に少しだけ危機感を覚えつつも、リオンは魔力砲の残した成果を確認する。北側の外壁は、上部がほとんど吹き飛ばされており、当然そこに設置されていたであろう大砲や弩砲は全て消し飛んでいた。


 魔力砲の弾道から外れたところには、まだ兵器がいくつか残っていたが、さすがにあれだけの砲撃を目の当たりにしてなお、この船に攻撃してくるような者はいないだろう。


「よし、このまま一気に離脱するぞ!」

「全速前進!」


 リオンの号令に、ミリルがはしゃいだ様子で魔空船に魔力を込めた。


 徐々に加速していく魔空船が王都の上空を通過していく。魔導灯に照らされた街並みがゆっくりと後方へと流れていった。その光景に、少しだけ寂しさを覚えたリオンだったが、すぐにそんな思いを振り切るように顔を上げ、リオンはただ前だけを見つめていた。


「外壁を越えるわよ!」


 ミリルの声に一応の警戒をするリオン達だったが、王都からの攻撃がくることはなかった。


 外壁を越え、魔空船はさらに高度と速度を上げていく。


 操縦室の窓の外にはすでに王都の街並みは無く、無数の星が煌めく夜空だけが、どこまでも遠く遠く広がっていた。


波○砲は男のロマンですよねぇ……

発射! と声高に叫んでみたいww

と、いうわけで、ミリルの言葉にあった「最後は派手に行くわよ!」がこの回のテーマです。

前話の血生臭い感じで最後じゃやっぱりアレなんで、

リオン君達には、デカいのを思いっきりぶっ放していただきました。

第一章後半の重い展開を吹き飛ばすような爽快な一撃を。


そして、第一章も残すところあと二話です。

今日中にエピローグ書き終わったら、明日二話連続で投稿する予定です。

正確な時間はわかりませんが、夜になるのは間違いないかと思います。



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