優しい姉、意地悪な兄
広間では、兄姉が三人でボール遊びをしていた。
「あっ、コタ」
最初に虎太郎に気づいたのはルナだ。
ルナの声を聞いて、兄たちもこちらに顔を向ける。
「きたよ、あいつ」と次兄のジルが言う。露骨に嫌そうな顔をしている。
長兄のエルは何も言わなかった。表情も変えない。
エルはいつもだ。
まるで虎太郎が存在していないかのように振る舞う。
エルとはほとんど会話をしない。
かと言って全くしないわけではないが、自分と話すときのエルは極端に冷たく、その冷徹さから話す気力が失せてしまう。
やはりエルも、自分のことが疎ましいのだろうと思う。
再びエルとジルが遊び始める。
それを見たルナがため息をつく。
虎太郎は、その光景を見て突っ立っているしかなかった。
「ちょっと、二人とも。コタも混ぜようよ」
ルナの呼び掛けで、二人が動きを止める。
「はあ? なんで?」
ジルが険悪な表情で応じる。
またか、と虎太郎は思う。
いつもこうだ。
ジルとルナが混ぜる混ぜないの押し問答をして、結果的に自分も混ざることになるが、混ざったら混ざったで、今度はジルが乱暴したり無視したりして、それにエルが静かに加担してきたりする。
何も楽しくない。
これなら、最初から三人が遊んでいるのを眺めている方がよっぽどいい。
「コタは弟でしょ。一緒に遊ぼうよ」
「あんなやつ、弟じゃねえよ。人間臭いし」
「コタは私たちの弟です! 同じお父さんの子でしょ!」
その言葉にジルがひるむ。
虎太郎も含めて、子どもたちは父を尊敬している。
だから、同じ父の子と言われると、ジルは返す言葉が無くなってしまうのだ。
「う、うるさい! 人間は人間だ! 汚い、臭い、無能、無能!」
ルナがまたため息をつく。
「はいはい、今日もあんたの負けね。コター! こっちにおいで。一緒に遊ぼ」
ルナは虎太郎に優しい。
虎太郎を罵倒することはないし、こうしてジルを制してくれる。
虎太郎と二人のときは色々と世話を焼いてくれたりもする。
弟想いの優しい姉なのだ。
虎太郎は三人に混ざって、ボール遊びを始める。
ただボールを追いかけて奪い合う、それだけの遊び。
でも、虎太郎にはとても難しい。
虎太郎は獣人と言っても、身体は完全に人だった。
唯一、耳だけが虎のそれで、周りから見れば、猫耳を付けた人間にしか見えない。
虎の血が混ざっている分、人と比べると牙や爪が多少長く鋭く、スピードやパワーもあるが、純粋な虎には敵わない。
成長速度は虎に準じていて、一歳である虎太郎の未発達な身体では、一つ上の兄姉たちにまるで歯が立たないのだ。
今日もほとんどボールを奪うことはできなかったし、奪ったかと思えば、ジルの強烈なタックルに跳ね飛ばされてすぐに奪い返された。
ジルが飽きたと言って、連れてエルもボールを追うのを止めたので、そこでボール遊びは終わった。
ジルとエルは床に寝そべって、毛繕いを始める。
「コタ、こっち来て」
ルナが虎太郎を呼んだ。
虎太郎が行くと、ルナは虎太郎を連れて広間を出て、通路の少し先で止まった。
ルナが振り向く。
「あんた、ケガしてる。ここでちょっと待ってて」
ルナが見つめる視線の先、虎太郎は下を向く。
膝から血が出ていた。
痛みがないので気づかなかった。
多分ジルに飛ばされたときに擦りむいたのだろう。
ルナは踵を返し、広間に走っていった。




