A4用紙を二枚
十二月初週。街はいよいよクリスマスへのモチベーションを上げてきている。フォーカンのサンタ帽やトナカイカチューシャ姿も、まるまる一ヶ月も続けているおかげで、ずいぶん板についた。もはや特に季節性のないいつものアクセサリーとして馴染んでいる。
今日のフォーカンのスケジュールは、朝イチに全員でダンスレッスン、昼間は晃市さんと特真さんが大学の講義に出ている間に秘さんと佳狩さんが動画配信、そして夜にまた集合して、親交のあるアイドルグループ複数での懇親会へ参加することになっている。瀬斗にもお声がかかったが、丁重にお断りした。瀬斗はステージの上にだけ存在する幻なのだ。
メンバー内唯一の早生まれで、まだ十九歳である晃市さんに「酒を飲んだら契約解除だ」と口酸っぱく言い聞かせていた昨日の久道さんの、溢れる父性を思い起こす。うーん、ステキ。
「デスクさん、ちょっと」
社長にもらった新しい会計ソフトの資料を眺めながら物思いにふけっていると、久道さんにちょいちょいと手招きされた。デートならいつでも大歓迎ですワンと尻尾を振りたいところであるが、慎ましやかにクールビューティ・スマイルを貫く。
「これ、台本です。クリスマスイブのと、あとこれは、ちょっと早いですけど、来月の福岡の」
A4用紙を二枚ぺろんと渡される。
久道さんは初めてのライブから今に至るまで、欠かさず瀬斗に台本を書いてくれている。とはいえ、フォーカンとの絡みは完全にアドリブでやるしかないため、前座として登場してからのトーク、曲間、そしてパフォーマンス後にフォーカンが出てくるまでしか書かれていないのだけれど。
それでも、嬉しい。この台本は久道さんが私のために書いてくれたものだ。頭の中に私の姿を思い描きながら、久道さんの思うがままに動かして、それを活字に起こしたものだ。眠れない夜には、特別なカップに紅茶を淹れて、過去の台本をかわゆいペンでかわゆい便箋に書き写し、恋する乙女の時間を過ごしたりなんかもする。
この台本をなぞっている間、私は、この世で一番、久道さんの理想の人間なのである。




