初撃のヘッドショットで討ち取る
大寒波による都内の積雪が溶け、なんとか交通機関の乱れを不安視せずに済んだ、一月二十五日。
定刻より五分遅れで到着した九時半過ぎの福岡空港。
「おお! 豚骨のにおいがするな!」
「するわけないでしょプラシーボ野郎。あ、いや待って、ちょっと本当にするかも」
「上の階にラーメン屋さんがいっぱいあるみたいですよ」
「いいから、早く行こう……腹減って、逆に吐きそうだ……」
特真さんが渋い顔で一人ずんずんと歩き出した。地下鉄の乗り場への方向はあっているが、一応追いかけて私が先頭に立ち、案内するかたちを保つ。
特真さんはどうも空腹でご機嫌ナナメらしい。四人とも九州に来るのは初めてらしく、私の「福岡に観光する場所なんてないですないです、ご飯食べるくらいしかやることないですよ」という鉄板の自虐ジョークを極めて前向きに受け取ってしまい、揃いも揃って昨日の夜から食事を抜いてきたと言っていた。隙あらばあれこれ食べる気満々だ。
「まあまあ」と久道さん。「博多駅のそばのレンタルスタジオを予約しているから、とにかくまずは移動しよう。デスクさん、お弁当かなにか手配してくれませんか」
「えーっ、ここまできて弁当はあんまりじゃねえの?」
ぶーぶー言い出した晃市さんの肩を、久道さんは穏やかに叩く。
「弁当だって、このへんの名物でおいしいものはいくらでもあるだろ。ありますよね?」
特になにも考えずに丸投げしてきているこの感じ、キュン。
「アテはあります。お任せください」
「ほらね」
感謝されるでもなく自分の手柄のように胸を張られるこの感じ、更にキュン。
アテに電話をかけながら歩いている間に、地下鉄の乗り場に辿り着く。九時三十九分発の電車が来ていたのでそれに乗り込むと、ちょうど扉が閉まって発車した。
「くどぴん、スタジオ何時から?」
「十時です」
「じ……」スマホを見ていた秘さんが、くりくりした瞳を更に見開いた。「あと二十分しかないんだけど!」
「大丈夫です。間に合います」と私。
「間に合うわけないじゃん!」
「間に合いますよ。五分くらいで博多駅に着くので」
「良い街だな……」
移動時間や待ち時間は短ければ短いほどいいと言ってはばからない特真さんがしみじみと天を仰いでいる。
「すごいですねえ」と満面の笑みで佳狩さん。「うちの地元は主要駅から空港までリムジンバスで小一時間かかりますよ」
「そういえば、みなさんも地方出身でしたよね。地方でライブなんて滅多にできないし、せっかく凱旋できる機会だったのに、よかったんですか。なんというか、その、あんな決め方で福岡に決めちゃって」
公共交通機関の車内で「吹き矢」と発するのを躊躇った結果の言い回しである。
四人は、そっと顔を見合わせた。
「足りないんだ……まだ」
静かに言い落した特真さんに、他の三人も神妙に頷き合う。
しかし久道さんはピンときていないようで眉を顰めた。「足りない?」
「火力だよ」と秘さん。「戦闘力。破壊力。一発KOできるようになってからじゃないと、帰れない」
「……僕はいつの間にアイドルじゃなくて格闘家をプロデュースしていたんだ?」
「うはは。まあ、俺たちみんな、親戚連中とか地元の同級生とかに対して、腹に一物抱えてんだよ。全員黙らす。初撃のヘッドショットで討ち取る。だから、まだ帰れないってわけ」
「今のおれたちじゃあ、故郷に錦を、なんてまだまだ言えませんからね」
へらりと佳狩さんが笑うと同時に、電車が止まる。くすぶるような空気が漂ったまま、扉が開き、閉まり、走り出す。
「この次、もう降りますよ」
そう言うと、一斉に「早っ!」と返ってきた。五分で着くって最初から言っているのに。




