第四話 死んでうんこがとぶものか! 戦場に散った涙!(後編)
春菜:「ごううんが!」
(三人に後ろから抱き着いてはしゃぐアイキャッチとイエローパンサー)
「ちっ。ザマァネエ」
パクが目覚めるとめちゃくちゃに縛られているが縛り方が甘い。
子供たちが遠巻きに彼を見ている。
先ほど無反動砲を構えていた少女が粗末な食事をもってきた。
「グルル!」
威嚇してやると驚いて下がる。
少し意趣返ししたが、普段の彼ならこの程度の拘束簡単に引きちぎれる。
「くっそ。酒なんて効かない身体になった筈なのに」
ワラワラと子供たちが現れる。
どうやらこの村にはもう大人たちはいないらしい。
相次ぐ中国やロシアとの戦いでいなくなり、怪獣の中でも大人しい奴らが子供たちを守っているようだ。
「さて、どうすっかな」
情念がこもっていないブルーシャークは子供たちの焚火で破壊されることとなった。
パクはとりあえず半万年の余裕をもって応じることにした。
まぁドツキタイや博士たちならなんとかするだろう。
一方、春奈は突如通信回復したモニタに驚くべきものをみた。
「春奈さん。博士の命が欲しいならゴウウンガーを譲ってくれないかしら」
モニタに映った武装勢力。
博士に銃を突きつける男たちを率いる娘をみて春奈は叫ぶ。
黒い巻き毛。可憐な顔立ち。使い込まれたAK銃。
「レジィナさん!?」
美女はゴウウンガーを破壊もしくは入手を要求してくる。
「で、でもパクくんがいないんです。レジィナさん」
「なら、残り2機で構わない。単独でも運用は可能よね」
「……俺たちがそのアマの命を惜しむと?」
ドツキタイが嘲笑うが、「なら、ゴウウンガーはこれでおしまいね。この娘だけなのでしょ? 開発からはじまって整備とかできるのは」とレジィナはいう。
「そうなの? ドツキタイくん」
「……パクならなんとかわかるが、俺は一部整備や改造をやれる程度だな」
単純に事実だけを述べる。別に博士の命が惜しいわけではない。
しかし博士が無価値と返答するのはいかにも不味い。
「すっごーい! わたしやっとマニュアル少し読めたのに! ねね、この単語なにかわかる? メモしたんだけど。えっとB、A、T……」
ちなみにその単語はBathukolpianだ。
「今それどころじゃない」
「わかった。『今それどころじゃない』だね」
一生使わない単語だとドツキタイは思ったので無視した。
「とりあえず。降参しよう」
「そうね……」
ドツキタイはかなり冷静にたとえ囚われて彼一人でなおレジィナたちを殺しつくし犯しつくせると判断したが、春菜は遥かに人道的である。
ロシアの森林地帯をぶっ飛ばしておいてその台詞はなんだと言われそうだが二人よりはいくばくかはマシなのだ。
その頃。
「はぁ……まぁその……ガキども」
子供たちはデカい強そうしかもキラキラしているブルーシャークを前に火をつけて割とヒャッホイしている。
ちなみに豪運炉心に着火したらこの区域は吹っ飛ぶが、まぁ今なら大丈夫だろう。やる気がない今ならただの飛行機だ。
オレンジのチューリップが目についた。
あのガキはそんなものつけていなかったはずだが。
そもそもパクには今まで花に対する興味もなかったのだが。
「これ? 綺麗でしょ! えっとね。お母さんが言ったけどオレンジのチューリップは『照れ屋』さんの花なんだって」
先程の無反動砲を放った気勢はなく、まるで普通の少女だ。
「照れ屋? 誰が?」
「お兄ちゃん、塩水がいい? 井戸水がいい? スープがいい?」
女の子はふくれた。
「そもそもくいもんないけどね」
別の少年が愚痴る。
「なんで酒と花しかないのさお兄ちゃん。支援物資は」
「知るかバカ。ぶっ殺すぞガキ」
「ぶっころす!」「ぶっころす!」
「まねすんなガキども」
「まねすんながきども!」「がきども!」
「……まぁ良いわ。俺は寝る」
『赤はさ、真実の愛。愛の告白。
白は新しい恋。失われた恋。
黄色は正直と名声と高慢。そして望みのない恋。
ピンクが愛の芽生えと誠実な愛。
でね、黒は私を忘れてで、紫は不滅の愛や永遠の愛を表すの』
『ふああああ』『なんて長セリフだ。耳にタコができらあハルナ』
『せっかく花束作ってもらったのにもう……いいもん。自分の部屋に飾る』
あれは何本だったか。
迷信にもほどがあるがキヨカワは本数にも意味があると言っていた。
「くっそ寒い……」
途中で目覚めて空を見る。
なんかちっこい怪獣が見張っていた。
怪獣のくせに人間となれ合う変わり者だ。
犬に似ているが赤い宝石のようなものが額から鼻先までいくつも埋め込まれ目玉がない。そして鈎爪がエグい。
……奇妙なもんだな。
彼は犬もどきと空を見上げる。
先に虐殺した小型怪獣どもと大差ない。
ハッハッハッと吐息がかけられる。
発情しているのかとパクは思ったが違う。
「……まさかてめえ」
気配がする。恐ろしいほどの気配と殺意と憎悪。
「同類が来るってか」
抗う小型怪獣により大きな意思からの指令が苛む。
子供たちを虐殺せよ人間を滅ぼせと。
パクは縄を引きちぎり、慈悲を与えるかのように見張りの狗もどきを殺す。
その時には子供たちはすでに次々地面から、そして雲霞のように沸きいずる怪獣たちに食われていた。
「こいつは……驚いたな」
パクは苦笑いする。
もし彼が衛星軌道から見る瞳あれば焼払ったはずの怪獣ハイヴの下から現れた巨大なキノコの集合体が見えるはずだ。
たしかにこの地球上で最も巨大な個体はキノコであるが、ヒマラヤサイズとなると。
そしてそのキノコは多数の小型怪獣を指揮し、今や中国ロシア、そして多くの人々に襲い掛かった。
「ゴウウンガー!」
パクはブルーシャークを呼び出し、燃え上がる村から飛びたつ。
「あの二人なら大丈夫だろ」
他人を心配するニンゲンではないパクだが、彼は自分の変化に気づかない。
「……博士、博士。しっかりして」
下着姿の博士。痩せて見えるが女性ながら可也の筋肉量だ。
細身に見えるのは大柄だからであり、程よく美しい胸も尻も括れたラインも実際にはなかなかの体積があって春菜には重たかった。
「水を飲ませておけ……まぁ」
ドツキタイは笑う。
「いい環境だな」
地下牢である。
「で、うんこ漏らさないのか」
「……ドツキタイくん、デリカシーってないの?」
トイレはない。
「ドツキタイくん、余裕だね」
「まぁ、前にあれを奪おうとした連中はレジィナの手のものだろうが、使おうとしたところでバラバラになるのが落ちさ。それより地下牢に入れてもらったことに意味がある」
散発的な銃声と悲鳴が聞こえる気がする。
「……パクくんだ!」
「違う」
ドツキタイは冷静だ。
「ハルナ。ここを動くな」
「そりゃ閉じ込められているもん」
いや、鉄格子なんて引きちぎれよ。
ドツキタイは思ったがあえて指摘しない。
とりあえずここにいれば安全だ。
目玉だか宝石だかわからないものを大量に顔面に貼りつけたネズミもどきが襲って来たのので殴り倒し噛み殺して彼は笑う。
まずい酒の肴だと。
「そろそろ出るか」「えっ?」
「踏み潰して進め!」
「ちょ、ちょっとまって博士がまだ……」
二人が見たのは地獄であった。
小型怪獣の群れが人々を襲うスタンビート現象である。
その中で、炎に包まれるゴウウンガー二機だけが無事であった。
「こい! ゴウウンガー! とりあえず博士以外どうでもいいぞ!」「えっ。基地のみんなは」
破砕音と共にレッドイーグルが周囲をなぎ倒し、彼と博士を連れて飛び去って行く。
取り残された春奈は衝撃波の余波でふらつき進む。
「みんな! どこ!? 返事して?!」
襲い来る怪獣に傷つき喘ぎ残された春菜は叫ぶ。
そこに銃声。
「春菜さん」
「レジィナ閣下!」
敵にして命の恩人ともなった女性たちに春菜は礼を述べるが。
「礼なんて不用よ。それより、お友達が迎えにきたわ」
レジィナは天を仰ぎ、炎に包まれた空を青く鋭角に切り裂くブルーシャークを見上げる。
ブルーシャークは難民など顧みず、怪獣どもを薙ぎ倒す。
「レジィナさん……」「なに?」
『みんな死んだけど、あなただけでも』
春菜の無言の意思表示にレジィナは微笑んだ。
「もう私は死んでいるの。残念ね。
今の私は死んだ人たちと共に生きている幽霊。
さぁ。
あなたにはまだやるべきことがある。
ここは私たちに任せて」
生き残りのミュータント兵たちがレジィナと共に楽しそうに笑う。
みなチューリップを口に咥えて。
『1は運命のひと』
「レジィナ!」
「いきなさい!」
『3は愛しています。4は一生愛し続けます。
6はあなたに夢中で8は思いやりに感謝します。
9はいつも一緒にいたいです』
「お嬢さん。俺の友達はみんな怪獣以前にロシアと戦っていたんだ」「俺の母は中国の奴らにチベットから追い出されたよ。連中の血を俺は引いているわけだ」
『11は最愛のひと』
「レジィナ。あんたと戦えてよかったぜ!」
『12は愛の告白』
硝煙と炎とガスにむせながら、春菜はイエローパンサーへ走る。
「15はごめんなさい……だったね」
枯れた涙越しに戦士たちを見ようとする。
『16は不安な愛。17は絶望の愛』
春菜はなんとかイエローパンサーの壊れた風防を開け、機体奪取を試みたと思しき死体だかペーストだかをはらう。
「高度40、50、99……『永遠の愛を誓います』」
ふらふらとイエローパンサーは離陸する。
108は仏教では煩悩の数だがチューリップならプロポーズだ。
炎の中、彼女を守る戦士達すでに生き絶えた中、ただひとり戦うレジィナに春菜は叫ぶ。
「乗って! レジィナ!」
機体を逆さに調整し、見事な操作で、そしてそれができると『信じて』春菜は逆立ち姿勢で両手を伸ばしてレジィナの手を取らんとした。
ぱちん。
弾かれた。
「レジィナ……」
信じがたい想いで春奈は彼女の微笑みを見る。
自動操作によりイエローパンサーは音速を出す。
レジィナは捧げ筒を見せていた。
それが、4000年と讃えられ、パク言うところの1000年ほど若い国家と強大な凍土の国と、ドツキタイいうところの人類のこれからの人口を担うとされた地域の最後であった。
春菜:……。
パク:暴れたりねえ。
ドツキタイ:ちょっと待ってろ。今博士に気付けのウイスキーやっている。
滅びを迎えつつある人類。
死を待つ人々。
ゴウウンガー基地壊滅の報を受け、人々は無法化していく。
皮肉にも人類の意思統一を図るのは外敵なのか。
次回第五話! 『たまにはうんこして寝ておきたい! ドツキタイくんの休日!』
ご期待ください。