第三話 燃え上がれゴウウンガー! うんちは平和を願う!
赤い機体白い機体そして黄色い機体。
一度人を乗せれば大暴れしてパイロットを悉く殺す銀の翼。
それでも。
春奈はゴウウンガー三機を見上げていた。
日輪を受けて輝く機体は高貴だった。
大きすぎるから自分ひとりでお掃除はできないけれども整備班のみなさんのお手伝いはできるから。
「なにボーっとしているんだキヨカワ」
「あっ。パクくん」
振り返りニコッと笑う。
春奈にとっては自然な振る舞いだが、国際テロリストである彼には攻撃準備に見える。
「みてみてきれい」
「き、れい?」
いつも通りの機体でなにか変化があるようにも見えない。そもそも彼には整備班の面々などこうるさいだけの存在でしかない。時々比喩抜きで殴り殺す。
「もう! パクくんこそぼーっとしてるじゃない!」
「おうお熱いなおふたりさん」
揶揄い半分にドツキタイが姿を現す。
なんか拳に血と骨ついているけど二人は指摘しなかった。春奈は別事に夢中だしパクは前述した通り。
「こういうのっていいよね」
春奈は自作クッキーを入れていた籠片手に彼にも微笑む。
「何が?」
「だってこの子たち」
春奈が手を振り上げる。
「戦うために生まれたわけじゃないでしょう!」
二人は『アホか』と思った。
これは世界公認で殺戮し陵辱し破壊するためのおもちゃである。
愛着も感慨も親愛もない。使い捨てに過ぎない。動かなければゴミである。
「ほら!」
二人の前に花の香り。
「くっせー?」「俺はヤサイ以外には興味ないのだが」
不快そうに鼻を寄せる二人に膨れる春奈。
「いい匂いっていうのよ! チューリップだよ!?」
開花時期は春だが、昨今はいつでも楽しめる技術がある。
「この国の国花らしいよ。でね、花言葉は『思いやり』『博愛』。あとあと、ネットみると色によって花言葉も……」
「はぁ」「どうでもいい」
どちらも二人には無縁の感情だ。そもそも実感できないしわからん。
花の香りを快く思うのは花を愛でる文化が、弱いものを愛しむこころが必要だから。
やる気のない二人にむくれる春奈。
「なら、クッキー、二人のためにとっておいたけどあげない」
「汚ねえ手で作ったメシなぞいるかよ」
日本人云々以前にパクが意外と潔癖なところを見せると春奈は「ふんだっ」と言って瞳をそらす。
かたや鼻くそほじりかたや耳くそをほじっている。
二人とも襲いたい時に襲い飽きれば殺して飢えれば喰えばいい牝犬の心になど関心はないのである。
それに二人ともお菓子なんて食べないのだ。
甘い香料の匂いも二人には馴染みがなくて吐き気がする。
二人に不用心にも背を向け項垂れていた春奈は消え入りそうな声をだす。
砂漠の砂でも目と鼻に入ったのかと二人は訝しんだ。
「ほら、その……パクくん残念だったね。わかるよ」
「?」
春奈は日本列島が消し飛んだことについて誰にも愚痴などこぼしたことはない。
「ほら、あの半島……」
「??何が?」
日本列島共々消し飛んであの海域には小さな岩もろくに残っていない。
パクは、いやドツキタイもそうだが。
何故春奈が彼らに優しく振る舞うか、彼らが攻撃的な言動をしても春奈が暖かく振る舞うか全く理解できない。もともと『(※他人など名前すら意識にない)こういうヤツがいる』くらいの認識だ。
春奈は時々逆ギレをかます。
しかし二人は春奈のそれを無視するし楽しむ。
春奈の逆ギレは理不尽でもそれを受け入れて何も問題ないし彼女はそれで機嫌を取り戻す。
少し鼻声だったりもするが。
パクには故郷を想う情緒がない。
日本人は嫌いだが別に春奈が嫌いなわけではなく関心がほぼない。
「(なら、あいつらを殺さなかったのは何故だ)」
春奈にモリのおもちゃをぶつけた牝犬どもを一瞬思い出す。もう顔も覚えていないが。
「まぁ気にしないことにするさ」「ま、過ぎたこった。仕方ないさ」
春奈はそれを彼らなりの不器用な激励と取った。
故郷を失ったり自ら消し飛ばしてしまい、家族も友達も失って泣き出したいのに、誰にも言えない気持ちを二人は笑い飛ばし前に進もうと背中を押してくれていると。
とんでもない買い被りである。
「ほら、この子達……色々あるけどさ、今回みたいな使い方、素敵だと思うの。アルバイト代ついでに博士にお願いしたもん」
トイレの設置運搬である。
二人はマジギレしたが春奈は狂狷に主張した。
「だって! だって難民のひとたちすごく困っているんだよ! 女の人たちがこわくて仕方ないって! 今回博士に頼まれて腑に落ちたもん!
みんな一人でトイレにいけないし、子供たちも心配だって! だったらいいじゃん! わたしたちならあっという間にあちこちに設置できるよ!」
こうなっては言うことを聞かない春奈である。
二人は否応なく世界各国の難民施設にトイレ運搬の任務を受けるハメに陥った。
「……単純にハルナがうんこ漏らさねえためだろ」「くそだるい……」
普通の牝どもなら殴ればいいのだが春奈は曲がりなりにもゴウウンガーパイロット。それくらいで死にはしない。
「人の嫌がることを喜んでするって素敵よ」
「あ」「たしかに」
二人は嫌がらせ大好きだが春奈の意図を聞き違えている。
「だからって人にやれっていうのは別。素敵なことだからって二人にはつまんないことかもでしょ」
「そりゃな」「くっそつまんねーし」
「なら、久しぶりの休暇を楽しんできて。わたし一人でもゆっくりなら飛べるから」
それはそれでなんかシャクに触る。
これは二人にとってのおもちゃであって春奈にどうこう言われるものではない。
いや、二人にとってこの世の全てが。
「まあいっか」「ひまだし」
もう暇つぶしに殴る相手もいないし。
「いや、ほんとゆっくりしていていいよ!
それにほら、人にされて嫌なことはわたししたくないし、だからと言って誰かにやめてとかいえないよ。わたしはそうするけど二人はそうじゃないこといっぱいあるもんね
「ごちゃごちゃうっせーよ」「さっさと終わらせて帰ってこようぜ」
二人の気まぐれに春奈は名前通りの笑顔を見せる。
「うんっ!」
少し目端に涙があったが、花粉が鼻に入ったくらいの感覚で二人はみていた。
【2030/8/04 アフガニスタン カブール】
「なんだこりゃ」「くっそつまんねーな」
ドツキタイとパクは紫煙の香りと共に愚痴る。
煙草どころか鮨詰めの映画館は汗と人いきれ凄まじい。しかもクーラーなど作動していないらしい。
八月のカブールの平均気温は32℃。
あまりの暑さに閉口して逃げ込んだ映画館だったが完全にハズレだった。
「(あれ? これって映画館デート?)」
思わず首をブンブン回し二人に不審がられる春奈。
「まぁくっそしょーもねーが」「イレたらダスまでってヤツさ」
二人は鼻くそほじりつつ退屈な映画を見る。
意味不明な内容だしわけわかんねえダンスが入るしほんとマジかったるい。
春奈はというと、こんなつまらない内容なのに引き込まれ涙すら浮かべている。
二人は「うげっ」と思った。出るに出られない退屈で臭くてめんどくせぇし暑い最悪時間だ。
言葉がわからないはずの春奈は幼くして同じカーストの青年の元に嫁ぎ、『ごちそう』として村の男どもに暴行を受け、あるいは男に乱暴されそうになって命懸けで拒否した結果淫乱なる売女と逆に起訴され故郷を追われ、あるいは警察に輪姦されて山賊に売られる女性に完全に入り込んでしまっている。
そして彼女が山賊を乗っ取り、義賊として大活躍する中、教育に目覚めて文字を習い、司法取引と恩赦を受けて政治家を志し立身出世していく話に彼女は観客とともに快哉をあげている。
「レジィナ! レジィーナ! レジーナ!」
先日の大津波と地震で壊滅的被害を受けたインドと伝統的に仲が悪いパキスタンだが、インド映画を見たい気持ちは別だ。
輸入禁止されているからわざわざアフガニスタンまで見に行く。
それがたまたまここであってもおかしくはない。
南北から攻め入ったそれぞれの日本帝国侵攻軍が春奈たちの大暴れのドサクサで壊滅してしまった中華民国とロシア連邦は休戦協定を結び再編。
共同戦線を組み南北アメリカに成り変わり怪獣ハイヴ破壊に専念すると称し残存戦力を結集しつつある。
偉大なる指導者レジィナは対中国ロシアを標榜しつつも犬猿の仲だった国家をまとめ上げつつあり、ヒマラヤ山脈は怪獣ハイヴを挟んで中国ロシアとインドその他が睨み合いを続ける形となり、奇しくも怪獣の存在こそがこの地域における平和の礎となってしまっているのだ。
そして対中華民国ロシア連邦のため立ち上がった指導者こそが最底辺カーストから山賊となり成り上がった娘、自称レジィナである。もちろん本名もあるが本人曰く捨てたとのことである。
繰り返される性的暴行シーンはマジで二人にとって退屈である。ひとのやることを見て興奮したりはしない。
「そんなに嫌なもんかね」「気持ちいいだろうに」
「もっと殺して回るとか楽しいことがいっぱいある」「ナニまみれになっても洗っとけというもんだ」
前の席は蹴るわタバコはふかすわぺちゃくちゃ喋るわ最悪な二人である。
「そう思わね? キヨカワ」
「……人にされていやなこと、わたしはしない。二人には二人の生き方があるから私は言わないけど」
春奈は前を見たままそう言った。
……興が削がれて二人は背中を席に預けて他人が座っている前の席に脚をかけた。最低だ。
「まぁ、ケツはいてえわ」「そうだなあ。痔になっちまう」
「……え」
春奈は泣き出しそうな顔のまま二人を見た。
昔話だしどうでもいい。今なら全員殴り殺す。
ゆえに二人とも主人公が復讐のため虐殺するシーンはそれなりに眠気が少し飛んだ。にしたって限界である。
「つまんね」「ちょっとトイレ」
「もう、お花摘みに行くって言ってよ。あとポップコーンはバターじゃなくてキャラメルでお願い」
「へいへい」「じゃ、ミルクでも買ってきてやるよ。お子ちゃま」
知るか。
もちろんふたりともフケる。
つまんねーし。
なんかおっさんが止めようとするので小突いた。
「うっうーん」「マジつまんねー映画だった」
損切りは手早くなのに春奈が二人の腕引っ張って五月蠅かったから逃げられなかった。
なのに囲まれている。
やっぱりこれだな。二人は拳を握り……。
「ころしちゃダメ!」
また興を削がれる。
確か自分が正しいと思っていても二人には強要しないとか言ってなかったか。
「だめ! この人たちに殴りかかっちゃだめ!
パクくんドツキタイくん落ち着いて!? 殺しちゃだめ!」
日本語なので通じていない。
「誰か英語わかる人います?」
いるわけがない。
殺気だった警察以下人々は三人を囲み。
「ぼまー? ぴくちゃ……?」
春奈はわからないなりに必死でコミュニケーションを取ろうとしている。そして。
「だめっ! 二人とも! わたしたち映画を途中で出たから爆弾魔と思われてる!」
人々は『映画を途中退席するバカはこの国にはいない』と主張していた。
二人は博学だが沢木耕太郎はさすがにノーチェックである。
もっとも二人とも正しくテロリストなのだが。
「はあ、そりゃ一昨年イスラエルでぶっ飛ばしたけど」「テメーのしわざか」
文字通り爆弾発言をかますパクだが、彼の国はもうすでに南北アメリカ両国壊滅に伴い滅亡している。
「余計なこと翻訳しないでね!? ドツキタイくんもとめて!」
ドツキタイは興が削げて尻を掻き出した。
パクもそうだ。頭を掻いている。
「殺しちゃいけねえって何言ってやがる。こいつらが殺そうとしてんだぜ。俺らを」
「だって! だって殺して回っていたら殺されてもいいってことじゃない! いつか殺されちゃう。……それに、それにふたりは強いよ。殺されないかもしれないからわたしのおせっかいだけど。
……でもそれだと、二人とも。
二人のうちどちらか、いつかひとりぼっちになっちゃう。
そのときわたしはきっといないよ」
また目に砂でも入ったかのようなキヨカワに戸惑いを隠せないパク。
それはハルナの意味不明で一貫性のない逆ギレを楽しむドツキタイもそうだった。
『それはどういう……』
二人は言いかけ。
「ずいぶんな騒ぎだけど、日本のひと、こんな場末の映画館で何をしているのかしら」
人々が振り返ると、褐色の肌に豊かな巻きの入った黒髪の美女。
老人が杖を手に震え、その名を呼ぶ。
「レジィナ……」
女は三人に微笑む。
「たまに、自分の辛いこと、少しだけでも嬉しかったことを見直すの。苦しいけど、人を傷つけないための勇気が出るから」
人々の歓声を受けて偉大なる指導者は3人に語った。
パク:今回戦ってねぇぞ。
ドツキタイ:怪獣どもハワイにバカンスにでも行ったのか。あ、こないだ沈んでたな。エコだわ。
春奈:たまにはいいじゃない。……でぇーと……もとい! 最後でケチついたけど! 二人ともあっかんべー!
死をも恐れぬ偉大なる指導者。
世紀の女傑は虐げられしミュータントたちを率いて彼らに挑む。
世界を救うはずの女傑はなにゆえに。
春奈の差し伸べた手のひらは届くのか。
次回第四話!!!! 死んでうんこがとぶものか! 戦場に散った涙!
……ご期待ください。