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俺はきっと仲間に恵まれている


 見慣れぬおっさんは、所長さんと位置を入れ替えて俺の目の前までやって来た。どこぞの神父さんのようだが、どうしてこの人は俺を睨み付けているのでしょうか?


 こんなおっさんとの話よりも、あのバグ女神の爆弾発言を所長さんに伝えなければいけないのに。どうやら話をするまでは、解放してもらえ無さそうである。


「和泉九十九君、と言ったかな。僕は筑波一雪(つくばかずゆき)、十六夜の父だ」


 身内はロマンスグレー以外登場しないのかと思っていたが、とうとう父親の登場である。


 しかし、十六夜は教会で笠間神父とずっと二人暮らしだと聞いている。名字が筑波って事は、離婚したとかそう言う事なのだろうか?


 確か、研究所の家で蘇生魔法が使える神父の話をした時に、十六夜が話題を拒否していた。それは、このおっさんの話をしたくなかったという事なのだろうが、何か問題のある人物なのだろうか?


「僕の可愛い娘と、どういう関係なのか詳しく教えてもらえないだろうか? なに、別に怯えることは無い。キミが、娘とはただの知り合い程度の人間ならね」


 これ、なんて答えるのが正解なの?ただの知り合いって答えろって事なのか?でも、そう答えるのはさすがに失礼な気もする。


「大事な……」

「もしキミが娘と特別な関係なら、残念だが僕は、娘に悪い虫がついた時のために覚えた即死魔法を使用せざるを得ない」


 問題、大ありだったよ。完全に親バカをこじらせてやがる。即死魔法って、そんな恐ろしい魔法があんのかよ。悪い虫認定されたら、即殺されるって事ですか?


 そんなの、もう十六夜とは他人のふりをする以外の答えが無いじゃないの。


「た、たまたま一緒の仕事をしていた、赤の他人です」

「ほう。では、僕の娘は赤の他人の男と恋人つなぎで手を握り合ったり、覆い被さって寝転んだりするようなふしだらな女だと、そう言いたいのかね?」


 もうやだこのおっさん。結局なんて答えてもダメなんじゃん。十六夜の近くに居る男は片っ端から殺して回りそうな勢い。話が通じないという意味では、バグ女神様以上のぶっ壊れキャラだよ。


 みんなのおかげで呪いが浄化できて、無事に生き返ったっていうのに。こんなつまらない事でまた死ななきゃなんないのか?


「助けてください、所長さん」


 もう、この人に頼る他無い。俺が一番信頼できる大人に。って言うか、俺ら三人しかいないから、所長さん以外に頼れる人いないんです。お願いですから助けてください。


「こういう時は……ふん!」

「んが!」

「こうしろと、笠間神父から言い使っています」


 今、一瞬で筑波神父の後頭部と鳩尾に一発ずつ拳を叩きこんだぞ。俺はもう、この人が傭兵とか軍隊にいたとか言っても驚かない。


「では、山を降りましょう。登山口に新しい車も手配しています」


 たぶんまだ生きていると思いたい筑波神父を担ぎ上げると、所長さんは歩き出す。どうにか立ち上がって、俺も後に続こうとして思い出した。先ほどのふざけたペナルティの事を。


あんなバグった存在の相手を、俺一人でどうにか出来るはずは無い。と言うか、相手にしたくない。出来る事ならみんなに押し付けて逃げ出したいくらいだ。


「九十九さ~ん!」

「つっく~ん!」

「……九十九クン」


 これから大事な話をしようと言う時に、どうしてこうも邪魔が入るのか。大体、先に山を下りたはずなのに、なんでわざわざまた登ってきてるの?


「いや~、目が覚めるなり、和泉君はどこだ~って騒ぎっぱなしで、あたしの制止も聞かずに走り出しちゃったんすよ」


 子どもか!どんだけ俺に会いたかったんだよ。よっぽど俺がひどい事でもしたんだろうか?まあ、俺を殺させたんだから、恨み言の一つや二つはあって然るべきか。


「みんな、迷惑かけたな。助けてくれてありがとう」


 精一杯の謝罪と感謝を込めて、深々と頭を下げる。これがいけなかった。あいつらから視線を外す事は、今の状況においては危険だったと、直後に思い知る事になった。


 誰からの返事も無いので恐る恐る視線を上げた瞬間、最も危険な猛犬が、俺目掛けて飛びかかって来た。


「ちょ、ちょっと、澪さん。一体何を……んぐ!」


 飛びかかって来た澪は、俺の頬に力強く両手を当て、無理やり俺の顔を上げさせると、自分の唇を俺の唇にぶつけてきた。


 表現的には間違いない。頭突きと間違えるほどの勢いだ。ぶつかった瞬間に、口の中が切れて血の味がする。


「んぐ……んん……ん!」


 顔が全く動かせない俺の唇に物凄い吸引力で吸い付いていた澪は、いったん吸い付くのを止めると、無理やり俺の口を開いて舌を入れてきやがった。


 怖い怖い!これ、このまま体内に卵でも産み付けられるんじゃないの?ディープキスってこんな恐怖体験だっけ?


 必死に澪の体を両手で押し退けようとするのだが、澪はそれ以上の力で俺の顔を押さえつけ、吸引力を強めてくる。


 顔すら動かす事も出来ない状況で、両手をバタバタさせて助けを求める。すると、俺の左手を誰かが取ってくれた。そしてその手に、するりと指を絡めてくる。


「九十九クン、良かったです。無事に生き返ってくれて」


 俺の手を取ってくれたのは百花か。ありがとう、おかげでまたみんなと一緒に仕事が出来るよ。でもね、その前にこのアホをどうにか引き離してくれませんか?このままだと、俺また死んじゃうよ。


「もう絶対離れませんからね」


 そう言って、十六夜が右腕にしがみついて来る。肘の辺りがふにょりと柔らかい感触に包まれるのは大変良いのですが、今はそんな事してる場合じゃないよね?


「んんー! んー! んんー!」

「あ~、はいはい。和泉君も限界そうっすから、そろそろやめましょうね」

「ちゅぱ……ふぇ? ヤダ、何これ!」


 澪は、急に体に力が入らなくなったかのように、その場に跪いた。どうやら、思川さんが何らかの魔法を使用して助けてくれたようだ。正直助かった。もう少しで俺の舌が澪に吸い出されるところだったよ。


 澪のせいで口元は涎でベトベトだし、唇はヒリヒリしてる。きっとこれは、キスじゃない。ドキドキもしないし、気持ち良くもなかった。恐怖と苦痛と涎しか味わえなかったもん。


「九十九クン! つ、次は、ボクがしても良いです?」

「ダメです! アタシだってもう我慢できないんですよ」


 何これ?俺を見るこいつらの目がまともじゃないんですけど。これは一体どういう事なんですか、思川さん!


「あ~、これは浄化の後遺症っすね。和泉君を助けたいって気持ちが、強い愛情に置き換わってるんすね」


 何それ!つまりこいつらは、勘違いで俺を好きになってるって事?


「この状態、後どれくらい続くんですか?」

「わかんねえっす。この前の実験の比じゃねえ位の結晶が物質化したっすから、数日は続くんじゃねえっすか?」


 俺を助けるために頑張ってくれた彼女たちに、勘違いで俺に手を出させるわけにはいかない。そう言うのは、どうか本当に好きな人とやってもらいたいものだ。


 なら、俺が今する事は一つしかない。


「百花、十六夜。ちょっと離れてくれる」

「え? 嫌です」

「絶対、離れません!」

「そうか、ごめんな……スタン!」

「っつう!」

「きゃ!」

「瞬動」


 両手に少量の電撃を流し、彼女たちが驚いて俺から手を離した瞬間に、高速で移動を開始する。一瞬で距離を離した俺は、そのまま山の麓を目指してひた走った。


 今回の仕事では全く役に立たないどころか、みんなに迷惑ばっかかけちゃったな。こうして無事に生きていられるのは、仲間に恵まれたからだ。


 そんな大切な仲間たちと、これからも活動する事が出来ればどれだけ楽しいだろうか。何の目的も無く活動していたワーカーの仕事だけど、ちょっとだけ見通しが立ってきたような気がした。







お読みいただきありがとうございました。ここで一つの区切りとさせていただきます。

またどこかで皆さんに会えることを期待して!

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