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女神様は、しゃべってもバグってました


 何の感覚も無い暗闇の世界。


 体があるのかどうかすらわからない、漆黒の中に俺はいた。


先ほど俺は死んだ。これが死後の世界と言うものなのか。仮にそうだとして、永遠にこの状態でいるのだろうか。昔の拷問に、音も聞こえない暗い部屋の中に閉じ込める、なんていうのがあったと聞いた事があるが、俺、地獄にでも落ちたのか?


「和泉九十九、目覚めなさい」


 基本的に善人だったと思うんだけど、そう思っているのは自分だけで、閻魔様の採点基準では悪人だったという事だろうか?せめて閻魔様ご本人から、地獄行きの理由でも聞いてみたかったな。


「和泉九十九、目覚めなさい」


 俺が死んだ後、みんなは無事に帰れただろうか?特に十六夜のアホは、俺と一緒に死にやがったからな。あいつだけでも、無事に蘇生させてもらえていれば良いのだが。


「起きろ、この変態野郎!」

「ぐへ!」


 先ほどまで体の感覚すら無かったというのに、突然腹部に激痛が走る。その瞬間に、全身に感覚が蘇る。手足の感覚や、ほんのりと深緑の香りが感じられた。そして、重い瞼をどうにか持ち上げると、そこには深い森林と、小さな湖。そして、巨木の前で仁王立ちをしている、翼を持った一人の少女が立っていた。


「もう、いつまで待たせるんだよ。危うくアンタの魂を転生の女神のところに送っちゃうとこだったじゃん」


 うん。どちら様でしょうか。さすがに白い翼をはためかせる少女、なんて愉快な知り合いはいないんですけど。


「はあ? ワシがどれだけアンタに手ぇ貸してあげたと思ってんの。大体、さっきだって転職させてやったばっかじゃん!」


 転職させてやった?ついさっき?


「もしかして、転職のバグ女神様?」


 え?え?普通にしゃべってるけど、この女の子があの女神様?一応絶世の美女でスタイル抜群だけど、コミュニケーションスキルを無くしてしまったあの可哀想な女神様なの?


「バグっていうのが何なのかよくわからないけど、アンタ、今ワシをバカにしたっしょ?」

「バカに……はしてないですよ? 普通に会話が成立してるから、少し驚いただけで」


 その衝撃は計り知れない。今までどれだけこの時を待っていた事か。まともに会話が成立していれば、俺が転職してワーカーになることだって無かったのだ。まあ、死んだ今となっては、今さらなんだけどね。


「挨拶とかめんどいから、本題に行くけど、アンタ、もうすぐ蘇生魔法が効くようになるから、生き返れるよ。ワシとしては不本意だけどね」

「生き返られるんですか? 呪いがあると、女神様でも回復できないって」

「そのはずだったんだけどね。あの賢者が、呪いを浄化する方法を見つけてくれたみたい。おかげでワシらも呪いの本質がわかったから、こっちも助かったよ」


 俺が死んでいるうちに、思川さんがやってくれたのか。さすが賢者様だ。


「実際浄化してんのは、アンタの仲間だけどね。ほら」


 女神様が湖に手を翳すと、波紋を広げながらぼんやりと映像が浮かび上がってくる。昭和のブラウン管テレビの電源を入れた時もこんな感じらしいね。


「なんじゃこりゃあ!」


 思わず叫んでしまった。叫ばずにはいられなかった。だって、俺の死体に美少女がまみれてるんだもん。


「なんでなんで? 俺はこんなところでちんちくりんの相手をしてるのに、体の方はきゃっきゃうふふってどういうことだよ。ここが地獄であっちが天国か!」

「おいこら! ちんちくりんってなんだ、ちんちくりんって。ワシは女神様だぞ! ワシがいるところが地獄な訳ないでしょうが!」

「あ、すいません。思った事が口に出てまし……ぐへ!」


 どうしてこの女神は、口より先に手が出るんだよ。ってか、俺死んでるはずなのに、どうしてこんなに鳩尾が痛いんだよ。


「ふん。これこそが女神パワーだ」


 そんな事でドヤ顔されても、反応に困るんですけど。


「それより、俺の死体が大変な事になってるんですけど。女神様の宗教では、故人は女まみれで供養するんですか?」

「んなわけないっしょ。アンタの呪いを浄化してんの。ほら、呪いが出てくるよ」


 そう言って女神様が指差した瞬間、俺の死体と美少女たちが桜色の光に包み込まれていく。その光は徐々に輝きを増したかと思うと、俺たちの体から浮かび上がって行った。


「あれの中に、浄化された呪いが入ってる。もう呪いとしての効力は無くなっているから、あの賢者の研究材料にでもしてあげて。それから、アンタにはワシからペナルティを与えるから」


 この人、バグって言葉は知らないのに、ペナルティって言葉は知ってるんだ。大体、女神なのになんで自分の事を『ワシ』なんているんだろうか。


 いやいや。そんな事より、ペナルティってなんだよ。俺、なんか悪い事したっけ?


「アンタの魂、本当はまっすぐ転生の女神のところに飛んでくはずだったの。戻るべき肉体に、蘇生魔法を使えなかったからね。それを、ワシがこの場所で留めておいてあげたの。ね? ワシの手を煩わせたでしょ。それに、アンタにあげた『崩拳』っていうスキル。あれは炎神を倒すためにワシがわざわざ新しく作ってあげた特別なスキル。ほら、ここでもワシの手を煩わせてる。と言う訳で、ペナルティが発生します!」


 女神様なら、それは厚意でやってくれても良いのではないでしょうか?って言うか、『崩拳』って特別なスキルだったんだ。確かに威力はぶっ壊れてると思うけど、霊力の消費は半端ないんだよね。


 もしかして、知らぬ間にチート能力を手に入れてたって事なのかな?だったら霊力も上げてくれたら良かったのにな。


「あんなスキル、連続で使われたら世界が壊れちゃうじゃん。そう言うのもちゃんと考えて、連続で使えない様にしたんだよ。どれだけ霊力を上げても、最大霊力値の半分を消費するようになってるからね」


 どうやら俺は無双させてもらえないらしい。あれはただのロマン砲であったか。この女神様も、色々と考えているんだな。


「それでペナルティなんだけど、ワシ、しばらく地上で生活するから、その面倒を見させてあげるから」

「は?」

「ゴールデンウィーク明けに、アンタのクラスに転校するから、よろしくね」


 本当に、色々考えているのかな?俺のクラスに転校して来るって、何バカな事言ってるのこのバグ女神。


「あ、もう蘇生魔法かけてもらえたみたい。それじゃ、ゴールデンウイーク明けから、アンタの家で生活するから、ワシが快適に生活出来るよう、しっかり準備しといてね」


 そう言って、女神様は俺を湖の中に蹴り落とした。ブクブクと音を立てながら沈んでいくのは、果たして俺の体か意識か。ゆっくりと、俺はまどろみの中へと落ちて行った。




「和泉さん! 和泉さん、ご無事ですか?」


 本日二度目の俺を呼ぶ声に、どうにか体を起こしながら目を開ける。そこには、先ほど湖から覗き見た、女まみれの天国は無かった。それどころか、おっさんしかいなかった。


 目の前にいるのは、いつもお馴染みの所長さん。そしてその奥に、笠間神父のような恰好をしたおっさんが、不機嫌さを隠しもせずに俺を睨み付けている。


「えっと、おはようございます。ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」


 座ったまま頭を下げた俺の肩を、所長さんは優しく掴んでくれた。


「ご迷惑なんてとんでもありません。あなたのおかげで、みんなが無事に帰れる事が出来ます。そして、あなたが今まで培ってきた絆のおかげで、あなたもこうして無事に帰って来る事が出来ました。ハロージョブ所長として、あなたを誇りに思いますよ」


 そう言ってもらえて、なんだか温かい気持ちになった。


 なったのだが、後ろで控えているおっさんの顔のせいで、俺の背筋は一瞬で冷たくなってしまった。


「落ち着いたところで、僕も彼と話をしても良いでしょうか?」


 全くよろしく無いので、早く帰らせてもらえないでしょうか。







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