少女たちの気持ち
とうとう今回で100話となりました!
いつも応援してくださっている皆さん、ありがとうございます!
九十九クンの左腕に抱き着きながら、ボクは大きく深呼吸をした。
思い返せば、九十九クンにはいつも助けられてばかりだった。初めて会った時の事なんか、きっとこの人は覚えていないんだろうな。
あの時、ボクは初めて九十九クンに助けてもらった。苦しくて、辛くて、もう我慢の限界だったボクに、この人は救いの手を差し伸べてくれた。あれがあったから、今のボクが居る。今にして思えば、ボクはあの頃から九十九クンに、恋、していたのかもしれない。
まさかワーカーになって、ボクや千花の事を命がけで助けてくれるなんて、高校に入学した時には思いもしなかった。
だって九十九クンは、いつだって肝心な事ははぐらかすし、嫌な事からは逃げ出すし、エッチだし。こんな格好の良い一面があるだなんで、想像も出来なかった。
ボクのために、何度も命をかけて戦ってくれてありがとう。おかげで、ボクはキミの事がどうしようもなく愛おしくなってしまった。
だから今度は、必ずボクがキミを助けて見せるから。
「きっと、ボクたちがあの時、あの場所で出会ったのは、運命だったんです」
きっとそうだ。九十九クンがボクを助けてくれて、そのおかげで培ったキミへの気持ちで、今日キミを助けるために、誰かが決めていたんだ。
そう思うと、胸の奥底から温かな気持ちが溢れ出してくる。それは、あの実験の時に感じた思いとは比べ物にならない程温かく、大事な気持ちだ。
ボクが、和泉九十九を心の底から大好きだという、本当に、大事な気持ち。
それは桜色の光となって、ボクを包み込んで行った。
森で一人で泣いていた私を、見つけ出してくれた人。小さい体で、魔獣から私をかばって戦ってくれた、私のヒーロー。
私はいつだって、あの時のつっくんみたいになりたくて、毎日辛い剣の訓練にも耐えてきた。きっと、まだまだ私は未熟者だし、一度もつっくんから一本を取れたことが無い。
幼稚園の頃、八雲ちゃんと三人でした、『つっくんから剣で一本取れたら』っていう約束は、すっかり忘れられちゃったみたいだけど、それは私がつっくんから一本を取れてから教えれば良いかな?
でも、中学で避けられるようになった時には、本当に寂しかった。いつも一緒だった大好きな人が、突然いなくなった時の辛さは、きっとつっくんにはわからない。
思春期の私が、どれだけ悲しくて、落ち込んで、どれだけ道場の門下生に八つ当たりしたことか。おかげで、中学生で桜観斬月流剣術の奥義まで極めてしまった。師匠からは、歴代最速だって褒めてもらったけど、つっくんがいなければ、いくら強くなったところでなんの意味もなかった。
高校が別々になって、姿を見る事も出来ない日々が一年も続いた。もう、世界なんて滅びれば良いと思っていた。そんな時に、つっくんは道場に来てくれた。
あの時の私が、どれだけ嬉しかったかわかる?崩壊した世界が、一瞬で再生したくらいの衝撃だったんだよ。
それからの毎日は、本当に楽しかった。一緒にお仕事をしたり、ご飯を食べたり、学校に行ったり。ただそれだけの事が、私にとって何より幸せな事だった。
だから、早く目を開けて。もう、私の側からいなくなったりしないで。つっくんがいない世界なんて、なんの意味も無いんだから。
つっくんとのこれからの事を考えると、それだけで幸せに包まれた気持ちになる。それは比喩ではなくて、桜色の光が、本当に私の体を包み込んでいた。
九十九さんの人生を変えてしまったのはアタシだ。アタシがいなければ、九十九さんはワーカーになる事も無かったし、闇ギルドなんかに命を狙われる事は無かったはずだ。
全部、全部アタシが悪い。それなのに、あなたは一度だってアタシを責める事は無かった。それどころか、あなたはアタシのために巨大な魔獣と戦ってくれた。アタシが長い間抱えていた悩みを解決してくれた。
ずっと一人でなんでもこなしていたアタシに、九十九さんは他人に頼る事を教えてくれた。教えてくれた本人が、一番他人に頼るのがへたくそだと思うけど、それでもアタシの人生観は、あなたのおかげで見事にぶち壊されてしまった。
他人を護るための自己犠牲なんて、最も愚かな行為だと思っていたアタシは、九十九さんのおかげで無事に更生する事が出来、取得する事が出来なかった護りの魔法も無事使う事が出来るようになった。
九十九さんを転職させる原因を作ってしまったアタシの罪悪感も、あなたは勝手にアタシから半分奪って行ってしまった。
いつだって、アタシはあなたからもらってばっかりだ。
さっきの暴走状態だって、アタシたちを護ろうとして、死ぬのを覚悟して戦ってくれようとした結果だ。おかげでアタシたちは、あなた以外の全員が五体満足で生きている。
だから今度こそ、アタシがあなたの事を救って見せますよ。だってアタシは、あなたのメインヒロインなんですから。
付き合いは三人の中で一番短いけれど、あなたを好きな気持ちだけは、きっと誰にも負けません。
だから九十九さん、呪いなんかとっとと叩きだして、またいつもみたいに甘えさせてください。
そう思った瞬間に、胸いっぱいに九十九さんを好きな気持ちが溢れ出した。さっきキスなんてしたせいだろうか?体中が熱くて仕方が無かった。
焼けるように熱い気持ちは、いつしか桜色の光となってアタシの体から溢れ出し、アタシの全身を覆ってしまっていた。
少女三人の思いが、光となって彼女たちの体を包み込んでいた。その光は、徐々に輝きを増していき、いつしか九十九を含めた四人の体が、一つの光の塊となっていた。
「うぅ、あたしはどうして今、研究機材を持ってないんすか。今まさに、呪いの治療法が確立されようとしているのに、データが無ければただの推論で終わってしまうっす」
「思川さん、これほど美しい光景を目の当たりにして、第一声がそれとは。本気でそろそろ嫁の貰い手が無くなりますよ?」
「おやおや、今のはセクハラっすよ、所長さん」
思川と所長の会話の間にも、その光は強さを増していく。大きさは四人を包み込んだ辺りから変化は見られていないが、すでに四人の姿を視認できない程の光量を放っていた。
「これ、このまんま四人が結晶になって永遠に結ばれました。めでたしめでたし。ってならないっすよね? なんかあたしの想定からずれてきたっす」
「もし三人の女性陣にも何かあれば、思川さんの責任問題ですからね?」
「そこは、『責任は全て私がとる!』とかって格好良いセリフが欲しいっす」
「そんな事言うのは、物語の中だけですよ」
ただ静観するしか出来ない二人の大人は、祈る思いで光の塊に視線を向けた。すると、光の塊が徐々に四人の周囲から離れ、四人の体から完全に分離した。
光の塊は、ぴきぴきとひびが入るような音を上げながら、どうやら硬化して物質へとその姿を変えてしまった。
そのまま寝転がっている四人の真上に落下しそうだったので、大人二人はギリギリでキャッチすると、四人の横へとそっとそれを下ろした。
「大きさに対して、重さはほとんど感じませんでしたね」
「まあ、感情が固まりついたようなもんっすから、重さなんて感じないのかもしれないっすね」
そう言いながら、気持ち良さそうな顔をして寝息を立てている、三人の少女へと優しい微笑みを向けた。
「きっと疲れちゃったんすね。三人が起きる前に和泉君に蘇生魔法使ったら、みんなに怒られてしまうっすかね?」
「どの道、筑波神父がお目覚めにならなければ、蘇生魔法は使えませんが」
そう言って大人二人は、意識を失った筑波神父へ、憐みの視線を向けるのであった。




