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第33話

「なるほど……それは困った……」


「え? なんでですか?」


 尋ねると瑞稀の父親は顎に手を当て高志に言う。


「瑞稀がねぇ……君に好意を抱いているようなんだ……」


「え……い、いきなり何を……」


 高志は急にそんな事を言われ戸惑ってしまう。

 背後では相変わらず伊吹が鬼のような形相で高志見ていた。

 この状況は一体何なのだろう、なんて事を考えながら瑞稀の父を見る。


「もう一度聞こう……君は……娘を……瑞稀をどう思っているのかね?」


「ど、どうって言われても……さっき言ったとおりですし……それに俺には彼女が……」


「知っているよ、確か宮岡紗弥さんだったかな?」


 なんで知っているんだと疑問に思う高志。 しかし、知っているなら話しは早いと高志は瑞稀の父に言う。


「えっと……あなたの話しが本当なら、申し訳ありませんが俺には彼女が居ますので……」


「そうか……ところで八重君」


「はい?」


「うちの社員の中に……宮岡善事(みやおか ぜんじ)という社員がいる」


「はぁ……それが何か?」


「彼は優秀な社員だが……首を切らねばならなくなりそうだ……」


「え? そ、それはどう言う……まさか!」


「彼には君と同じくらいの娘さんと奧さんが居るらしい……ここで職を失うのは辛いだろうなぁ……」


 高志はそう言われた瞬間、自分が脅迫されていると言うことを実感した。

 自分の娘の好意を受けなければ、紗弥の父親を解雇する。

 瑞稀の父はそう言いたいのだろう。

 卑怯だと高志はそう思った。

 しかし、瑞稀の父は続ける。


「君のお父さんは……商社勤めらしいね……奇遇な事にうちの取引先だ……」


「……な、何が言いたいんですか」


「いや、ただ奇遇だと思っただけさ……あと、君の友人……那須君のお母様の会社とも取引で何度か会った事があったな……いやぁ……君の知り合いとは縁があるようだ……」


「………卑怯ですよ」


「……なんとでも言いなさい……言ったはずだ……私は瑞稀の幸せの為なら……なんでもすると……」


 高志はこの瞬間、瑞稀の父親に対して怒りを覚える。

 言うとおりにしなければ、高志の知り合いがどうなるか分からない。

 高志は自分以外の知り合いを人質に取られてしまった。

 瑞稀の父親が持っている、大きな財力と権力によって……。


「もう一度聞こう……君は瑞稀をどう思っている?」


「………俺は……」


 高志は歯を食いしばり、紗弥の顔を思い浮かべる。

 そして考える、何が最善なのかを……。





「………」


「車でお送りします」


「貴方は……アンタはそれで良いのかよ……」


 瑞稀の父の居る部屋を後にし、高志は伊吹に尋ねる。

 伊吹は先ほどまでの形相とは違い、いつもの無表情で高志に言う。


「……私もお嬢様の幸せの為なら……悪魔にもなりましょう」


「それで瑞稀が喜ぶんですか!」


「……貴方にとっても悪い話しではありません、瑞稀様が継ぐべきだったこの会社のすべてと旦那様の財産すべてを相続出来ます」


「俺は……俺はそんな物は!!」


「黙れ小僧!」


「うっ……」


 高志は伊吹から襟を掴まれ、壁に押し当てられる。

 

「私だって……これが正しい事では無いと分かっている……しかしなぁ!! あの子には……お嬢様にはもう……時間が無い!!」


 伊吹は高志にそう言いながら瞳に涙を浮かべていた。

 

「これからは私が君を監視する……もし何かあれば……分かるだろう」


「………わかりました。でも……それを瑞稀の為だと……瑞稀を理由にするのはやめて下さい……」


 瑞稀は悪くない。

 悪いのは過保護すぎる父親と執事であると、高志は分かっている。

 高志は家まで車で送って貰っている間、ずっと色々な事を考えていたが、一番に考えていたのは紗弥の事だった。

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