第四十二話:ネオイリア
いつものように午後3時の成田空港第1ターミナルは米国西海岸に飛ぶビジネスマンと米国へ帰る観光客で混雑していた。
夕方の5時前後に米国へ飛び立つ便がいくつかあり、行儀の良い旅行者はその2時間ほど前からチェックインするので、カウンターと銀行の外貨両替窓口はどこもこの時間に長蛇の列になる。
「えーと……こっちだね」
ANA便で米国へと飛ぶ俺と市川さんは通常の旅客がチェックインするカウンターには行かず、奥にある窓口へと向かった。そこには国際線ファーストクラスの利用者とダイヤモンドサービスメンバーだけが使えるちょっと贅沢なチェックインカウンターがある。
「影山様、お手荷物のお預かりは……?」
「あ、これだけです」
「私も」
グランドスタッフのお姉さんがきょとんとした顔をした。さもありなん。外国に滞在しようという旅客にしては荷物が少なすぎるのだ、俺達は。
普通は巨大なスーツケースの3つ4つも持ってきて追加料金を気前よく払うものなのだろうが、俺達の持ち物はと言えば暇つぶしの本かゲーム機が入ってそうな手提げのカバンが一つずつ。
「大きいから別便で送ってるんですよ。身の回りのものは現地でも買えますし」
俺が適当な言い訳をするとお姉さんは納得の表情を見せ、明るい笑顔を取り戻した。
「液体や刃物などは……」
「ありませんよ」
俺達は爽やかに笑って専用通路から保安検査場に向かった。無論、ヤバいものがカバンから出てくる筈もない。入れていないのだから。
ファーストクラス用ラウンジへ向かう途中に俺は市川さんと目があって、お互い吹き出した。そう、俺達は帰ろうと思えば瞬時に自宅に帰れるのだ。頭の中のクリップボードには俺の家のリビングと寝室、そして市川さんの東京宅の玄関の座標がバッチリ入っている。
必要な物があれば歯磨き粉だろうがひげ剃りだろうが2分で持って来られるのに、カバンに入れる必要はない。
「やっぱり、ビジネスと違ってこっちは静かね」
昨今、ビジネスラウンジは航空会社に関係なく、出張するビジネスマンにとっての憩いの場では無くなりつつある。
子供が嬌声を上げて走り回り、アジア系のビジネスマンが大声で携帯電話相手に怒鳴り散らし、日本人ビジネスマンがPCを開けながらメールを忙しげに書いているのが現状だ。
ほどほどに数が用意されている筈の電源コンセントには電子機器のACアダプタと充電器がカナブンの如く群がっているかと思えば、無料の菓子や軽食を食べきれないほど皿に盛ってご満悦なプチ・パーティ中の人達もいる。ビールを飲んでほろ酔い気分になっているビジネスマンなどは相当に無害な方と言えるだろう。
最近ではゲート前のベンチのほうが余程静かに搭乗時間を待てるらしい。ただし、いつまで経っても現れない乗客の呼び出しとかオーバーブッキングしたから誰か降りてくれとかそういうアナウンスはずっと聞かなければならないが。
その点、ファーストクラス用ラウンジはビジネスラウンジと違って人が少ない。俺と市川さんは以前アジア各地を巡った時、ファーストクラス用ラウンジの利点をいろいろと知ってしまったので値段は張るがこちらを使うようにしていた。
「そういえば、大声を上げて走り回るのって日本人や中国人の子供に多いね……逆に、白人のちっちゃい子が公共の場所で喚き散らすのあまり見たことないな」
「なんででしょうね。思い込みかもよ? これからアメリカに行けばそんな光景も見られるかもね」
「そうだね」
そんな、他愛ない会話をしながら俺達はファーストクラス用ラウンジに入った。案の定、人が少ない。日本人となると更に少ない。ファーストの人は逆にあまりラウンジ使わないのかと思うくらいだ。
「やぁ、こんにちは。ご旅行ですか? 綺麗な奥様がご一緒で羨ましい」
ラウンジで寿司を頬張っていると、上品そうな70歳ぐらいの老夫婦が話しかけてきた。
「こんにちは。実はこれからアメリカで一旗揚げようかと思ってまして……」
「ほお。勇ましいですね。見れば若いのにファーストクラスをお使いになるのも珍しい」
ファーストクラスのラウンジを使っているとたまにこういう事がある。若いのにここを使うのは大抵、すごく偉い人の同伴随行員だったりするので、その主は誰だろうという興味だったり、人脈を広げるのが目当てだったりするのだろう。
単純に、若造がこんなところに来やがってという牽制目的もあるかもしれない。
「いやぁ、宝くじが当たったので、これくらいの贅沢はと思いまして……それに、こちらの女性は私の妻ではなく同僚です。これから一緒にアメリカで頑張る仲間なんですよ」
「おお……そうでしたか。失礼しました。しかしいいですな。若くて。私なぞはもう、空港に来るだけで大変ですよ」
「いえいえ、見た目が若いとどこに行っても小僧扱いで、ビジネスには良いことは何もありませんよ。これでも31歳なんですがね……」
「ははっそうですか。そういうこともあるんでしょうな。私が31の時はまだまだ親の使いっ走りのようなことをしていましたが、同世代で起業して、花束を持って会社を辞めていく人達を見て憧れたものでしたよ」
ああ、ウェーイ系の人は昔から居たわけだな。一部はしっかり成功して今の日本経済を支える側になっていると思いたいが。
「お勤めされていた会社はどのような業種で……?」
「まぁ、B2Bというやつで、そんなにテレビには出てこない会社ですから……そこそこ名の知られた会社ではありますが」
「お聞きしても?」
「壬生、という会社……今は企業群でしてな。そこのグループホールディングスというやつですわ。ちょっと待ってくださいな」
「え?」
俺の声が意図せず上ずった。
「あ、アレ出して」
老紳士が手を出すと、婦人は待っていたかのように名刺入れを鞄から取り出して老紳士に渡した。使い込まれたコードバンの名刺入れ。老紳士はその中から質の高そうな紙でできた名刺を一枚取り出すと、俺に差し出した。
「……っ!」
壬生グループホールディングス株式会社特別顧問 壬生由武
俺の前に勤めていた会社の上の上の上の方の会社の一番上の方の人だった……。
「前会長、経団連の前理事のほか、政府機関の委員も各種務め上げた方よ」
市川さんが耳打ちしてくれた。解説ありがとう。でもなんでそんな事知ってるんだ?
「顧問制度も来年で廃止でしてな。今はこうやって自分の足で歩けるうちにお世話になった方々にご挨拶回りですわ。国のお役目がチョコチョコあるのであまり自由に外遊はできませんがな」
「お役目ご苦労さまです……。私は影山と申しまして、今は小さな商社をやっております。以前は壬生のシステム開発会社におりましたが、末端におりましたのでお顔を存じ上げませんでした」
俺も、普段めったに使わない名刺を壬生さんに渡した。よかった、変にイキがった名刺にしなくて……。
その後暫く当たり障りのない会話をしていたら、グランドスタッフが壬生夫妻を呼びに来た。
「おっと、もうこんな時間か。では影山さん、またどこかでご縁がありましたら」
ファーストラウンジは面倒な申し送りやチケット確認、搭乗口までの随行など、航空会社のスタッフが全部やってくれる。
壬生夫妻は慣れた様子でグランドスタッフに連れて行かれる途中、こちらを振り返り、右手を上げて挨拶してくれた。気持ちの良い老人だ。俺達も丁寧にお辞儀して夫妻を見送った。
「やれやれ、命が縮んだな」
俺はこのご縁を無駄にせず、ベンチャーファンドで出資した会社の海外進出を手伝ってもらえないか聞いてみようとか、アレコレと思いを巡らせていた。
◆◆◆◆◆
米国に到着するとすぐに弁護士のタイラーさんが州やFDAやHHSや……俺の知らない様々な保険機関の規制を調べ、俺がやりたいというバイオテクノロジー研究所を設立する場所の候補リストを俺に送ってくれた。彼の仕事の速さは本当に素晴らしい。市川さんと同レベルかもしれない。
そのリストにあったサンフランシスコのミッション・ベイ、パロアルト、サンディエゴの各バイオクラスター密集地などは、人材の確保やバイオ系の投資を考えるとどれも最適な候補地だったが、俺はこれらの候補にNGを出した。
タイラーさんは賢明だ。彼は研究所を新設するのではなく、バイオの盛んな街で、既に施設を持つ企業を買収してはどうかと提案してきた。
レベル2と言えど、バイオ施設の建築許可には時間がかかる。州の基準をクリアし、住民にきちんと説明をして……とやっていると3年経ってもできるかどうか判らない。だから、既存のバイオベンチャーを買って手っ取り早く研究施設を手に入れるというタイラーさんの戦略はおそらく正しい。
だが、街なかは困る。困るのだ。本来の目的が果たせない。
大事なことだが、俺はできれば隠遁とも言える孤独な生活を望んでいる。これは俺の睡眠中にレグエディットが暴走してしまった時に、周囲の被害をできるだけ抑えるため、そして俺の能力が多くの人の目につかないようするためで、それは市川さんも了承済みだ。
できるだけ人が来ない所で、という条件を新たに追加したところ、タイラーさんはタホ湖から東に30㎞ほど行った荒野に資金繰りに行き詰まっているバイオベンチャーの本社兼研究施設があるがそこはどうかと提案してきた。
ここで米国西海岸のバイオベンチャーを取り巻く環境について軽くまとめておこう。
2003年くらいから、カリフォルニア大学サンフランシスコ校が中心となって、州や市と協力してサンフランシスコ市内のミッション・ベイという地区に大きなバイオ系の研究施設を含む一大研究都市空間を作り上げた。
同時期にスタンフォード大学がバイオ系のリサーチセンターであるクラークセンターを立ち上げ、シリコンバレー北部は米国バイオ系企業の三分の一が集中するバイオ研究エリアになっている。
華やかなIT系とは対照的に地味なイメージがあるが、バイオ系企業の従事者の平均所得もITに負けず劣らず高い。彼等もまたシリコンバレーの経済圏を支えている世界レベルで優秀な人材達なのだ。
ちなみに、影山物産がオフィスを構えたフォスターシティにも名の知れたバイオ系企業が2つも3つもあるが、今までは俺の興味の対象外だったから目の前を通っても素通りしてたわ。うん。
で、タイラーさんが勧めてくれたベンチャーは「有名大学やベンチャーがたくさん集まる」という地の利を捨てて、ネバダの荒野の真ん中に研究施設を作ってしまったらしい。高レベル施設の建設の際、地域住民との折衝などの面倒が少なくて良いとの判断だったが案の定、研究者がシリコンバレーに集中してしまい、人材の確保が難しくなってしまって開発が長期化し、虫の息なのだという。
俺にとってこれほど好都合な物件はない。
タホ湖はサンフランシスコから北東に200㎞ほど行ったところにある、ネバダ州との州境にある風光明媚な景勝地だ。近くにはカーソンシティという、5万人ほどが住む街がある。シェラネバダ山脈の山々を望むこの地は冬はスキーやスノーボード、夏は避暑地として有名で、それらの客を迎えるホテル内にはカジノが併設されている。
ひっそり暮らすにも、時々息を抜くにも、どちらにしても申し分のない環境だろう。
◆◆◆◆◆
「影山さん、今日はお時間頂いて有難うございます」
カーソンシティから50号線に乗って30分、脇道にそれて15分のところに研究施設を作ってしまったバイオベンチャー「ネオイリア」のCEO、モーリーさんは、フォスターシティの影山物産オフィスに来ていた。俺と投資についての話し合いをするためだ。
こちらは市川さんと俺、そしてタイラーさん。ネオイリア側はモーリーさん、COOのアメリアさん、研究開発リーダーのクロエだ。
モーリーさんは四十を過ぎてなおムキムキマッチョな男性で、主に資金調達を担当している。以前バイオベンチャーでたいそうな成功をして、今は後進の育成とばかりベンチャーに出資して回っているらしい。ここ2年は出資先の一つであるネオイリア社の経営が思わしくなく、見かねて経営に手を貸しているのだそうだ。
研究はアメリアさんが環境を整え、全体の研究はクロエが統括しているらしい。アメリアさんはカリフォルニア大学サンフランシスコ校で薬学を修めた才媛で30代半ば。クロエはスタンフォード大学のバイオデザイン・フェローという、世界で100人もいない「スタンフォード版バイオ・虎の穴」の修了生で20代後半という感じ。
市川さんやシャーロットとは方向性が違うものの、ギロ目だがかなりの美人だ。それを隠すようにスッピンでその辺にあったような適当な服を着ているのがもったいない。
その他従業員は総勢で25人。ほぼ全員がカーソンシティに住んでいるそうだ。
つまり、ネバダの荒野に研究施設を作ったのはアメリアさんと先代の社長ということか。モーリーさん無罪、心証アップ。
「出資をご検討いただけるということで本日はこちらへ参りました。その認識で合っていますか?」
モーリーさんは移動で疲れているがこらえて頑張っている感じだ。
「そうですね、お話して条件が合えばですが。NDA(機密保持契約)は後々交わすことを前提に今の出資状況についてお聞きしたいです。現在他社、または個人からどのくらい資金を調達されていますか?」
「弊社はバイオ系のVCからいくつか資金提供を受けておりまして、現在のバリュエーション(企業価値見積もり)は17ミリオンドル。投資ラウンドはシリーズBを2年前に終え、そこから先に進めていません」
80インチの液晶画面にモーリーさんが持ってきたノートPCの画面が映し出された。既存株主のリストと投資額の一覧が書かれている。
「なるほど。これらの株主を説得することは可能でしょうか? できれば私は創業者のあなた方の持ち分を除けば、唯一の株主になりたいと考えているのですが……」
「えっ? 私どもがどういう研究や事業をしているのかまだ何も説明していませんが……」
「事前に送られてきた資料でそのあたりは把握しました。専門的で解らない事もありましたが、要するに、DNAを操作した細菌由来物質によって創薬をするのですよね?」
「そのとおりです。そのためにレベル3施設をあのようなところに建設したのです。我々はアンスラサイクリン系のRNA合成阻害物質を微生物由来で……」
「ああ、すいません。正直専門的な話になると口頭で説明されるよりは文面の方が助かります。私の英語能力は最先端の医学知識のボキャブラリをカバーしていないもので……。それより、レベル2と伺っていましたがレベル3なのですか? あの研究施設は」
「ええ、将来的なことも考えて、はじめからレベル3施設を作っています。ローレンス・リバモア研究所の方々と共同実験をしても文句も言われませんでしたから、そこそこ使い勝手も良いのかと。なあ、クロエ?」
「……設備に妥協はしてない」
クロエがぼそっと呟いた。そういうキャラか。いいなクロエ。
「そう。妥協しなかったせいで当初の計画より随分と建築費がかさみまして……そのうえ、研究はクロエに頼りっきり。今流行のロボットシステムなんかを導入しているので作業は進むのですが、研究員の頭数が足りなくてですね……」
モーリーさんが苦しい現況を話す。
「可能であれば、サンフランシスコ市内に研究施設をもう一箇所作って本社をそっちに移転し、カーソンの研究施設は売却するなりなんなりしたいのですが……」
「だめ」
クロエが遮った。
「クロエ、そんなこと言ってもお前だけに研究を任せていたら、うちはいつ売上が立つのかも分からんのだぞ? お前だってもう1人2人研究員が居たほうがいいだろう」
「開発が遅れているのは謝る。でも、だめ。あそこは売らないで」
「クロエ! ここまで来て何を言い出すんだ!」
モーリーさんの声が大きく、険しくなっていく。まあ、この話の流れなら当然か。
「いや、良いんじゃないですか? 私もレベル3の研究施設がある、という事は将来的な強みになると思っていますよ。さすがにサンフランシスコ市内にレベル3や4の施設を新築するとなるとそれなりに時間がかかるでしょうし。
なんにせよ、ウチがその本社の移転分も含めて100ミリオンほどお金を出しましょう。モーリーさんは既存株主の方から、私への株の売却を促していただきたい。プレミアムは70%と、まずは言ってみてもらえませんか」
「100ミリオン!」
「!」
その場にいる、市川さんを除く全員が言葉を失った。日本円にして113億円をポンと出したうえに、今まで投資家に出してもらった資金を現在の額面に7割上乗せして返すというのだから願ったり叶ったり以上の話の筈だ。今後はいい報告も悪い報告も俺一人にすればいいのだから経営者の心理負担は相当に楽になるしな。
「このお金は慎重に使って下さいね。お金が入ったからと言っていきなり研究員や実験作業員を200人も300人も雇わないこと。創薬はFDAに認可されるのにとても時間がかかるのでしょう? 今から10年かかる、と思って大事に使って下さい」
締めるところは締めておかないとね。
「あの……経営者の交代などは……」
「求めません。CEOは引き続きモーリーさんにお願いします。ただ、そうですね……モーリーさんは本社をサンフランシスコに移す作業を担当し、そして実際に本社ができたらそっちで指揮をとって下さい。クロエさんにはカーソンの研究所を任せましょう。資材や事務の手続きは引き続き、アメリアさんにお願いします……ってことでどうでしょう? タイラーさん、私、この国の法律に沿ったお話が出来ていますか?」
もし、俺の構想が法的にアウトならそこはタイラーさんに調整してもらおう。
「いや、まあ、これくらいならいいんじゃないですか? 株主としての要望というか、出資条件ということで」
タイラーさんは合計140億円近いビジネスの契約に携われるのだから当然結構がっぽり報酬を持っていくつもりだ。笑いが止まらない筈だがそこをぐっと噛み締めているのだろう。
「クロエさん」
俺はクロエの方を向いて、にこやかに話しかけた。
「はい?」
「私はカーソンに住んで、貴方にいろいろ教わりたいのですが良いでしょうか?」
「え? でも、確かバイオの経験はないと……」
「ないですよ。でも、私も何かやってみたいんですよ」
クロエはモーリーの方を見たが、モーリーはうんうんと頷いているだけだ。「いいからOKって言え」の合図……合図ってほどでもないか。
「分かったわ……分かりました。では、そういうことで」
「カーソンは寒いですよ! 暖かくして来てくださいね!」
こうして1時間ほどの会議が終わり、影山物産の海外投資案件二例目はバイオベンチャー「ネオイリア」への投資に決定した。実務はタイラーさんと市川さんがアメリアさんと詰めてもらう。
こちらが用意していた「カゲヤマバイオエンジニアリング&ファーマシー」という名前は市川さんの裏切りとタイラーさんの渋い顔により早々に却下され、「ネオイリア」の名前を残すことになった。
なんだよぅ。そんなに俺のネーミングセンスおかしいかよぅ……
社名を守り通せたネオイリアの3人はクロエ以外は、笑顔でカーソンシティへと帰っていった。クロエは何か複雑な面持ちだったが、不服なわけではなさそうだ。
まあ、全体的に平和に話し合いができて、彼等にとって都合良い結論が出たんだし、これでいいんじゃなかろうか?
「とりあえず投資も大筋でまとまったわけだし、今晩は祝杯と行こうか」
「ねえ、影山さん」
「ん?」
3人を見送った後、市川さんが真面目な顔になって俺に話しかけてきた。
「私、タイラーさんとこの契約について纏めたらちょっとロスアンゼルスに行って来る。あの子どうしてるか見に行きたいの」
「そうだな、一度見てきてくれ。俺も気になってたんだ」
翌日、俺はカーソン、市川さんはロスへ飛んだ。新しい米国生活の始まりだ。




