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Delete  作者: Ruria
第5章 中編
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薔薇

「これは一体……」


 私は床に落ちたくまのぬいぐるみを拾い上げると、直ぐに確認した。


 間違いない。麗のだ。


「あー。見つかったんだ!」

「うん。でも、ここに落ちてたよ」

「えっ!? おっかしいなぁー」


 そう言って、落ちていた場所に指さすが、彼女は何故か目をまん丸くさせている。


「どういう事?」

「あ。いや。この部屋から出る時、確かその子、コートのポケットの中にいたはず……」

「じゃあ、どうやって……」


 なので、試しに匂いを嗅いでみると、あの時みたいに仄かな薔薇の香りがした。


「まただ」

「って事は、誰かここに持ってきたって事?」

「それっぽい。あとは、これ」


 そして、持った時にぬいぐるみの背後に違和感を感じるので、後ろにしてみる。

 すると、何故か封筒が取り付けられていた。


「もしかしてこれ……」


 なので、剥がして中身を開けてみると、7枚の便箋が入っていたが、1枚目にはこう書かれている。


――――――――――――――――――――――――


 この手紙を読んだ方へ


 誰かがこの手紙を手にしている頃、私は既にいないでしょう。


 ですが、私は短い期間、麗の母として、人生を謳歌できた事、とても嬉しく思っております。そして、最高に幸せでした。


――――――――――――――――――――――――


「まさか……」

「麗の母って書かれてるよねー」

「うん。初めて字を見たけど、麗のお母さんって、ロシアの方じゃなかったっけ?」

「そだよー」

「でも……」


 それにしては日本語が上手いな。と思いつつ、2枚目を見る。


――――――――――――――――――――――――


 ですが、私の死をきっかけに、麗が変わってしまったのであれば、もっと生きたかった。と後悔、しております。

 だけど、このままロシアに帰っても、病からは逃げられない。

 なので、命が尽きる、最後の最後まで、麗の母として、育児に専念しようと思いました。


――――――――――――――――――――――――


「凄い、強い方だったんだ」

「うん。そうみたい」

「でも、何の病気だったんだろう。まだ生きたかった。と書かれているけど……」

「うーん……」


 検討もつかなかった私は、更に便箋を読み進めようとした。


「つか、これ以上読み進めない方が良さそう」

「え? 何で?」


 すると、隣にいた彼女が突然、静かに諭す様に言ってきたので、思わず聞き返すと、真面目な顔でこう答えていた。


「いや。だって、本人じゃないのに中身、読まれるの嫌じゃない?」

「うーん……」

「しかも、内容が内容なだけあって……、ね」

「それは……」


 確かにそうだ。内容がまるで、パンドラの箱を開けてしまったかの様な衝撃さだったので、静かに便箋をしまう。


「まぁ、とにかく、それはバックの中にでもしまって、直接本人に渡そうよ」

「そうだね。わかった」


 なので、仕方なく手紙をリュックの中に入れると、改めてぬいぐるみを手に取る。


「確か……」


 よく見ると、片目が取れていたので再度、猫耳が付いたリュックから裁縫セットを取り出す。

 そして、近くにあったパイプ椅子に座ると、緑色の糸を針の穴に通して、チクチクと縫ってみることにした。


「望ちゃん?」

「ん?」

「何で緑色で縫ってる訳?」

「あー。茶色が無かったから仕方なく……」

「いやいや! なんつーか。緑だと縫い目、目立たない?」

「だけど、そっちの方が、麗には良いのかも。と思って……」

「あっ。そー……」


 ふと、隣にいた彼女は、唖然とした顔で聞いてきたので答え返したら、それ以降、相槌しか帰って来なくなってしまった。


 不味いこと、言っちゃったかな?

 だけど、片目が無いままだと可哀想だから、直してあげようと思って縫っているのに。


 言い分に納得がいかないまま、針を持つ手を進めると、あっという間にくまたろーの目が両目になった。


 よし。これを麗に届けよう。そしたら、中にいる『うらら』ちゃんもきっと、喜んでくれる。


 そう思い、左手にくまたろーを抱えながら椅子から立ち上がろうとした時だった。


「あっ! 姉ちゃん!」

「えっ!?」


 扉が勢いよく開かれたので、咄嗟に顔を上げると、何故かサクヤが驚きながらこちらを見つめていた。

 両手には相変わらず手錠がかけられていたが……。


「それに、マスターも!」

「おっ? サクちゃん!」

「そーですよ! はぁ。無事で良かったぁ……」


 彼はホッとしたかのように口角を上げると、扉に鍵をかけ、幸さんの隣に腰かけていた。


「えっ? つーか、サクちゃんはキチガイ院長に捕まってたはずじゃ……」

「あっ。実はですね、あれから蛇川先生が助けてくださったんです!」

「蛇川先生?」


 聞き慣れない名前に彼女は首を傾げていたが、彼はというと、いつもよりかなり明るい声で話し始める。


「はい! 実は、カウンセラーの方なんです!」

「へぇ……」

「その方も囚われていたみたいで、事情を話したら、手を貸して下さいました」

「なるほど……」

「それと……、麗兄さんも無事です。一時期危なかったのですが、今、蛇川先生といっしょにいます」

「そっか……」


 私はホッと胸を撫で下ろすと、少し彼を見る。

 目は前髪で隠れてしまっていて、口元しか見えないが、やっぱり、夢の中で見かけたあの人に間違いない。


 少しずつだけど、彼の事も思い出してきたし、麗の事も少し、思い出してきた……、気がする。


 確か……。


「なので、一緒に蛇川先生の所まで行きませんか?」

「えっ?」

「先生も、お二人さん探してましたし……」

「そう、なんだ」


 何かを言いかけた時、突然彼から誘ってきた。でも、蛇川先生がどういう人なのか、今の段階だと全く想像がつかない。探していたとは一体……。


 カウンセラーの方とは言っていたけど、その反面、胡散臭いとも感じていた。なので、かなり警戒もしていたが……。


「んまぁー。探していたなら、行くしかないよねー。望ちゃん!」

「うん。麗もいるなら、尚更……」

「なら、とっとといくぞー! サクちゃん、改めて案内よろしくぅ!」

「はーい。分かりましたよ。マスター」


 幸さんは何の警戒もなくそう言うと、ベットから軽やかに立ち上がって病室の扉を開け始めた。


「あのー……」

「んん?」

「そういえば狂者、見かけてないような……」

「あー。あの赤い目ん玉ちゃんかぁ。できれば会いたくないねー。勿論、取り巻きにも」

「だけど……」


 狂者は、本当に何者だろう。

 神出鬼没の様に現れては私達に襲いかかってきて、その姿は黒い影に赤い目玉。

 パーツはそれだけなのに、子供の姿になったり、女子高生になったり、大男になったり……。


「いつ見ても、謎」


 私はぼそっと本音を呟くと、ローズの病室を後にし、サクヤ達の後について行った。

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