反転する真実
映像は何処かの教室が映し出されていたが、何故か人は映っていない。おまけに窓に映る外の景色は夜で、満月の光によって怪しい雰囲気を醸し出していた。
「学校の教室? これがもしかして……。戮さんが言いたかったこと?」
だけど、これだけでは全く意味がわからない。なので、更に動画を凝視する。
――あはは。とりま、何か言っちゃえよ!
――え? なんだよ急に!
――ほら。折角の動画記念なんだからさー!なんか言っちゃいなって!
――なんか言うって……あのな。俺は動画やんの初めてだからさ。はっきり言ってこーいうの、わかんねーのよ。
――えーー! ガチで!?
――あぁ。だからさー、こーいう時ってさー、何言えばいいんだ? 恵?
「恵って……」
お姉ちゃんの事だ。
でも、画面にはまだ人が映ってない。声だけではなかなか判別しずらいけど、お姉ちゃんの声だけは何となくわかる。
って事は、お姉ちゃんはカメラの裏側にいるんだ。だけど、ウチは怖いと思いながらも更に動画を再生する。
――ったくもー。今日はさ、あの女と遊ぶんでしょ?
――あー。遊ぶってか、ちょっと痛ぶるだけだ。だってあいつ、うぜーし。
――確かに!
――ぶつぶつ変な呪文ばっか唱えててよー。
――あはは! 年中「バベル様……、どうか御加護を」なんてシスターぶっちゃっててさ!
――まさか、呪文唱え過ぎて頭沸いちゃったのかな?
――沸いちゃった!って! まじウケんだけど!
「えっ……これって……」
戮さんが言ってた事と全く逆じゃん。どういう事?
本当は仲良かったんじゃ……。
震える右手を左手で抑えながらも、更に動画を見る。
――まー。いーんじゃねーの。いつか、きめぇセンコーに処女奪われるんでしょ?
――はぁ? お前、あの子と仲良かったんじゃねーの?
――えぇ? 誰があんな変な奴と付き合うんだよ。あっちが一方的に「トモダチ」とか言ってきてるだけ。冗談はやめてよね!
――あはは! まじか! 恵性格わっる!
――ったく。陸斗と神田さんのテンションの高さは相変わらずだな。
――つーか、テンション高いのは2人の特権だし! 分かったぁ?
――はいはい。
「やっぱり……」
戮さんと仲良かったんだ。悪い意味で。それと、新たに声のトーンが高そうな男の人の声も聞こえてきたが、何故かとても聞き覚えがある。
「思い出した。この声、模型さんの声だ……」
そう。戮さんに会う前、少しだけだけど、望さんや麗さんと一緒に行動を共にしてくれたんだよね。
しかも、最後は狂者から身を投じて庇ってくれて……。ウチらに対してもかなり親しくしてくれたのに。なのに……。
「何で、戮さん達は人の悪口を……、平気で……」
全てが信じられないと思いながらも、その先が気になってしまったウチは、更に動画を再生する。
――あのさー。卓ちゃん、普通に「恵」って言ってくんない? ガチで調子狂うんだけど。
――うっさいよー。警備員来たらどーすんの? 少しは静かにしなきゃー。
――あー。ところでさ、恵。
――ん?
――恵はよ、本当に柏崎をやっちゃってもいいのか?
――別に。
――いいんだ!? うわぁー。
――だってあいつ、キモイし、変態だし、ドMだし!
――わ! 神田さん、はっきり言ったよ。まじで引くわ!
――はっ。まー、多少痛ぶっても大丈夫じゃない? 意外と丈夫だったし。ねー!
――ふーん。じゃー、初動画記念にやるか?
――おー! いいねいいね! やっちゃおーぜー!
「はぁ?」
しかし、最後の言葉を聞いた途端、胸の底からとてつもない程の怒りが込み上げてきてしまった。
なので、ウチは思わず青白くなった彼の遺体を強く睨みつけたが、怒りが収まる気配は全く無い。
何が『ドM』だ?
何が『多少痛ぶっても平気』だ?
何が『意外と丈夫』だ?
人は、誰かの玩具でもないし、誰かの所有物でもない。って当の本人がお父さん達に言い放っていたはずなのに。
「まじで……。最低」
まさか、お姉ちゃんが裏でこんなことをする人だと思えなかった。そのせいか、残念でしかない。
「こんなことしてる時点で……。人以下じゃん」
そして、涙ぐみながらもう一度動画を見た。
その時映っていたのは、お姉ちゃん達が制服姿で蹲る女子高生を、殴ったり蹴ったりしている映像だ。
まるで、お酒に酔ったお父さんを見ているかの様で、とても頭が痛む。
――ねーねー晶ちゃん。まだ遊び足りないよぉー。一緒に遊ぼー!
――オラ! 立てっつってんだろ? まだ始まってばっかじゃねーか!
――……。
しかも、3人にいじめられていた女子高生は、戮さんが親友って言っていたメンバーのうちの一人、柏崎晶さんだと思う。
黒髪のポニーテールで、紺色の制服を着ているが、肌は妙に白い。そういや、遠藤の日記に化粧が濃いって書いてあったのはこの事? 見た目はどこか、望さんに似ているせいか、何故か胸が痛くなるけど。
――そういえば、晶ちゃんって、髪切ったらとっても可愛くなりそう!
――あー。それは確かに!
――ってことで、恵、今から美容師になるねー!
お姉ちゃんはと言うと、馬の尻尾の様に長い晶さんの髪の毛を思いっきり掴むと、右手で持っていた鋏で切り始めた。
「あれ? あの鋏って……」
確か、麗が遠藤を殺した時に使った鋏と、かなり似ている。銀色で鋭くて……、とても切れやすくて、形も大きさも全く同じだ。
――ほらー! よーく見てみなよ!
――おいおい。切りすぎじゃね?
――良いんだって! これぐらい。ねー!
お姉ちゃんは晶さんにそう言うと、耳元で何かを囁いていた。でも、映像のせいか、細かい部分までよく聞こえない。
――これじゃあ……、だめ……
――なにぃ?
――この……髪型じゃ……バベル様に……お見せできない!
――別に良くない? どーせ、あんたはただの『狂った信者』なんだから。
――神田さん……。お願い……、もうやめて!
晶さんは激しく泣きながら抵抗していたが、お姉ちゃんは笑いながらも容赦なく切り進んでいた。
「え……」
そして、映像はここでブツリと途絶えてしまったが、ウチはあまりの展開に正直、困惑している。
「お姉ちゃん……戮さん……なんで……」
ウチはこんな展開、望んでいなかった。そして、戮さんが死ぬ間際に遺したあの言葉も、言って欲しくなかったのに。
「じゃあ、遠藤は一体……」
ただの作り話だった。という事?
ダメ。信じられない。あんなに証拠が沢山出ているのに、遠藤は全く関わって無かったなんて!
いや。その逆?
遠藤はいじめを抹消しようとして、わざわざあんな事を?
「ガチで……、ふざけんじゃねーよ!」
そう泣き叫ぶと、ウチは握りしめたスマートフォンを思いっきりテレビの画面に投げつけた。
――ガシャーン!
画面もスマートフォンも壊れて使えなくなってしまったが、もういい。
それでも怒りが収まらなかったウチは、小さな液晶テレビのコードを思いっきり引き抜く。
そして、ベットに横たわる遺体に向かって思いっきり振り落とすと、ゴン。と鈍い音がした。
「ごめんね。痛かった? 本当はこんなこと、したくなかったんだけど……」
ウチは溜息混じりにそう言い放つと、テレビの裏に貼り付いていた赤いUSBを剥がし取る。
「でも、仕方ないよね? 戮さんは、お姉ちゃんを悪い道に進ませたんだから。これぐらいやっても、当然じゃん。ね」
ウチは微笑みながら制服のポケットに忍ばせると、今度は引き出しから大きいカッターを取り出した。
そして、彼の頬や服、皮膚、身体中全てに深く刺し込んだ。
沢山、沢山切り込んでいくと、くっきりと傷跡が残るのに、あの時みたいに血は全く出ない。死んでいるからかもしれないけど、傷口から見える血肉はとても綺麗だ。
なので、もっと近くで見たいと思い、容赦なく遺体に傷をつけていく。
すると、不思議と罪悪感より、快感の方が上回ってきた。もしかして、望さんも……。
「うわ。汚たなっ……」
ふと、気づかないうちにマスクが血だらけになってしまった。なので、バツ印のマスクを剥ぎ捨てながら言うと、その場から立ち上がり、病室の扉を開ける。
もう、これで、お姉ちゃんや、戮さんとも、さようなら。死んだって、生きたって、変わらない。なら……
「……!」
すると、扉の前には、見覚えがある人が突っ立っていた。
「お姉……ちゃん?」
そう問いかけると、お姉ちゃんと呼ばれた少女は、コクリと微かに頷いたが、一言も発しない。それどころか、俯いたまま一向に顔を上げない。
「死んだなんて、全部冗談だよね? 全くもー! あの変な動画送るの、やめてよね?」
「……」
しかし、少女はにこりと微笑むだけで何も答えない。
「え? ねー! お姉ちゃん、お姉ちゃんってば!」
「……」
明らかに様子がおかしい。揺さぶってみると、人ではない、冷たい感触がしたのだ。
「まさか!」
もう気づいた時には遅かった。
目の前には、赤い一つ目の姿をした少女がウチを見ると、微笑みながら一言……。
「ミィーツケ、タ!」




