発作
「……」
「おい! 愛!」
「……ん?」
ふと目を覚ますと、目の前にいた戮さんがウチの両肩を持って揺さぶりながら声をかけてきた。でも、顔はとても青ざめている。
「お前、俺の話聞いてたのか?」
「うーん……」
「さっきから、ぼーっと突っ立ってたが、何があった?」
「あ。んーと……。実は、ここに来るまでの間の事、思い出していたの」
「あぁ? ここに来るまでの間?」
「うん。多分、過去の事だと思うけど……」
しかし、かなり考え込んでいたせいか、色々と質問してくる彼に困惑しつつも、
事の詳細をかなり細かく話した。
そう、今まで生きてきた経緯の全てを。
「ふーん」
「つまり、戮さんが言いたかったことは、その、そういう意味。だよね?」
「あぁ」
「って事は、今までのウチは、誰かに虐げられながら生きていたけど、その加虐者をやっつけた事で障害物が無くなった。だから……」
ウチはそう言って彼が腰掛けているベットの隣に座り、答えを待つ。
「そうだな。お前が母に『復讐』し、抹消した事で、ずっと縛られて苦しかった鎖が消えた。と同時によ、空だった心も満たされたんじゃねえの?」
「満たされ……た?」
「ま。あくまでも『自己満足』だと思うが」
「それって、つまり……」
「お前も……。俺と全く同じ感情で殺めたのか?」
「……」
しかし、突然の質問の意味が分からず、言葉を失ってしまった。
「というのも、中には違う感情で殺める奴もいるからよ。誰とは言わねぇが…… 」
「違う、感情で……」
「あぁ。まぁ、その。単に聞きたかっただけだ。深い意味はねーよ」
でも、彼は笑顔で軽く答えると、壁に立て掛けていた金属バットを手にし、扉へと向かう。
きっと、先程の話は、自分と同じ考えなのかと聞きたかったのかな。だけど、前に微かに感じた、あの怖い違和感はなんだろう。
「戮さん……」
「んあ?」
「もう、行くの?」
「あぁ。お前だって、いつまでもこんな所、いたくないだろ」
「まぁ……」
「次へいくぞ」
「あ……」
そして、取っ手に手をかけ、出ようとした時、突然、スマートフォンから低いバイブ音が鳴り出した。画面はあの時以降、深くヒビ割れたままだが、今の所、支障は無い。
「なんだ? 今の音」
「えっと、多分……って、な、何なの? これ!」
「おい。何が来てる?」
「えっと……」
なので、恐る恐る開いてみると、差出人が不明なメールが一通届いていた。本文には、見たことの無い、呪文の様に長くて奇妙なURLが貼られている。
「愛。ちょっと見せろ!」
「あっ! でも!」
しかし、人差し指でタップして見ようとした途端、力ずくでスマートフォンごと取り上げられてしまった。
「……なんだ……これ」
だけど、何故か彼の様子がおかしい。
いつもの冷酷で無機質な顔ではなく、焦りと戸惑いが混じった様な表情になっていた。
「その。何が……、写っていたの?」
「あ。いや……。別に。何も……」
ウチは心配そうに声を掛けてみたが、彼は首を横に振って言葉を濁すだけで、まともに答えてくれない。
右手にはウチのひび割れたスマートフォンを強く握り締めている。
「じゃあ、何ともないなら返して!」
「……いや。これは駄目だ!」
「はぁ? 別に良くない? ウチのなのに。なんで?」
「これだけは絶対に駄目だ! だから……」
なので、無理矢理にでも返してもらおうとしたが、彼は声を荒らげながらも首を横に振って、渡そうとしなかった。
「え。そんな……」
ウチは思わず深い溜息を零すが、彼はと言うと、青ざめた顔で呪文の様に『駄目だ』と連呼している。
「駄目だ! これは、絶対に……。絶対に……」
だけど、あまりにも変わりすぎて戸惑いを隠せない。あんな挙動不審になって首を横に振る戮さんを見たのは、今回で初めてだ。
一体、どうすれば……。
なので、ウチは一旦、洗面台の方へと後退り、離れた場所で様子を見ることにした。
それにしても、何かおかしい。
初めて逢った刑務所から今まで、こうして一緒に歩いていたけど、彼の事は自分から打ち明けてくるまで、全く知らなかった。
あとは、彼がお姉ちゃんと仲良かった事も、行方不明ではなく、遠藤に殺されていた事も。お姉ちゃん好きと言いながらも、ウチは全くお姉ちゃんの事を知ろうとしなかった。それと同じく、戮さんの事も……。
「はぁ……」
何も知らないまま、ここまで来てしまった自分に苛立ちを募らせながら、左手にできた拳を強く握りしめる。
もしかして、戮さんはまだ、ウチに言えない『何か』を抱えている? だとしたら……。
「あの……、戮さ……」
「駄目だ……。うっ!」
「え!?」
なので、未だに震えている彼の元へ近づこうとした時、突如、彼が両手でお腹を抱えながら苦しみ始めた。
「どうしたの!? ねぇ! 戮さん!」
「ぅう……痛ってぇ……」
「どこが痛むの?」
「あ、ぁぁああ! 全部が……。痛い。痒い。苦しい。ぁあああ!」
「えっ……」
彼はと言うと、苦しく叫びながら左手で自身の首元を強く掻きむしったりしていた。
そして、顔にはいつの間にか水玉の様な赤い湿疹が全体に広がっていて、見た目からして、とても痒そうだ。
「何でだろう……なぁ。こんなの……初めて……だ。 ぁああああ!」
「ちょっと、立てる?」
「まぁ……何とか……」
なので、ウチは痒さと動悸で苦しむ彼を近くにあったベットに運んで横にした。そして、彼の上にそっと、白い掛け布団をかける。
「おま……」
「じゃあ、ここで待ってて! 薬持って行くから!」
「まて……」
「え?」
ウチは薬を探す為に部屋を出ようとしたら、彼が私の左手首を強く掴み、震えた声でこう言ってきた。
「俺の事は……。その。恨んでも……、いい」
「え? 何言ってんの急に……」
「だがな。恵だけは……絶対に……恨むんじゃ……。ねーよ。いいな?」
「何……、言ってるの!? 『俺の事は恨んでも』って!」
彼は虚ろな目でこちらを見ながらそう言うと、泣きじゃくるウチの手の平に、そっとスマートフォンを置く。
「それが……。この動画の……、答え……、だ」
「えっ……。戮さん!? そんな!」
そして、彼は息を荒らげながらも不可解な言葉を残し、眠るように瞼を閉じた。
「ねぇ! ねぇってば! 戮さん!」
その後、ウチは泣きながら大声で声をかけてみたり、強く揺すったりしてみるが、全く起きない。握り締めた右手は氷の様に冷たくなっていた。
「そんな……」
色々な事が目の前で起きていて、頭の整理が追いつかない。
でも、このままぼーっと突っ立っているのも時間の無駄で、先しか進めないのも頭ではわかっている。だけど、何故か足が動かない。
「ふぅ……」
1度冷静になろうと思ったウチは、眼を瞑って深く溜息を吐くと、右手にあるスマートフォンをそっと取り上げる。
画面は先程よりヒビが進行しているが、まだ大丈夫。なので、震えた指でメールに書かれたURLをタップした。
「え……これって……。ちょ! 何これ!?」
すると突然、ある動画サイトの画面になり、勝手に再生され始めた。
※お詫びのお知らせ
更新してからのべ、4ヶ月程空いての更新となってしまい、すいませんでした(;Д;)
まだまだ続きますのでまた、更新を待っていただけると幸いです( ´・ω・`)




