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Delete  作者: Ruria
神田愛【回想】
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悪夢の始まり



――トゥルルルル……


 9月の事だ。ウチは丁度、叔母さんの部屋である花を眺めていると、1本の電話がかかってきた。


「もしもし……」


 電話に出たのは近くにいた叔母さんだったが、とても真剣な顔をしている。


「えぇ。えぇ。はぁ!?」

「おば……、さん? どうしたの?」


 すると、突然受話器を持ちながら声を荒らげたので、心配そうに声をかける。


「しー……」


 でも、叔母さんは冷静な顔で人差し指を口元に当て、ウチに合図を出していたので、暫く黙る事にした。


「返せって……、あのね。あんたさ、自分で何やったか分かってんの? はっきりと言うけどね、自分の娘を赤の他人に売り飛ばすあんたなんかに子供を育てる資格はない! とっとと男の所へ帰れ! そして、二度と私達の前に現れるな!」


――ガチャッ……。


 すると、叔母さんは怒鳴り声を上げながら怒った勢いで受話器を切っていたが、何故か思い詰めた様な表情を浮かべている。


「ふぅ……」

「叔母さん。本当に大丈夫? その。お母さんの事だよね……」

「えぇ。最近、愛ちゃんのお母さんからひっきりなしに『娘を返せ』としつこく電話がかかってくるのよ。あいつ、証拠不十分で釈放されたのをいい事に、図々しいわ」

「えっ……釈放って……」


 だけど、この時ウチは一瞬、身体が固まってしまったが、叔母さんは静かに頷くと、こう話を切り出す。


「それは本当の話みたい。今もこうやってとち狂って電話かかってきているみたいだし」

「……」

「でもまぁ、私がいる限りは大丈夫! 簡単には渡さないから!」

「そう……。なら……」

「とりあえず、私は研究室に戻るわね。何かあったらちゃんと私に言うのよ?」

「え? あ。う、うん!」


 でも、叔母さんは笑顔で答えると、研究室へと戻ってしまったが、何だか妙な胸騒ぎがした。きっと、お母さんの事だ。影でまた変な男達とつるんで何かを行うつもりだ。


「叔母さん……」


 ウチの前だと無理して気丈に振舞ったりしているけど、度重なる電話のせいか、顔色がとても悪い。目の周りも隈がはっていて、疲労が増している様にも見える。このままじゃあ、倒れるのも時間の問題だ。だから……。


「あ。これ……」


 ふと、ずっと眺めていた青い花を見ると、ウチは咄嗟に本棚から植物図鑑を取り出し、必死にページを捲った。

――――――――――――――――――――――――


 トリカブト


 比較的有名な有毒植物。

 全草や根には毒性の強いアコニチンが含まれているので、危険である。

 そして、塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、鳥頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。

 尚、セリ、ヨモギにも外見が似ている為、誤食による中毒事故も起きている。


――――――――――――――――――――――――


「トリカブト……か」


 そして、カレンダーを眺めると、明日が丁度、お母さんの誕生日だった。


「あっ」


 そこで、何かを思い出したウチは、近くにあった大きな薬棚を覗いてみる事にした。本当はこの花を採っても良かったが、あくまで観賞用だ。よく見ていた花であった為に、見るだけで毒があるか無いか、はっきりと分かる。


「これは……」


 すると、鍵が掛かった棚を見つけたが、南京錠が幾つもかかっていて、開けられない。きっと、用心深い叔母さんの事だ。危ない物だからと言って、厳重にしてあるのだろう。


「鍵が無いと……無理か」


 ふぅ。とため息をつくと、ウチは叔母さんが戻ってくる前に白いソファに腰掛けた。でも、何だか落ち着かない。


 あの棚の中を開ければ、欲しいものが手に入るんじゃないかと思うと、益々欲しくなる。


 なので、ウチは叔母さんが寝静まる夜になるまでの間、普通の人として、静かに過ごすことにした。




 深夜。ウチは音を立てないよう、ベットからゆっくりと起き上がって周囲を見渡す。

 窓からは月がもうすぐで満月に差し掛かっていて、星空が綺麗に輝いている。


「さて……」


 あの南京錠がたくさん付けられた鍵を見つける為、叔母さんの寝室へと向かう。

 幸い、叔母さんは連日鳴り止まぬ電話でかなり疲れているせいか、ベットの中で寝息を立てていた。


 なので、そっと扉を開け、忍び足で歩きながら中へと入ると、ベットの隣にある照明ランプが付いた小さな机へと向かう。ランプの光は消えていて、窓からは月の光が差し込んでいて、静寂な夜だ。


「叔母さん……。ごめんね」


 ウチは叔母さんに聞こえない様、小さな声で謝ると、そっと引き出しを開け、鍵を手に入れる。でも、普段はこの引き出しにもにも鍵がかかっているはずなんだ。なのに、叔母さん、今回だけ掛け忘れている。


 もしかして……。無理してるんじゃ……。


 沢山の苦労を知ってしまったあまり、思わず泣きそうになったウチは足早と部屋を後にし、例の棚へと向かう。


「ここだ……」


 今度こそ、叔母さんの苦労を取り除かなきゃ……。叔母さんまで倒れてしまったらウチは……。


 色々と想いながら1つ1つ、南京錠を取り外し、棚を開ける。


「あった……。これだ! でも、足りない」


 ようやくお目当ての物を見つけたけど、まだまだ足りない。これでも充分、致死量だけど、かなり図太いお母さんを確実に屠る為には、もう1つ、何かが必要だ。


「だけど、同じ奴、どこにあるんだろう。んー……。ん?」


 ふと、考えながら薬棚の中を眺めていると、ある小瓶を見つけた。よく見ると【劇薬 アコニチン】と書かれている。


 確か、この花と同じ成分の毒薬で、かなり猛毒な為、体内に取り込んだら、確実にあの世へ逝けるって書いてあった様な……。


「これ、使ってみるかな」


 なので、小瓶を手にすると、パジャマのポケットに入れ、棚を元通りに戻す。そして、何事も無かったかの様に研究部屋を後にした。


 そして、明日が来るのを静かに待つ。


 待っていてね。お母さん。とっても最高なプレゼント、あげるから。

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