表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

追章*布告の篇


とうとうここまで来ましたヽ(´o`;

魔女の襲来篇です。


それに伴い、後半は彼女の語りに入ります。

***



初夏の風が心地良い。


薄らと目を開ければ、やや涙目の『彼女』が視界に映る。


それを見詰める『彼』はこの上もなく幸福そうに微笑んでみせた。





「おはよう。 沙紀。君の膝をもうじき昼休みだけでは満足出来なくなりそうだよ……?」



「………ご自分で言ったことは守って下さい」


疲れきった様子で呟く彼女も可愛い。


この表情見たさに、毎回こうして膝を占拠するようになった自分も大概だ。


加えて。

敢えて彼女の言葉を使い、彼女自身を言いくるめる瞬間もまた至福である。




「……うん、そうだね。ふふ、だから君を貰うよ?……自分の発言には責任をとってね」




「!?………っ、あ……貴方は本当にどうしてそういうことをさらっと……」


もごもご言いながら、顔を覆ってしまう。


『彼』はそんな『彼女』へ手を伸ばした。

身を起こしながら、彼女の指先を剥がして頬を寄せる。



後ずさろうとする動きも全て封じて、囁いた。




「駄目だよ、沙紀? ……隠したら、お仕置きするって伝えたよね……?」



一気に青ざめ、逃走を試みる『彼女』。



しかし、そこで逃がす『彼』ではない。





彼女の白い首筋に、埋められる吐息。

刹那の痛みと、脱力する彼女。



残されたのは緋色の所有印である。





「……………………ごめんなさいもうしません」




一息に言い切った『彼女』に『彼』は満足げに微笑した。




「今日は一段と素直で可愛いね、沙紀。そんな君にご褒美」



脱力していた彼女には、逃げる間もない。



触れる頬。

掠めたそれに気を取られた合間に、重なる唇。


眇められた『彼』の視界に、熟れた林檎の様な『彼女』が映る。




それに彼は、会心の笑みを浮かべた。


満足するまで幾度も啄んだ後、ようやく彼女を解放する。





『君』ではなくて『自分』に、だろう………?




最早ことばにならない『彼女』の声。


それは、誰の耳にも届くことはない。












そう、思われた。









風が、凪ぐ。


薫るのは、菫。








一瞬の静寂の後に、一対の足音が『彼女』の耳に届いた。



そして響く声。








「失礼。お邪魔だったか、 榊 美鶴殿?」







鈴を転がしたような、涼しげな声。



その表現が彼女以上に似合う人物を、他に知らない。


懐かしさに、思わず振り返って『彼女』が見つめる先。




その美しい少女は、紛れもない。


『彼女』の大切な人。


かけがえの無い、友人である。



まさか、どうして………?



彼女のそんな思いを汲み取るように、その美しい少女は花開くような微笑を浮かべた。




そうしている間にも、僅かに立ち込め始める不穏な空気に少女は気付いたようだった。




微笑みの意図をすり替え、少女は不穏の起因となっている『彼』に向き合う。




「お初にお目に掛かる。貴方は榊の継嗣で相違ないね?……叶 水紀と申します。沙紀とは予てより親しくさせて頂いている。今日こうして足を運んだのは、一言挨拶をと思ってね………以後、お見知りおきを」






艶然と微笑んだ少女は、再び吹き始めた風にその美しい髪を靡かせて。



明らかな敵意を『彼』へ向けて睥猊する。









紫園の魔女が、学園に舞い降りた瞬間だった。





















***




魔女は『彼女』を見守ってきた。


それは魔女にとって『彼女』が大切な存在であるからであり。


その理由を知るのは、魔女ともう一人だけである。






***








叶 水紀。


それが彼女の名である。

彼女は今を生きながら過去世を引き継いでいる。



一言で言えば、前世持ちだ。






「あーーー…、もう。我慢ならないよ。どうして依りにもよってあれの目に止まったのか………」




今日もまた、魔女が愚痴を溢している。

その傍らには、使い魔こと腹心の少女が立っており。

普段と変わらず、苦笑いを浮かべて相槌を打つ。




「貴女は本当にあの子が大切なんだね、紫園?」




少女の名は、伊織 樒。


表向きは、白鴛清華大付属学園 新聞部副部長として学園生活を送る少女である。


しかしその実、この新聞部。

知るものが知る別称を持つ組織であるが。


その存在すら、実際は公にされていない。


故にその正式名称は通常呼ばれることはないが、仮に呼ぶことがあれば次のようになるだろう。



白鴛清華大付属学園 新聞部こと『白聞』。

またの名を学園風紀統率役員会。



伊織 樒はその名誉会員である。

また、彼女は他のメンバーから次のように呼ばれる。



『白聞』の王佐。


即ち、風紀のナンバー2が彼女である。










その少女と魔女の付き合いは、周囲が知るよりも遥かに長いものになる。


その関係性については互いの他に知られるものでもなく。


もはや腐れ縁。因縁の間柄と言っても過言でない。




「当然のことを繰り返さないでくれよ。樒? 勿論頼んだ調査は進んでいるだろう?」



「ふふ、当然だよ。貴女こそ急かしてくるなんて珍しいこともあるね」



「………あの子は特別だ」



そう呟き。目を細め、幸福そうに笑む魔女。



その横顔に腹心の少女は苦笑し、ややあって真顔に戻る。





「『彼』だけでなく『かの人』さえも敵に回すつもりでいるのか………?」





問いは、緊張を孕んでいた。


しかし、その問いを受けて尚魔女は僅かも動揺する様子もなく。




寧ろ、その笑みを深めて見せるのだ。



これには少女は苦笑する他無い。




「その問いは無意味だよ。………分かるだろう、樒? 私はもう二度とあの子を手放すような愚は犯さない。………あの子は、私の半身なのだから」




想定通りの答えを返されたところで、微笑む。


少女は既にその意思を決めているからだ。


彼女が唯一主と認め、従うのもまた唯一人。



紫園の魔女。



残酷で、途方もなく優しい彼女だけである。




「ならば、もうなにも言わない………貴女の思う通りに、主」



「………お前には感謝しているよ、樒。だから最後まで付き合っておくれ」



「はいはい」




軽口のようでありながら、腹心の少女が主に向ける微笑みには僅かの曇りもない。



運命を共にする魔女と使い魔は、既にその標的を定めている。





『彼女』をあの学園から解放するために、魔女と使い魔は動き始めた。








































すべては、あの子の幸福の為。


その為なら手段は選ばない。


大切な、片割れ。





過去世で『双子』として生きていた記憶はもはや『彼女』のなかに残ってはいなくとも。





それでも私は、私の大切な片割れを不幸のままにしておく気はないから。




だから、覚悟して。


『王子』も『魔術師』も関係ない。


あの子を害するものは、すべて私が排除してみせる。




私は『魔女』だもの。






たとえ、この命を引き換えにしても。


今度こそ、繰り返さない。



沙紀。あなたは、私が守って見せるから。







ここまで読んで頂いた方々へ感謝の思いを込めて。


まだ、この先どこまで噺を広げていけるか検討中ですので…次回の投稿はやや間が空くかもしれませんρ(・・、)



因みに。

紫園の魔女が語る『王子』は勿論『彼』ですが。

もう一人は、本篇にて呟いていた例の人です。


この人について語りを入れるか入れないかで物語の結末にも若干変化があるかもしれないです。



第一部から、次の幕へ。

また再びお会いできる幸運を願いつつ………



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ