『陵辱の乙女』
日間23位ですって。
ありがとうございます。
◇◆ロロ視点◇◆
我々は今、街道から外れた原野を馬で駆けている。
原因は半刻ほど前に来た伝令の内容だ。
いわく『第二軍団が敵軍と遭遇し会戦するも敗北し退却』とのこと。
予想よりも敵軍の集結が早過ぎる。
場合によっては戦略級の修正が必要になるかもしれんなかった。
この事態に輜重隊は第一軍団への急行を決定したのだが、いかんせん、足が遅すぎる。
しかも、第一軍団も伝令を受けているはずである。
そして何よりも問題なのは、荷車の数からして、現在輸送中の物資が届かなくとも第一軍団の決戦には影響しないだろう事だ。
これは一見問題無いように思えるが、彼らが決戦を行う前に到着できなければ私の計画は失敗してしまうのだ!
そのため、なんとか馬を一頭──リザの分だ──を指揮隊から借り受け単独で急行し、今に至るのである。
◇◆◇◆
駆けることさらに半々刻。
周囲の地形からして、会戦場所と予想した場所まであと少しの所でのことである。
「ご主人、前から音がするぞ」
さすがは狼。
フードを被っているにも関わらず、優れた聴力だ。
私が馬を止めて集中しても、何も聞こえない。
……五感には自信があるのだがな。
「なんです?」
リザはフードを脱いで、文字通り聞き耳を立てる。
あまり意識はしていないのだが、左右に揺れる両耳に自然と目が惹かれてしまう。
……触ってみたい。
「………。馬蹄なのだな。こっち歩いて来るぞ」
斥候か?
「数は……。ん?一つ?」
一つだと?
歩兵であれ騎兵であれ、どこの軍でも斥候は二人一組で行動するのが基本だ。
しかも歩いているということは、行軍中にはぐれたか?
……いや、歩兵はともかく、襲撃でもなければ移動性に優れる騎兵が隊列を離れるはずが無い。
と、なればやはり斥候と考えるのが無難だろう。
私も全勢力の軍制を知っているわけではないのだから、単独で斥候を出す貴族もいるのかもしれない。
……その貴族、絶対に弱いな。
「彼我の差はどれほどです?」
「200と少し、だな」
「接触を回避するのは難しいですね……。フードを被って下さい。味方ならば良し。敵ならば騙し討ちです。合わせなさい」
「わかったのだな」
歩を進め、残り50メートル程のところで私の目もその姿を捉える。
金属製の全身鎧に遠目からでも判別できる程に装飾過多な鞘の長剣。
結構に背は低めだが、おそらくは騎士だろう。
20メートル程にまで近づけば、相手の雰囲気が掴める。
体が微動だにしていないのを見るに、相当な手練だろうか?
そうならば単独での斥候を申し出ても不思議ではない。
だとしてもアホだが。
……この距離でもサーコートの紋章が見えないのに、鞘の装飾が見えるとかおかしいだろ。
普通は逆だ。
「そこにある馬上の者、家名を述べよ!」
歩みを止めずに大声を張り上げるれば、僅かに身震いした後にヘルムがこちらを向く。
ようやく騎士もこちらに気づいたらしい。
「なんだ、─────────。て───と─────か。──────よし!」
ヘルムを被ったまま話しをするせいで上手く聞き取れない。
……『話す時はヘルムを取るか声を張れ』と、修行時代に教わらなかったのだろうか。
残り10。
「やあやあ、我こそは武勇に賭けては────」
なんだ、さっきのは独り言だったのか。
……少年のような声だな。
剣の柄に手を添え、騎士の正面から少し右に進路を逸らす。
リザは私より後に位置どって左に逸れる。
8。
「北はスエビの海から────」
北海とは言わずスエビ海と言うあたり、スヴェーリエに喧嘩を売る度胸は無いようだ。
5。
「南はシキリアにまで及ぶ─────」
海向こうのミスルには及ばないのか。
古代の英雄達の名声は百海を越えたというのに、小心者だな。
2。
「神聖帝国の侯爵家────」
敵か。
0。
……手練かと思ったが、ただの雑魚であったか。
真横に並び、片手で馬上の騎士を推せば──
「うわっ!なにをす」
ザダンッ!
──騎士は鈍い音を点てて落馬する。
重量のある全身鎧は重心が安定しやすいが、反面、馬上などのそもそもの土台が不安定な場所では簡単に体軸が振れてしまう。
しかも、金属製では体勢を立て直すことも困難だろう。
……金が無いために革鎧を着ているわけではないのだよ。
「リザ、気絶させなさい。殺してはいけません」
侯爵家とか言っていたような気がするので、おそらく生け捕りにした方が手柄になるだろう。
高位貴族はかなりの身代金が取れるらしい。
「了解だぞ!」
馬から飛び降りたリザが馬乗りになって騎士の首を締める。
……馬から降りて馬乗りとは、これ如何に。
「うっ、くっ、かはっ!……、………………。や……や…だ…………」
「ふふ〜ん!イヤなら頑張って足掻いてみるのだな!もしかしたら解けるかもしれないぞ!」
言われずとも騎士君はずっと手足をバタつかせているのだが、彼女は微動だにしていない。
それに、暴れると脳に酸素が巡らないので気絶しやすくなるのだが、彼女は知った上で言っているのだろうか?
……まあ、どちらにせよ楽しそうで結構。
「あ、あ………。くふっ………」
堕ちたな。
「堕ちたぞ」
近寄って騎士君の胸元を見れば、そこには神聖帝国の侯爵家の物と思われる紋章がある。
思われるというのは、貴族の家紋が複雑であるためだ。
紋章には血縁やら爵位やらと様々な要素が含まれているため、正確に判別するには紋章官が必要となる。
とはいえ、いくつかの要素がわかってしまえば大抵は判別できるのだが。
「おそらく帝国南部の侯爵家に連なる者です。捕虜として連れて行きます」
「でもどうするのだぞ?こんなのを載せては走れないのだな」
確かに、小柄とはいえ全身鎧の騎士を載せては馬が潰れてしまう。
「……もったいないですが、武具を捨てましょうか。サーコートさえあれば身分を証明できますからね」
そう言うとリザは素早く丁寧に鎧を外していく。
……よくもまあ、器用にやることよ。
人間でも紐を結ぶことが苦手な者もいるというのに、獣の手でやってみせるとはな。
だが、装飾品を外し終えたあたりから一々紐を解くのが面倒になったのだろうか。
ナイフを取り出してバッサバッサと裁き始めた。
そのせいで騎士君の服は酷く切り裂かれてしまっている。
木陰にでも捨て置いたら絵になりそうだな。
差し詰め『陵辱の乙女』といった題だろうか。
……騎士君は服装的に男だと思うが、自信がない。
女性的な美形であるし、何より、ついこの間、間違えたばかりだからな。
「できたのだな」
『陵辱の乙女』の完成か。
「では、私の馬に積みましょうか」
「いいのか?重くなるのだな」
「構いません。私の方が軽いでしょうし」
「……リザは大人なのだ。生尾人が人間より重いのも知っているのだな。だから気にしないが、他の女に言っちゃダメだぞ」
……しまったな。
「……ええ、もちろん心得ています。貴女がこの程度の事は気にしないことも含めて」
「気にしないとしても、それが言ってもいい理由にはならないのだな」
うっ、正論だ……。
「……ゴメンナサイ」
「許そう、なのだな」
……私より賢いかもしれん。
意地にならず『ゴメンナサイ』と言えるようにしましょうね。
PS:ブラウザのブクマ機能ではなく、なろうサイトのブクマ機能を使ってもらえると作品にポイントが入るので、是非ともそちらでお願いしたいのじゃ。
最近の前後書き、ブクマに飢えてる感がすごいな。
スマン




