飢えと渇きと痛みと
幾許の時が流れたのだろうか?考えて、男はそれを振り払う。とうの昔に、決して考えないと自身に誓ったのだから。考えてしまえば、きっと気が狂ってしまうから。
どれだけ怠けても、努力しても、死ぬことが出来ないこの業。全身を苔が覆うまで怠けても、飢えるだけ。いくら喉を掻き切っても、苦しいだけ。決して死ぬことが出来ない、死を奪われたこの身体で過ごした年月は、3まで数えた所で止めている。無駄だと気付いたからだ。
男は自嘲する。あれだけ死を望んだ己が、死を拒絶した結果、不死となった。そして、その結果が死を求めての旅なのだ。終わりが在る世界など下らない。そんな世界で努力するだけ無駄だと、斜めに世界を見ていた男が、死を求めて旅をしているのだ。滑稽で仕方がない。自嘲せずにはいられない。
今も努力は無意味だと思っているが、長い年月で終わりの価値は理解できた。終わらないという事は、たまらなく耐え難い。飢えが、痛みが、いつまでもいつまでも、追いかけてくる。それは正しく地獄なのだ。
死にたい、死にたい、死にたい。今も追いかけてくる飢えの中で、流れ出る血の不快な感覚の中で、それでも死ねない己の業を呪いながら、男は意識を手放した。
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糞尿に塗れた布団の上で、少年は意識を取り戻した。意識を失う前に見た夢のような記憶が、それが夢ではないと矛盾した言葉を語りかける。そうだ、あの蛇は夢の様で夢ではないのだ。
吹き飛んだ天井と、降り注ぐ太陽。絡みつくような静寂と、村一面を染める血と、その咽る様な香りが、夢を現実たらしめた。香る血が、少年に飢えを思い出させる。
何か食べる物を。強烈な死のイメージが、少年に生を渇望させる。火事場のクソ力と言うのか、少年は立ち上がり、崩れた天井の瓦礫をどかし、家の中の食料を漁る。結果、一切れ、カビたパンが見つかった。
カビなど気にせず、ガムシャラに、噛まずに垂下。渇きを訴える身体を鞭打って、村の広場、井戸のある場所に足を運ぶ。ともかく、飢えを、渇きを満たさなければ、気が狂ってしまう。そんな強迫観念に襲われる。
広場は、血と肉片に彩られていた。常人なら発狂すら免れぬ光景だが、餓えた獣の眼中には収まらない。無我夢中で井戸水を組み上げ、屍肉を喰らう。ただ喰らう、その行為に理性など必要無い。気を失う程に、無意識に喰らう。飢えを満たす為に、頭を締め上げるような死の恐怖から逃げる為に、喰らえる物を掻き入れていく。




