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御岳信仰伝 ー分かつ御柱の行方ー  作者: ちとせ鶫
第4章 裂断の記録

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第28話 役割の輪郭

 三本目の巻物の続きを読んだ。


 静馬が声に出す。直継と柚羽が聞く。床に座って、大きな巻物を三人で囲む。その形が、第三話の後も続いた。代償の話が終わり、三人は少し間を置いてから、また巻物に向き直った。


 続きを読まなければならない。止まっている理由はない。


 静馬が声を出した。


「『準備の整いたるとき——』」


 読める部分を拾い、読めない部分を飛ばし、また拾う。川の水位の条件。時刻の条件。潔斎の日数。断片がつながったり、途切れたりした。


 しばらくして、静馬の声が少し変わった。


「ここが読めます」と静馬は言った。


「『東の代を担ふ者、西の代を担ふ者、中に立つ者——三人、川の中央に揃ふとき、神は問ひを受く。分かれしままにあるべきか、一に返るべきかを』」


 声が止まった。


     * * *


 部室が静かになった。


 外の音だけがあった。風と、遠くから届く川の音と。


 直継は自分の手を見た。


「東の代を担ふ者」。朝比奈家は東の宮司家だ。影送り祭で剣を持つのが東の役割で、直継は去年初めてそれをやった。剣先が川に向いた。向けようとしたのではなく、向いた。「東の代」という言葉が、自分の手に重なった。


 柚羽は自分の指先を見た。


 膝の上で、少し動いていた。稽古のときの癖で、考えているとき指が動く。「西の代を担ふ者」。霞沢家は西御岳の代々の神楽師だ。柚羽は先月、影送り祭で舞を踊った。半分の力しか出なかった、と感じた。半分しか出なかったのは、三の木の喪失のせいだと今は知っている。「西の代」という言葉が、指先に重なった。


 静馬は巻物を見たまま、動かなかった。


「中に立つ者」。水無瀬家は修験者の家系で、中立の場所にいる。この部室の管理者で、鍵の持ち主で、裂断の儀式の実行者の子孫だ。「中に立つ者」という言葉が、静馬自身に向いていた。


 誰も何も言わなかった。


 言う必要がなかった、というより——言葉にするには、まだ少し時間が要った。


     * * *


「川の中央に揃ふとき」と直継はやがて言った。


 言い方は平坦だった。感情を込めたわけでも、込めないようにしたわけでもなかった。確認のように言った。


「そうですね」と静馬は言った。


「川の中央は」と直継は続けた。「禁足地ですよね」


「そうです」


「地図には接触禁止と書いてあった」


「そうです」


「接触禁止と書いてある場所に、立たなければならない」と直継は言った。


「儀式の場所がそこだということです」と静馬は言った。「接触禁止の理由は——そこに神の力が集中しているからです。普通の人間が近づくと、力に当てられる可能性がある。でも三者が揃って、それぞれの役割を持って立てば、話が違う」


「三者が揃うことが、条件だということですか」と柚羽は言った。


「そうです」と静馬は言った。「三人でなければ、そこには近づけない。逆に言えば——三人で揃えば、近づける」


 柚羽は指先の動きを止めた。


 直継は自分の手を、一度握った。


「『神は問ひを受く』」と柚羽は静馬の読み上げた言葉を繰り返した。「神が問いを受ける——誰に問われるんですか」


「三人に、だと思います」と静馬は言った。「分かれしままにあるべきか、一に返るべきかを——三人が川の中央に立つことで、神にその問いが届く。問いを届けることが、統合の儀式の始まりなんだと思います」


「答えを出すのは神ですか」と直継は聞いた。


「どちらかはわからない」と静馬は言った。「三人が問いを届けて、神が応える。その応え方が統合なのか、あるいは三人がさらに何かをするのか——それがまだこの先に書いてあるはずです」


     * * *


 三人は巻物に向き直った。


 続きがある。まだ半分ほど広げられていない巻物の、先に。


 直継は読む前に、もう一度窓の外を見た。


 川の音がした。


 さっきより少し大きく聞こえた。風向きが変わったのか、水量が増えたのか。どちらかはわからない。ただ、川の音が部室の中まで届いてきた。


「続きを」と直継は言った。


「はい」と静馬は言った。


 巻物が、また少し広げられた。

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