第15話―2
「終わった……! 僕の高校生活は卒業を目前にして終わりを迎えた……! 僕がなにをしたって言うんだよ……!」
あたしはいままでうっすらと、会長は涙もろいのとかを知られるのは嫌なんだろうな、と推測していたんだけど、やっぱりそれは合っていたらしい。グスグスと泣く会長の涙が滞りなくタイルの上に落ちる。
「これまで弱っちい僕がバレないようにせいいっぱい虚勢を張ってきたのにそれが全部水の泡に! それも僕のあずかり知らぬところで! 僕がなにか悪いことをしたのか……⁉」
ひとけのない階段の踊り場に会長の咆哮がこだまする。あたしは腕を組んで会長のことを眺めていたけど、会長はふっと顔を上げてあたしを見た。
「なんとか言って慰めてくれよ……!」
絞り出すような悲痛な声で、そう懇願される。
「……あ、ごめんなさい。かける言葉を考えてました。なんか結果的に会長の本当はみんなから受け入れられてるみたいだし、好感度も上がってるし、ナターシャ先輩の策は成功しているのには違いないから、そこはよかったよね、みたいに思う気持ちと。だからといって会長が隠したがってたところをむりに暴く必要はないよね、みたいな気持ちが半々くらいにあって……」
「あーそう、君も僕の絶対的な味方ではいてくれないんだー、ふーん……」
会長がじとっとした眼差しになった。
「でも、会長の望みは一個叶えられてるでしょ。代わりにもう一個の望みは叶わなくなってますけど……。あたしは嬉しいですよ、会長の隠したがってた、会長にとっては自分の欠点だと思っているだろうところが……、みんなから好意的に受け入れられてて! でもそれじゃだめなんですよね、会長」
「……そうだよ、そのとおり」
「会長は隠しごとがばれることの、いったいなにを怖がってたのか、聞いてもいいですか?」
ふと、さっき男のひとが去ったっきり聞こえなかった人の足音が聞こえてきた。
「人が来ます……!」
「あ、うん……」
足音が徐々に近づいてくる。踊り場のほうにやってくる人影を見つけて、隠すように会長の身を壁際に押しつけた。
そのままやり過ごせるかどうか目を閉じながらドキドキして待っていると、「おや」という剣呑な声が聞こえてきて、あたしは顔を上げた。
「アリスティアさんではありませんか。こんなところで奇遇ですね」
「あ、あはは……。キグウですね……」
ジェラルドさんは煌びやかに笑いながらも、ふとした沈黙の間にひっそりとした感じで息をつく。なんだか疲れていそうだ。その目許もなんだかほの暗く見えなくもない。
「えっと……、あたしになんか用です?」
疲れてるなら寮か保健室に行けばいいのにな、と思いつつ尋ねる。
「用だなんて。私とアリスティアさんの仲ではないですか。用がなくとも話しかけるのが礼儀というものでしょう?」
「ええっと……。どういう仲でしたっけ?」
あたしが覚えていないだけで友達になってたりしたのかもしれないけど、あいにく覚えていない。
「まあ、細かいことはいいではありませんか。それで、あの件、考えてくださいました?」
「あの件……。ええっと、黒衣会に入ってほしいっていう話です?」
「そのとおりです!」
ジェラルドさんがにっこりと笑いながらあたしの両手をとった。
「それについては入らないって断言したと思うんですけど……」
とにかく早く帰ってくれないかな、見えてはいないけど会長からの視線で背中が痛いよ……!
「いえ、そろそろアンドレアさんに庶務の仕事を教わった頃かと思って」
「……あ、忘れてた」
毎日毎日、きょうこそは教えてもらおうって意気込むんだけど、生徒会室に入ったら毎回忘れちゃうんだよなあ。メモをしてもそもそもそのメモを見ないし。
「忘れっ……、それならそれでいいんですよ。黒衣会ではもっとあなたを重要なポストに就かせると約束しましょう」
「ポストぉ……? あの赤いやつ?」
「違います、地位という意味です」
「ちぃー……」
「さすがに地位はわかると思うんですが⁉」
わからないものはわからないもんね、などと開き直るつもりはないけど、そうやって詰め寄られる筋合いもないと思うのだ。とにかく、背後に隠している会長の存在を気取られずにジェラルドさんを帰したいんだけど、どうすればいいかな⁉
「……なにかずっと上の空じゃありません? アリスティアさん、後ろになにか?」
「えっ⁉ や、なんにもないです、なんにも!」
「ふ~~~~~~ん……」
ジェラルドさんがジロジロと背後を探ってくるけど、一応ジェラルドさんの目の届く範囲に会長はいないはずだ、たぶん!
「とにかく、あたしは黒衣会には入りませんから! あのー、おかわりいただけるとー……」
「……そういうときは『おかえりいただけると』では?」
「あれっ、なんか間違えてました⁉」
背後からぷっと吹き出すような笑い声が聞こえてきた。背中に流れる汗がいっそう増える。




