第15話―1
会長がかなりへこんだあの件から一週間が経った。最近はほぼ毎日挨拶運動を行っていて、会長による白亜会宣伝活動はより精力的になっていた。
最近新しく取り入れたのは、意見箱の設置だ。グレイグランド学園の生徒会がこういったものを設置したのは初めてらしく、従来のそういった姿勢も黒衣会のけしかけた白亜会への生徒たちの不満が想定よりも大きく膨らんだ理由ではないか、とナターシャ先輩が分析していた。
意見箱を設置した玄関ホールに会長とふたりで赴く。設置して三日くらいしか経っていないけど、早くに解決しないといけない問題もあるかもしれないし一応見ておこう、みたいな話になったのだ。
「……あ、結構重いかも」
「箱の重さじゃなく?」
「カサカサ言うから少なくとも入ってはいる」
会長が箱を耳に近づけて前後に揺らす。たしかに紙が揺れる音が聞こえた。
「……怖いからさっさと見たい。生徒会室に戻るまで耐えられる気がしないんだけど」
「じゃあ一、二枚くらいいまここで確認しちゃいましょうか。それでいったん満足できます?」
「……なんか子どもをあやしてるみたいなんだけど、君」
「それってつまり会長が自分のこと子どもみたいって思ったってことですよねー」
「揚げ足とるな」
短く悪態をつきつつ、会長は意見箱の鍵を開けて、中から二枚ほどの紙を取り出す。
「見た感じ、やっぱり結構入っていそうだったよ。……どれどれ……」
会長がメモ用紙ほどのサイズの紙に視線を落とす。
「……『きのうの配信最高でした』」
「ハイシン?」
「『また見たい』『会長の素顔ワロタ』『会長にハンカチたくさんプレゼントしたい』……は?」
「え、ええっと?」
会長が見るからに困惑している。かくいうあたしも思わず首を傾げてしまうんだけども。
「なにこれ、いたずら?」
「にしては数多すぎですし、字も似てなさそうですよ」
あたしも意見箱から数枚紙を取り出して中身を見てみるけど、ひとりがいたずら目的でやった、とは考えにくそうだった。
「ひとりじゃなくて、黒衣会の信者の大勢がやった、とか……」
「それならもっと悪口書かれてると思います! こういう意図が伝わらないようなことは書かないんじゃないかな……! とりあえず、なにか知ってるひとがいるかもしれませんから、生徒会室戻りましょ、会長!」
「あ、ああ……」
会長はあたしの言うとおりにする気になったらしく、意見箱を両腕で抱えて、あたしに「行こうか」と目配せをしてきた。
歩き出して数分後。なにやらテンションの高い男のひとが会長を見つけるなり、目を輝かせて会長の肩に腕を回したではないか。
「あ、会長じゃーん! きのうの配信見たよ~」
「え? なに?」
「いやー、お高くとまってていけ好かない王子サマ、とか思ってたけど意外とそんな感じなのね~って! 結構親近感湧いたー。俺も落ち込んだらああなるよ、うんうん」
王子サマ、のあとに「笑」がついていた、確実に。会長はピキピキと口角と眉を引きつらせているけれど、他人の手前、頑張って耐えて笑顔をつくっているみたいだった。
「……えーっと、なんの話かな?」
「あ、もうそろ部活行かなくちゃだわ、じゃねー!」
男のひとはブンブンと両手を振って、颯爽とこの場を去って行ってしまった。
取り残された会長は棒立ちでひたすらに廊下のタイルを見下ろしている。
「……かいちょー?」
「……絶対ナターシャだ、ナターシャの仕業だ……! もう我慢ならない、いますぐ連絡をとる……!」
会長はポケットから通信機を取り出して、何度か操作をしたのち耳に通信機をはめた。あたしもそれにならう。
『……急になんです、会長』
「なにをした、ナターシャ……!」
『主語と述語諸々足りてないっすよー』
「配信ってなんの話だよ!」
『あー、やっと会長の耳にも届きましたか。そうそう、自分言ったっすよねー、イメージアップに繋がることをやるって』
会長は腕を組み、ギリ、と歯を食い縛っている。
『だからここしばらく、会議の様子とか色々魔道具使って生徒たちに見せてたんすよー。講堂で生中継するからとか言って宣伝して。もちろん聞かれちゃマズい内容とかもあるんで、音声はいじってるんすけど』
「……それについてはわかった。だけど絶対、それだけじゃないよね?」
きのうの配信見た、俺も落ち込んだらああなる――というふうにさっきのひとは言っていた。確かにきのうの会長、会議中泣いてたかもな。このままじゃ黒衣会にボロ負けする~とか言って……。
『まああと、会長の泣き顔ブロマイドを物好きたちに売り捌いたりー。あ、これは副会長の提案だし、所持してたのも副会長なんで、自分に文句言わないでくださいねー』
「……セシルが僕の泣き顔ブロマイドを所持? 脳が理解を拒む。鳥肌が半端ないくらい立ってるんだけど……」
『いつかどこかで高値で売れるんじゃないかなーと思ってちょくちょく集めてたらしいっすよー』
会長の眉間にいっそう深いしわが寄る。
『ま、理には適ってるっすよね。真実にはもっと衝撃的な真実をぶつける。副会長が会長については嘘ついてたのも、こういうリカバーができるようにってことじゃないかと思って――』
ナターシャ先輩が話している途中だけど、会長は大した挨拶もせず強引に通信を切って、そのままふらりと床に手をついて四つん這いになった。




