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第13話―2

 あたしが生徒会室に入った数分後に、ハリソン先輩とナターシャ先輩がやってくると、会長はやけに気合いの入った様子でホワイトボードをデスクとテーブルの間に移動させた。


「さて、みんな揃ったね。――って、ハリー! そんな物騒なものしまいなさい!」

 ペンの蓋を開けようとしていた会長だったが、対角線上にいるハリソン先輩のそばに立てかけてある狙撃銃のケースを見て、不意に血相を変えて勢いよく指を差す。


「……は? なに?」

 不服そうに眉根を寄せる先輩に、あたしはこそっと顔を寄せた。


「狙撃銃しまえって言ってますね」

「……いままでそんなこと言われたことないんだけど」


「いままでがいつもどおり通用すると思うな!」

「理不尽……」

 文句を言いつつも、ハリソン先輩は鞄の中に乱雑に狙撃銃をしまう。けれど、まあ、はみ出している。


「ただでさえいま僕たちは大変な時期なんだ、言動ひとつひとつに気を遣ってもらわないと困るよ」

「へーへー……」

「本当に注意してもキリがないな……。ええっと、とにかく会議を始めるよ。今回の議題は――『生徒会選挙について』」

 会長の手がサラサラと動いて、言葉どおりの文字が書かれる。あたしの横で、ハリソン先輩も気怠げではあるがペンを動かし始めた。そうだこのひと書記だった。書記ってこういう仕事するんだな……。


「生徒会選挙って、どういう意味っすか」

 ナターシャ先輩が手を挙げつつ、クッションに寄りかかりながら声を上げた。


「いまから説明するから、ちゃんと聞いておいて。……黒衣会の要請と、多数の生徒からの要望で、本当に白亜会と黒衣会、どちらが生徒会に相応しいか投票する選挙が行われることになったんだ。まだ一般生徒には発表されていないけど……、職員会議で決まったと伝えられたよ」


 会長は見るからに肩を落としている。恐れていたことが本当に起こってしまったのだ。心の準備はしていたとはいえ、そういうことは起こらないに越したことはないだろう。


「そっか……、ならなにかしらの準備をしておいたほうがよさそうね……」

 深刻そうなセシル先輩の表情に、あたしは密かに胸を撫で下ろす。


「そう。いまや僕ら白亜会の信用は地の底で、対する黒衣会には確実に熱狂的なファンがついてる……。選挙で生徒たちからの票をもらうには、挨拶運動なんていうなまぬるい対策じゃ間に合わない! もっとガツンと、一発で僕らへの印象を覆せるような政策を打ち出さないと……!」

 会長がホワイトボードに「信用度・好感度上昇!」との文言を書き加える。


「えー……、とはいえ、信用度とやらが落ちてる原因は自分たちの『素』の部分っすからねー。否定するのも違うと思うんすよー」

「そうそう、たしかにネガティブな要素かもしれないけど、批判している生徒たちだってみんなそういう面を持っているだろうし、否定される筋合いもないのよねー。だからわざわざ隠すこともなくない?」

「アンタ自分が情報売ったこと棚に上げてるだろ……」


 なんだか三人がやいのやいのと言い合いを始めてしまった。それを遠巻きに見ていたあたしは、顔を上げて会長と顔を見合わせる。会長に手招きをされて、あたしはそそくさと立ち上がって会長の元に行った。


「えっとお……、そもそも白亜会って、ほかの生徒たちにどんなふうに思われてたとか……、会長知ってます?」

「さあ、僕も在学中はほとんど白亜会に所属していたから……。まあでも、孤高の存在で、煌びやかで、不可侵の領域だ、みたいに近寄りがたく思われてるとは聞くよ」


「じゃあ、そのイメージをなくしたらよさそうですね! ジェラルドさん、結構色んな生徒に話しかけたりしてるみたいですよ」

「……へえ、詳しいんだ」

「え、うーん、友達のサナとか、クラスメイトの子たちとか、『ジェラルド先輩気さくで優しいね!』みたいに言ってるのとか、最近よく聞くから……」

「ふぅん……」


 会長が興味深そうに顎をさする。会長ってよく顎を触ってる気がするな、癖なのかな。


「……とはいえ。僕がそもそも完璧な王子だ、みたいに言われてるのもそのイメージを保つのに一役買っている気がするんだよな……。あ、これ全部悪い意味だから」

「え? あ、そうですか。完璧な王子……、むむむ……」

「……人に言われると途端に恥ずかしくなってきた。復唱しないで」

「あ、すみません」


 嫌がられるポイントがよくわからないな、と思って首を捻っていると、不意に背中に熱と重さを感じて振り返る。


「俺はべつに、白亜会が落選したって個人の仕事に集中できるから構わないんだけど……。まあ、アンタと会う口実がなくなるのは嫌だな。そこんところ、アリスティア的にはどうなの?」

 首と肩の周りに、ハリソン先輩の両腕が巻きついてくる。あたしが席を離れていたこと、目聡く気づいていたみたいだ。


「んー……、やっぱり白亜会が当選したほうがうれしいです。部活とかやってないあたしの数少ない居場所だし……」

「そっか。ならイメージアップとやらも頑張ってみる」


「そうですか! そう言ってもらえるのうれしいです!」

「フッ……」


 あたしを見つめていたハリソン先輩がふと視線を上げて、会長と目を合わせる。

「……そのドヤ顔いい加減見飽きたよ」


 そういえばハリソン先輩たちの話し合い、というか言い合いはキリがついたらしく、ナターシャ先輩がニヤニヤとこちらを見ていたのに気がついた。


「会長自分のこと『完璧な王子』と思ってるんだ」

「ナターシャ! 語尾に『笑』がついてるのは気づいてるんだからな……!」


「ま、要するにイメージアップに繋がるようなことやればいいんすよね。黒衣会みたいに信者をつけるまでは行かなくても、ある程度応援したくなる要素を曝け出したりとか……」


「……なにか思いついてるみたいだね……」

 ナターシャ先輩がぐっと顎を引いて、清々しいほどの悪い笑みを浮かべる。


「まあまあ、ここは白亜会の総帥ナターシャにお任せくださいよー。必ずや白亜会を当選に導いてみせるんで、あんたらはぜひに、いつもどおり業務やっててくださーい」

「いつの間に総帥になったんだ、せいぜい参謀だろ……!」

「マジでこのひと細かいんすけどー」

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