第14話―1
「……とはいえナターシャに任せきりなのも心配だ。僕もなにか案を出さないと……」
生徒会選挙に向けた会議があったあと、寮と森の間の広々空間でルシィと遊んでいた際に低級の魔物を見つけ、それを捕獲したのがきのう。その旨を会長に伝えに行ったのがきょう。会長は早々にあたしの報告書を読み終えると、ついてきてと言ってあたしの腕を掴んできたのがついさっき。
そしていま、あたしたちは最上階から順に校舎を練り歩いている。とはいえあたしはなにかブツブツ言っている会長について行ってるだけなんだけど。
「なにかファンがつくような催しはできないか……、ううむ……」
「えーでも会長って女の子にモッテモテですよね? その子たちは白亜会を支持してくれないの? っていうか、あの情報であたしたちがゲンメツされてるとも限らないですし~」
会長を見上げると、会長はなぜだかあたしから不自然に視線を逸らした。
「……ま、君の評判は変わらないだろうね。そもそも白亜会の役員だと認知すらされていないみたいだし」
「えッ、そっそれはぁ、帽子とかマントとかつけてなかったからで……!」
「それってつまり顔では覚えられてないってことだよね、うん」
会長がとどめを刺すみたいに煌びやかな笑顔を浮かべる。
「……自分でわかってますから、わざわざ言わないでいいでしょ~……」
あたしが唇を窄めて、ちょっとだけ肩を落とせば、会長はなぜだか目をまん丸くした。そうして、また視線を泳がせる。
「……ごめん、言い過ぎだったね。また調子に乗ったみたいだ。でもそういうふうにわかりやすく反応してもらえると助かるよ……」
「えぇっと、というと?」
「……前も言った気がするけど。君ってなに言っても笑うかぽかんとするかだから、なに言ってもいいんだって錯覚してしまうというか、甘えてしまうというか……。……いや君が悪いんではなくて、僕がコミュ障陰キャのせいなんだけど、うん……」
自分で言ってるくせにその称号に落ち込んでるみたいだ。
「かいちょ~なんだか全体的に元気ないですよね? やっぱり選挙させられるから?」
会長って落ち込んでるときは大概口が悪くなるし、自分のその口の悪さにまた落ち込んじゃうんだよね。これがセシル先輩の言うネガティブ無限ループの一種か……。
「……うん。だってグレイグランド学園の長い歴史の中でいままでになかった事態が僕が会長の代で起きているんだよ。先生方が選挙を行うって決めたってことは、それだけ白亜会の存在に、僕のやり方に不満を持ってる生徒が無視できないほど多いってわけで……。……落ち込まずにはいられない」
「セキニン感じてる、ってやつです?」
「まあね……」
会長の肩がみるみる内側に丸くなり、さらに自分の顔を両手で覆い隠し始める。よく歩けるなそれで、と思いつつ。
「……生徒たちはありもしない不満を黒衣会にむりやり植えつけられてるんだって頭ではわかってるよ。『あ、言われてみれば確かにそうかもな』『あ、白亜会ってそこまでできるんだ』『アレやコレがうまく行かなかったのは白亜会のせいなんだ』……みたいに。そう言われたって、僕らに噂で言われているほどの権力はないわけだし。ただ生徒の代表をしているだけのようなもので。でもその実態を一般生徒はわからないよな、と思ってもいて……」
会長の耳にそこまで届いているんだ、とあたしは驚く。あたしだってここ最近白亜会についてなにかしら囁かれているのを教室なんかで聞いていたけど、みんなあたしがいるとわかると一斉に話をやめるから、結局どういう話かはわからずじまいなことが多かった。
「こんがらがってますね」
「そう、こんがらがってる。こういうときは散歩をするに限ると思って校舎を練り歩いているんだけど、歩けば歩くほど、話せば話すほど悪化していっている気がする……」
「んー、おひとりで歩いたほうがいいんでは?」
それって話し相手がいるから悪化してるんだよね、と思って提案するけど、会長はまたしても目をまん丸にした。
「……は、いや、だめ。……いざというときはメモをとってくれる相手がいないと」
「メモですか? 最初からそう言ってくださいよ~! 鞄から紙とペン出しますから……」
「ちょっと、歩きながらは危ないって――あ」
ふと、前方にある教室のドアや窓から、わらわらと女の子たちが顔を出し始めた。中には、押し合いへし合いして位置の奪い合いをしているような子たちもいる。
その子たちは、あたしたちが近づくにつれ笑みを深めていって、しまいには黄色い声援まで上げ始めたではないか!
「う、うそ! あたしついに女の子にキャーキャー言われ始めちゃった……⁉」
「馬鹿言うな、あれはきっと僕に対してだって――」
会長ってばどこからその自信湧いてくるの?
「会長こっち見て~!」
「会長、サインくださーい!」
「会長バーンして! バーンって!」
仕方ないな、と言わんばかりに、けれども満更でもない様子で会長がさっと己の前髪を払う。そして片手を顔の前に挙げて、女の子たちに挨拶しようとするけど。




