第12話―3
長い沈黙が流れていたけど、あたしたちは視線だけで会話できていたように思う。「これ、どうしようね?」って、みんなの目が物語っていたから。
「あれ、みんなして黙っちゃった。焦ってるんですー? ……それにしても、セシル先輩、情報提供ありがとうございました!」
グレッグ先輩が突然、セシル先輩に向かって勢いよく敬礼をした。
空気が凍りついた気配。みんながギギギ、と錆びたブリキみたいな動きでセシル先輩を見る。どういう意味、だとか、どうか否定してくれ、みたいな祈りを込めて。
「え? え、ええ……」
セシル先輩が、曖昧な微笑みを浮かべながら頷いた。
「……は? ちょっと、どういう意味だい、セシル……!」
会長がセシル先輩に詰め寄る。しかしそうしている間にも、グレッグ先輩は「それじゃ、白亜会のみなさん、またお会いしましょー!」なんて言いつつ走り去ってしまった。しまった、あの音声の対処法、全然考えられなかった!
まさかグレッグ先輩、それが狙いでセシル先輩に話しかけたのかな。
会長がセシル先輩の両肩を掴んで前後に揺さぶり始める。
「ちょっ、ちょっとアンディ、激し……っ」
「すべて吐けセシル……!」
セシル先輩が情報を流したりするわけないって思いたいけど、本人は頷いてしまっているし。――あれ、あたしってもしかして、セシル先輩のこと全然知らない?
生徒会のひとたちの中であたしと一番よく喋ってくれるのがセシル先輩だって、勝手に思い込んでたけど。否定できる材料を持ち得てないくらい、あたしとセシル先輩の関係って実は希薄だったの……?
「ちょっ、揺するのやめてってば……!」
「……セシル、本当のことを言うんだ」
会長に真剣な眼差しで見つめられ、セシル先輩は押し黙ったのち、わずかに瞼を落とす。
「――だってぇ……、お金くれるって言うからぁ……」
「……」
セシル先輩の絞り出すような声に、会長がいぶかしげに目を細めた。
「お前は馬鹿なのか?」
次いで、会長が心底馬鹿にするように呟く。
「馬鹿で悪かったわね! でも財布が満たされる以上の幸せなんてないじゃない……! 最近錬金が失敗続きで、お金が増えるどころか減る一方だったんだからあ……!」
セシル先輩が悔しげに、スカートのポケットから金ピカの財布を取り出した。確かに見るからに薄いけれども……。
「でも、アンディの予想はちょっと外れてるわよ。もうワタシに協力する気はないから。そもそも、ワタシが売った情報がどういうふうに使われるとか、知らなかったしぃ……」
セシル先輩は俯きがちにしながら左右に体を揺らす。けれども、会長は表情を変えない。
「ふーん……」
「あっ、その顔、信じてないわね! ちょっと本当のこと言っただけで裏切り者だなんだって騒いで、あげく後輩からの信頼を失くしちゃうなんて、ほーんと短絡的よね~」
さっきまでしおらしくしていたセシル先輩が、会長に向かって不意に呆れたような態度を取り始めた。
「短絡的なのはお前だセシル! 大金に目が眩んで情報を売るなんて……。はあ……、頭が痛い……。……あと、僕のだけは真実じゃないけど、つまりなに? セシルは僕が邪知暴虐な人間だと思ってたの?」
「ま、まー、細かいことはどうだっていいじゃないの、ねえ! みんなもそう思うわよね? というかもう授業始まっちゃうし、教室に戻りましょうよ!」
セシル先輩に背中をぐいぐいと押されて、強制的に校舎のほうを向かせられる。
「だってさ、アリスティア。教室行こ」
「あ、はーい……?」
隣にいたハリソン先輩の手が伸びてきて、あたしの背中に回ってきた。ハリソン先輩の手は服越しでもひんやりと冷たい。
「がッ、ちょ、なんでアリスの腰に手ぇやってんですか、ハリソン先輩……!」
突然、ローレンが焦ったような声を発しながら勢いよく近づいてきた。ローレンの顔を近くで見るのは久々かもしれない。
ふと、隣を歩いていたハリソン先輩が背後を向いて、睨むようにローレンを見た。
「だれだっけお前」
「ちょっと顔見せなかっただけでもう忘れられてるし……⁉」
「はいはいやかましく騒がないでくださいよー」
こんどはナターシャ先輩にぐいぐいと背中を押され始めた。ナターシャ先輩って、早く帰りたいときは自分ひとりで帰りそうなものだけど、あたしたちも急かすなんて珍しいかも。
「このままここにいると会長と副会長のいざこざに巻き込まれかねないから! そうなると自分だけ帰るのもそれはそれで文句言われそうだし、さっさと帰るっすよ」
あたしの心を読んだみたいに、ナターシャ先輩が吐き捨てるように呟いた。
あたしは後ろ髪を引かれるように、歩きつつも顔だけをふたりが留まっているほうに向ける。
ふたりはまだなにか話し込んでいるみたいだったけど、ここからじゃ会話の内容までは聞こえなかった。




