第12話―1 挨拶
「おはよーございまーすっ!」
「おはようございまーす」
「おはようございます」
昇降口の近くで、あたしたちは六人で道を囲うようにして登校してくる生徒たちに声をかける。まともに声を張り上げて挨拶しているのはあたしとローレンと会長くらいだけども……。
「朝からアンタの元気な声が聞けていいな、これ。ほかのヤツらに声かけるのは解せないけど……」
ハリソン先輩があたしの肩に寄りかかりながらそんなことを言っている。
「にしてもこれが、ハリソン先輩とナターシャ先輩が嫌がってた『アレ』なんですか……?」
人通りがまだらになったところで、ずっと抱えていた疑問をだれにともなく零す。
「うん、そうだね。これまで年に数回しかしてなかったけど、生徒が僕たちと『生徒会の人間として』関わる機会ってそうそうないから、手っ取り早くイメージアップに繋がるんじゃないかなってことで、これからほとぼりが冷めるまで定期的にするからね」
会長がパレード中の王族みたいに手を振りながら、あたしの問いかけに答えてくれる。
「悪い噂が立ってても、実際関わってみると大して悪いやつじゃないんだな~ってなることってよくあるしね~」
会長の言葉につけ足すように、セシル先輩がのんびりと声を上げた。
「なるほど、百聞は一見にしかずってことですね!」
「そういうこと」
顔を上げれば、満足げに笑っている会長と目が合う。そうしていると、顔を逸らすタイミングをすっかり逃してしまった。そのままついつい目を合わせたままになっていると、会長があたしからじわじわと視線を逸らす。
「……ンンッ。きのう有耶無耶になって話していなかったことがあるんだけどね……」
わざとらしく咳をしてから、六人全員に聞かせるように会長が高らかに声を上げた。
「きのう、ナターシャが言っていたとおり、黒衣会の会長が話していたというのはどれも生徒会室に出入りしていないと手に入れられない情報だ。……僕以外ね」
しれっとつけ足す会長に、みんながしらーっとした視線を向ける。
「でも自分、べつに教室でも寝こけてますんで、バレてもなんも影響ないっすけどねー。というわけで始業の時間まで寮で寝てたいんですけどいいですかー」
「オレもべつに、どう思われたっていいしなあ……」
ナターシャ先輩とローレンが気怠げにしつつ、遠回しに挨拶運動をやめたいと言っている。
「違う、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて……。……君たちの中のだれかがイメージダウンに繋がるような情報を黒衣会に流したんじゃないか、っていう話をしたいんだよ……!」
会長の声が高い青空に響く。対する五人は、あたしも含めてしーんと静まり返っていた。
しばらくして、ローレンがその静寂を破る。
「は……? オレたちのこと疑ってるんですか、会長」
「ローレンは僕たちを裏切りやすい立場だよねえ、白亜会に愛着はないだろうし、以前はどうであれいまは僕のやり方に不満を持っていそうだ」
「いや、かといって魔物保護を謳ってる組織に加担なんてしませんけど。それに黒衣会っつーの、きのう知ったばっかりだし」
黒衣会はオレだって早いこと潰したいと思ってんですよ、なんてローレンが呟く。今回ばかりはあたしたちの業務に付き合う気みたいだ。
「ローレンの言うとおりですよ会長! ローレンは裏切ったりしないし、第一裏切りって、ちょっと大げさ過ぎないです? 事実を聞かれて答えただけとか思うんですけど」
「おやアリスティア、裏切り者の肩を持つの? だったら君のことも遠慮なく疑うけど。だいたいね、情報を売るだけで終わると思ったら大間違いなんだよ。黒衣会が僕たちの妨害をするのはこれが最初で最後なわけないんだから」
会長がニヤニヤと目を細めて顎をさすっている。会長、もしかしてもしかしなくても面白がってるよね?
「というと?」
「学園から公認されてもいない黒衣会は、学園の中で不安定な立場にある。強固な後ろ盾がほしいはずさ。それに白羽の矢が立ったのが白亜会のメンバーであって、そんな人物から情報を流してもらうだけで終わるはずがない。黒衣会の会長が賢い人間であれば、もっと活用するはずだよ。たとえば、そうだな……。機密書類を持ち出してどこかにばらまいたりして、白亜会の情報管理能力は底辺だ、みたいに言うとか……」
「人が大勢いるところで魔物を解放して、ワタシたちに退治させたりねえ。そういうときは生徒たちを避難させるけど、それじゃ間に合わないから~とか言って退治させるよう誘導したり」
会長とセシル先輩の出す例、やけに具体的だな……。
「そう、そういう感じ。とにかく、白亜会内部にいるからこそできることはたくさんある。僕は油断できない状態ってわけだ……」
会長が憂い顔を浮かべると、これまで黙っていたナターシャ先輩がずいと前に出た。
「会長ー、さっきから『君たちの中のだれか』とか、『僕は油断できない』とか、わざとそういう言い回ししてないっすかー?」
ナターシャ先輩のその言葉に、空気がひび割れたような気配が走った。




