第8話―4
「でも……、それって本当にそうでしょうか?」
「……なに」
先ほどまであたしたちがいた街が見えてきた。もうほとんどの店が閉まっているのが見受けられて、一日の終わりに近づいているのを実感する。こういう頑張った日は甘いホットミルクが飲みたい。
あたしの問いかけに、ハリソン先輩が眉根を寄せている。少し敵意を感じる表情だった。
「自分が汗水流して手に入れた情報は全部自分のものだ、その努力をしていないやつに渡したくない、って思う気持ちはわかります。でも、それじゃあハリソン先輩……ずっとひとりでしょ?」
「なにが言いたい」
「ほかでもないハリソン先輩自身が、助けて、苦しい、つらい、って言わないと、協会は助けてくれないと思います。ハリソン先輩は毅然として見えますから」
ハリソン先輩が押し黙っている。でも、あたしはとまらない。これ以上話さないで、とは言われていないから。
「もっとハリソン先輩のお姉さんのことを知っているひとを増やすべきだと思います。世界中巻き込んででもお姉さんのことを報せて回って、助けてくれるひとを増やすの。協会のひとも、世界中のひとも、ハリソン先輩の敵じゃないんですよ。でも助けてって言わないうちは、味方にもなってくれないです」
「……」
「第二第三の被害者が出ないとも限らないですしね~。現にメアリーさんがいますし。あ、でも被害が出たのはハリソン先輩が『助けて』って言わなかったせい~とは言ってないですよ!」
ああ、と言いながらハリソン先輩は頷く。
「ハリソン先輩の考えだと、ハリソン先輩は誰にも頼れないことになりますよね。でもハリソン先輩は、自分の目的のためとはいえ色んなひとの力になってるのに、それってちょっと不公平じゃないですか? あたし、ハリソン先輩をひとりぼっちにはしたくないです。誰にも頼らないってきっと、ひとりになるってことだから。それをハリソン先輩が望んでいたらそっとしておくんですけど、でも、ハリソン先輩ひとりが好きってわけじゃなさそうだから……」
「……なんでそう思うわけ?」
「よく動物と一緒にいますよね、先輩。本当にひとりでいたいのなら近寄ってくる動物も追っ払うかなって。あれ、でも動物は別とかいうそういうやつです? そういうひともいますよね?」
混乱しながら問いかければ、ハリソン先輩は首を横に振るだけだ。なんの否定だろう、と思いつつ。
「ンンッ、とりあえず話戻しますね! もちろん、協会のひとたちがただで助けてくれるとも限りません。でも、ハリソン先輩には対価を用意する手段がたくさんあるでしょ? ハリソン先輩が持っている、お姉さんを探す手がかりが、協会のひとたちにとっても重要な情報になると思うんです。それを渡すだけで、助けてもくれるし対価を払ったことにもなりますよ、一石二鳥ですね!」
「……アンタ、協会の回し者?」
ふと、唇を僅かに歪ませたハリソン先輩があたしを見てきた。
「えっ、違いますけど」
「……そ」
「会長が困ってるみたいだったから、どうにかハリソン先輩に報告書を提出させる方向に誘導できないかな~と思ってはいたんですけど、あからさま過ぎました? 下手だった?」
焦りでぐいぐいと身を乗り出して問いかける。すると、ハリソン先輩はなにやらぷるぷると震えだし、手で顔を隠してしまった。
「……ふは、誘導しようとしてる本人にそんなこと言うなよ。はは、馬鹿すぎ……っ。言わなけりゃまだ誤魔化せたのにさ……」
「えーっ、ハリソン先輩が笑ってる⁉ あたし変なこと言った⁉」
「言った、言ってる、ははは……っ!」
だめだ、ハリソン先輩無限プルプルマシーンになっちゃった。不意に立ち止まったかと思えば座り込んでしまう始末。あわあわとしていると、ふとハリソン先輩が顔を上げた。若干の涙目。
「俺にとっては新しい発見と嬉しい言葉のオンパレードだったんだけど、それ言ったの全部会長のため?」
「え、うーん……。それは結果的にたぶん会長のためになるのであって、ハリソン先輩のために、心の底から思ったことではありますよ……?」
「そ。……そんじゃ、言い出しっぺであるアンタは当然俺のことひとりにしないし、俺のこと助けてくれるってことだよな?」
座り込んだままのハリソン先輩が、突然あたしの腕を掴んでぐいっと引っ張る。必然的に距離が近づいて、目と鼻の先にハリソン先輩の顔がある。
「それは、もちろん……、先輩がいいなら……?」
あれ? ハリソン先輩って最初、話しかけるなって言ってこなかった?
「アンタがいい」
先輩がツンとしたいつもの表情のまま、でもどこか熱を持っているような声ではっきりと言う。
「味方になるのも、助けてくれるのも、俺がひとりでいられない原因も全部、アンタがいい」
「……えっと?」
「好き。付き合って」
……ハリソン先輩って、こんな感じだったっけ?




