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第8話―2

『……全然報告寄越さないのはなんで』


 ふと耳の中でそんな声がして、あたしはびくっと跳ね上がった。あたしはひそひそと教室の中を覗き込みつつ、サッと階段の踊り場まで逃げていって、ハリソン先輩への返事の言葉を探す。


「あ、あのーう……。魔物と、ケビンさんの娘さん、見つけたんですけど……」

『それ、もっと早く言えば?』


「す、すみません。エミリーさん、たぶん眠ってる、というか気絶してて……。そのうえ魔物にひっつかれてるんです。引き離したほうがいいかなってしばらく考えちゃってました……」

『そういう判断は俺がするけど』

「でっ、ですよねすみません!」


 ハリソン先輩の中でまたあたしへの信頼度下がっちゃったかも! と焦りつつ、また魔物たちがいる教室に近づく。


『……あー、そこ。見えた』

「先輩はいまどこに……!」

『ちょうど反対側の教室。窓から見えてる』


 それにしたってそこそこ距離があるはずだ。先輩って視力いいんだな、と思いつつ、教室を覗き込んで窓のさらに奥にいるであろうハリソン先輩の姿を探す。


『……あれはひっついてるっつーより……。……まあいいや』

 ハリソン先輩があたしの耳の中で、どこか気まずそうにそう呟いた。


 教室の中では、壁に寄りかかるようにしてメアリーさんが眠っていて、その上を這うように魔物がいる。魔物だけを狙うのは難しそうに感じてしまうけど。


『いまから撃つ』

 ハリソン先輩は短くそう告げた。その、ものの数秒後に窓ガラスが割れ、魔物が床に転がった様子に、教室を覗き込んでいたあたしは驚愕する。とりあえず飛散するガラスからメアリーさんを守ろうと、教室に入ってメアリーさんに近づく。メアリーさんの衣服はなにやら乱れていた。


『……お前、いまなにしてんの』

「メアリーさん抱えてます……!」


 いつもなら自分のよりも身長の高い女の子だって余裕で運べたりするけど、意識がないからかいつもより抱えづらい。メアリーさんを背負えるように奮闘しつつ、ハリソン先輩とやりとりをしていれば、なにやらため息が聞こえてきた。


『そっち行くっての』

「あ、そうですか……? でもあたしがメアリーさんを抱えて行って、ハリソン先輩と玄関で落ち合ったほうが、メアリーさんのこと早く帰せるでしょ?」

 メアリーさんの腕を持ち上げつつ、ハリソン先輩に溌剌と返す。


『……どうだか。いつもと同じスピードで歩けるわけ?』

「平気です! ダッシュします!」

「……好きにすれば」


 本日二度目の言質だ。あたしは抱えきれたメアリーさんをおぶって、来た道を引き返すように足早に歩き出す。


▼ △ ▼


 スタスタと坂道を降りていくハリソン先輩の背中を眺めつつ、耳元で聞こえる規則正しい寝息に安堵する。


「せんぱーい、このあとって、メアリーさんのことおうちに送り届ける感じですかー?」

 あたしとハリソン先輩ではそこそこの距離があるため、そこそこの大声で問いかければ、ハリソン先輩はその場で立ち止まった。それから、振り返ってあたしを見る。あたしもつられて立ち止まる。


「……いや」

 首を振って否定するハリソン先輩に、あたしは首を傾げた。


「彼女が起きてから話す」

「そーですか……」

 ハリソン先輩はそれだけを言うと、あたしが追いつくよりも先にまた歩き出してしまった。ふん、と息を吐きつつあたしも歩くのを再開させる。


 すると、背後でメアリーさんが身動ぎしているのを感じ取って、またあたしは歩みをとめた。


「メアリーさん?」

「……ん……」


 あたしとメアリーさんの声が聞こえたのか、ハリソン先輩が再度立ち止まる。


「あ、れ……。ここ、どこ……。……あなたは……?」

「あたしは白亜会の――むごっ!」

 尋ねられたことに素直に答えようとすれば、いつの間にかあたしのそばにやってきていたらしいハリソン先輩があたしの口を塞いできた。


「あそこにある廃校で肝試ししてたら寝ているあなたを見つけて、起きないから連れ出してきたただの学生です。俺たちのことは気になさらず」

「ふぁいふぉんふぇんふぁ……」


 なぜ誤魔化す必要があるのか尋ねたいのに、ハリソン先輩のこの様子を見るにそうもいかなさそうだ。


「わたしが、廃校にいたってこと……?」

「あれ、自らあそこに行ったわけではないんですか? ……だったら、警察に行ったほうがいいかもしれない。ちょうど、ここから百メートルほど先に交番があります。そこで、あなたが覚えていることすべてを話すんだ」


 ハリソン先輩は演技口調から一転、慣れたようにつらつらとメアリーさんを警察に誘導し出す。


「……ごめんね、下ろしてもらっていい?」

 メアリーさんに声をかけられたあたしは、メアリーさんを地面に下ろした。凛とした眼差しでハリソン先輩を見つめて、メアリーさんが頷く。


「……わかった。助けてくれてありがとうね、お若いカップルさん!」

 天真爛漫な笑顔を浮かべつつ、あたしたちに手を振って、メアリーさんが駆け出した。


「かっ……!」

「か?」

「……いやなんでもない。帰るぞ」

「はぁい」


 あたしはメアリーさんの去って行く背中を見送ろうとしたけど、ハリソン先輩がそんなあたしを平気で置き去りにして、そのうえさっきよりも早足で歩いて行くから、あたしはハリソン先輩を追いかけざるを得なかった。


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