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第7話―3

「これが、自分が秘密裏に入手したハリソンのスケジュールっすー。くれぐれも張本人にはこれの存在がバレないように~」

「は、はい……! 気をつけます……!」

 ナターシャ先輩に鋭い目で見据えられ、反射的に背筋が伸びる。


「それにしても、あんた厄介な仕事押しつけられてるっすねー」

「そうです? 会長に頼りにされてるっぽくて、個人的には嬉しい限りなんですけど……!」

「へー……、まあそう思えてるなら自分からはもうなんも言うことないっすけどー」

 ナターシャ先輩は気怠げに零しつつ、猫耳が描かれたマグカップに口をつけた。


「あの……ところでここって?」

「猫カフェっすけど」

「ね、猫カフェ……⁉」


「猫と遊べたり猫に遊んでもらえたりしつつ、ついでに飲食物がとれるマジカルなカフェっすよ。最近巷で流行ってんの」

 不思議な施設もあるもんだなと思いつつ、あたしもナターシャ先輩を倣って先ほど注文したココアを飲む。


「というか、よく外出届受理されましたね……?」

「魔法使いはみんな猫好きだし。うちなんか学園全体で猫飼ってるくらいなんだから、寮長もあっさり承認してくれましたよー」

「言われてみれば……」

 あたしも生徒会役員がつけるように言われている帽子を猫耳型にしているくらいには猫が好きだ。


「で、なぜここに?」

「ハリソンは毎週この時間にこの猫カフェにいるという証言がとれてるっす。猫カフェにいるときは普段からは考えられないくらい気を抜いていて、かつ穏やかだという予測が立てられるんで、気分よく報告書を出してもらうならここが狙い目っす。っていうかもうここを逃したら一生出させられないし、あのひととしても出す気ないんじゃないすかね」

 うっとうしそうに手を振るナターシャ先輩に思わず苦笑いを浮かべつつ。


「んー……。猫ちゃんパワーを借りられるならきっと大丈夫です! できます!」

「んじゃ、そういうことなら健闘を祈ってるっすー。自分は猫に踏まれてくるんでー」

「えっ、ちょ、ナターシャ先輩……!」

 ナターシャ先輩はそう宣言するなり、颯爽と席から立ち上がって、どこかへ行ってしまった。


 あたしは所在なく視線をさまよわせたりココアを飲んでみたり時折やってくる猫と話をしたりしたけど、ハリソン先輩はまだ姿を見せていない。料理を注文しようかとメニュー表をめくっていると、ふとドアが開いた音がして顔を上げる。


「……あ? お前……」

 ハリソン先輩は、ドア付近の席を陣取っていたあたしを見るなり顔をしかめて、来た道を引き返すように店を出て行ってしまった。


「あっ、ちょ、ハリソンせんぱい……っ。ナターシャ先輩すみませんお代あとで払いますからお先に失礼しますーっ!」


 バスケットに入れていた鞄を慌てて引っ掴んで、あたしは店を出て行ったハリソン先輩を追いかける。さっきナターシャ先輩にもらったハリソン先輩の行動表によると、このあとは近くにある公園に行くみたいなんだけど。なぜハリソン先輩は公園に?


▼ △ ▼


「ほんとにいた……」

 としか言い様がない。ハリソン先輩は噴水の縁に腰かけつつ、野良猫やら鳥やらにエサをあげていた。あたしは忍び足でハリソン先輩に近づきつつ、口を開く。


「あの、ハリソン先輩。甘いのお好きですか?」

「……なに」

 動物たちから顔も上げずに、けれど話を聞いてくれる気はあるようで、ハリソン先輩はそんな返事をくれる。


「あそこに露天商が来てて。アイスクリームが売ってたから買ったんですけど、サービスだって言われてもう一個もらっちゃったんです。さすがに二個は食べれないし……。先輩、よければもらってくれません?」

「……もらう」

「どうもです!」

 両手に持っていたアイスをひとつハリソン先輩に手渡して、そのままハリソン先輩から人ひとり分空けたところに腰かける。


「あの、すみません。さっきもいまも、先輩の楽しみ邪魔しちゃって」

「はあ……、もういい。どうせ会長に言われて来たんだろ。アンタも被害者みたいなもんだ」

「被害者っていうか……。嫌々やってるわけではないので、ハリソン先輩の味方にはなれないかも?」

「……あ、そ」


 ハリソン先輩は短くそう言って、アイスを食べ始めた。あたしも溶けないうちに食べようと、アイスを口に運ぶ。


「このあと依頼人来るから、それまでに帰って」

「あ、えっと、依頼人って、魔物退治にまつわることです……?」

 あたしの質問に、ハリソン先輩は「そ」とだけ返す。その返事に、あたしの頭は不意にフル回転を始めた。そして、導き出された答えを告げるべく、あたしは口を開く。


「あの! 勉強のためにその任務ついていってもいいですか! 任務のこなし方も見させてもらいたいし、活動報告書を書く経験も積みたいっていうか……!」

「は? 邪魔なんだけど」


「そこをなんとか!」

「嫌」

 いつもならはいそうですかで引き下がっているところだ。でも会長にそんな態度は寂しいとかなんとかって言われてしまったし、それになにより今回は引き下がれない明確な理由がある。


「ぜったいぜーったい邪魔しないし、あたしにできることなら役に立ってみせますので! もちろんあたしの手が要らないなら余計なことはしません!」

 ふと、ハリソン先輩が振り返ってあたしを見た。


「……アンタ、低級の魔物でも意思疎通図れたり、魔物の気配感じ取れるんだって?」

「あ、はい」

 なんで知られているんだろうと思いつつ頷く。


「俺の邪魔しないなら、好きにすれば」

 素っ気ないけれど確実にゆるしを得られたとわかる言葉に、あたしは拳を空に掲げ、ガッツポーズをした。

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