第6話―2
「……なにそれ」
ふと、会長が眉根を寄せて問いかけてくる。
「ひとを嫌だなって思う気持ちはあたしの主観でしかないので、わざわざそれを理由に本人を否定することでもないかなーと……。かといって我慢してそのひとと関わり続けるのもあたしの身が持たないから、関係を切るのが一番だって思います。傷つけ合うのも本意じゃないし……。そのひとはあたしにとって嫌なひとかもしれないけど、きっと誰かの大切なひとで、そうでなくても幸せに楽しく過ごしていてほしいから。あたしの知らない、見えないところで」
あたしの長い言葉を聞いた会長が、ぎゅっと口を硬く結ぶ。かと思えば、目を伏せ気味にしてゆるゆると唇を開いた。
「……なるほど。すごく合理的で効率的な、人間との関わり方だ。……でも、それってすごく寂しくて、虚しくない? ……って、思うけど」
「うーん、会長はそう思うんですね!」
「いや、だから……。……いや、そういう君だからこそ、僕のくだらなくて、恥ずかしくて、ちっぽけな話を聞き流してくれそうだ。……と、いうわけで、……聞いてくれる? 僕の話……」
会長があたしの手首のあたりを掴んだり揺らしたりしながら、恐々と尋ねてくる。
「いいですけど、その前にお風呂入りたいです!」
「わかった、わかったよ……」
会長はあたしの説得に根負けして、あたしたちは濡れた体を引きずって寮の中へと入った。玄関口であらかじめシャツの裾を絞りはしたけど、それじゃ物足りないくらいの濡れ具合だ。寮にある大浴場に入り、その後男女共用の談話室で落ち合うことを取り決めてから別れる。
二十分ほどして談話室に赴くと、ソファにはすでに会長の姿があって。慌てて駆け寄れば会長は生徒会かなにかの業務に関わる書類を確認していたみたいだった。会長はあたしの姿を認めると。その書類の束を脇にあるテーブルの上に置いて、隣に座るよう促してくる。
あたしは共有キッチンでつくってきたココアとホットミルクのマグカップをテーブルに置き、会長に「どっちがいいです?」と尋ねた。
「わざわざつくってきたの……?」
「はい! お話するのに飲み物なしじゃ喉渇くでしょう?」
「……どうも。じゃあ、ホットミルクで……」
「はーい!」
あたしは返事をして、ホットミルクが入ったカップを会長に向かって滑らせた。会長はその動きを視線だけで追いかけて、自分の前にやってくるとカップの縁を掴む。そのまま取っ手を持つと、ちらりとあたしのほうを見た。
「……あれ。君の髪っていっつもそんな感じだったっけ」
あたしを見つめている会長の目が、少しだけ丸められる。
「あ、いまはお風呂上がりなので下ろしてるんですよ」
「ああそう、どうりで……。……思ったよりも長いんだ」
「よく言われます~」
輪っか状のお団子をふたつつくっているあたしの髪型は、結構な髪の長さがないと綺麗にできないのだ。入学してから最初のほうでは、寮のお風呂で一緒になったりしたクラスメイトからよく驚かれたのを覚えている。
「……で、え~っと、ん~~~……」
「ん?」
なにやら唸り出す会長に、あたしは首を傾げつつその顔を覗き込む。会長は必要以上に目許に力を入れて目を伏せていた。
「……僕が、あそこにいた理由だけど……」
なるほど話し出しに困っていたのか、と納得して、あたしはソファに背中を預ける。
「……僕、わけあって血の繋がらない親に育ててきてもらったんだけど、そのひとたちに……、こんど子どもができる、らしくて……」
「会長がお兄ちゃんになるってこと?」
会長がお兄ちゃんと小さい子に呼ばれているところ、全然想像がつかないけど。
「……いやまあ、それは、そうなんだけど。……本当の、自分と血の繋がった子どもができるなら、僕なんてもういらないよな、って一度思い始めるとそういう思考がとまらなくなって……」
言い淀みながらもぶちまけられたそれは、会長にとっての本気の悩みなんだろう。関係のないひとたちからすれば、そんなわけない、いままでと変わらず接してくれるよって簡単に言えてしまうほどの、大した悩み。
「捨てられる前に、こっちから捨てます?」
「え」
会長が目も口も大きく開くけど、それ以上なにも言ってこないからあたしは話を続ける。
「会長もう二年以上寮生活送ってると思いますし、事務仕事もハンターとしての技術もすごいですから、すぐにでもお仕事手に入れられますよ、きっと! いますぐにとは言いませんけど、独り立ちも視野に入れてみては?」
ひらめいた! と言わんばかりにあたしは満面の笑みを浮かべるけど、会長は浮かない顔のままだった。




