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第5話―4

「……ローレン、寝た……?」

「……起きてる」

 向かいにあるベッドに眠るローレンの後頭部を見つめて尋ねれば、布団がもぞもぞと動いてあたしに返事をくれる。


 きょうは本格的に夜が更ける前に一度仮眠しようという話になった。その理由は明白で、夜更かしなんてめったにしないあたしがきのうの調査中、恥ずかしい話何度かうたた寝してしまったからである。


「あのね、おじさんとおばさんのお墓に、こんど挨拶に行きたいんだけど……」

「……墓ねー。ないんだよなー……」

「な、ないの」


 ローレンがごろりと寝返りをうって、過去を思い出すように天上を見上げている。


「死因、言ってなかったな。魔物に喰われたんだよ」

「……そっ、か……」

「あれ、思ったより反応薄いな。平気なのかよ、魔物の悪い一面知ったりして」


 頭だけをあたしのほうに向けたローレンが僅かに目を丸めた。

「……ローレンの口振り的に、そうなのかなって……。魔物を恨んでるみたいだったから、魔物のせいだっていうのは、なんとなく……」


「……ふーん」

 ローレンが再び顔を天上に向けて唇を小さく尖らせる。鈍い反応に、しまった傷つけてしまったかと思って慌てて口を開いた。


「ショックじゃないわけじゃないよ、ローレンのお父さんとお母さんの身に起こったことも、その原因が魔物だってことも……」

 布団の端を思わずぎゅっと握り締める。


「……わかってるよ、そんなこと」

 吐き捨てるようにローレンがぽつりと呟いた。あたしは体ごとローレンのほうを向く。


「……あのね、変わらないでいられたのはローレンのおかげでもあるんだよ。親戚の家、あちこち行ったり協会での任務があったりして、忙しくて会えなかったのもあるんだろうけど……。会おうと思えばいくらでも会う機会なんてあると思うんだ。でも、ローレンはそうしなくて……。会わないようにしてくれてたんでしょ? あたしを守ってくれようとして……」

「……オレのこと、買い被りすぎだっつの」

 もう寝る、なんて言い残して、ローレンは頭まで布団を被ってしまった。


 目がぱっちりと開いてしまって、眠れる気配もない。ふかふかのマットレスとさらさらのシーツの感触を楽しむために寝返りを繰り返す。


「……くー、かー……」

「ローレン、寝るの早っ……」


 小さないびきをかいて上下している布団のふくらみを眺めてあたしは思わず目を丸めた。あたしと別れたあと、きっとたくさんの魔物を討伐していただろうからお疲れなんだろうけど、にしたって早すぎない?


 しょうがないからあたしはルシィを数えることにした。指を折っているとなんとなく楽しくなってきて、鼻歌をうたいそうになった瞬間。


「わ……⁉」


 目の前に、突如として馬が現れたのだ。馬は静かに佇んでいて、敵意を見せていない。あたしは布団をめくりつつ起き上がって、馬の様子を確認する。馬はあたしがそれ以上動く気がないとわかったのか、あたしから顔を逸らしてゆっくりと歩き出した。そして、隣のベッドに眠るローレンに近づいていく。


「あっ、あわ、だめだめだめ……! ローレンに近づかないで……!」

 馬は馬でも、魔物だというのは一目でわかる。それに加えて、この馬があたしたちの狙っている魔物だということも――


 眠っているローレンに近づかれて、悪夢を見させられたりしたらたまらない。あたしは咄嗟にベッドから立ち上がり、馬の前に立ちはだかる。


「えっと、お馬さん? あなたの名前はわからないんだけど……。ひとまずこのキャンバスの中、入ってくれない?」

 ベッド脇に置いていた鞄からキャンバスを取り出して、ぐいぐいと馬に押しつける。他のひとたちは魔法陣を展開して魔物をキャンバスの中に閉じ込めるみたいだけど、あたしは難しい魔法陣の仕組みとかは知らないから、魔物に直接交渉してキャンバスに入ってもらっている。効率が悪いのは知っているけど、あたしとしては問答無用で狭いキャンバスの中に魔物を閉じ込めるのは心苦しいから、魔物に自分の意思で入ってもらうほうが気が楽なのだ。


 だけど、馬はあたしの押しつけているキャンバスから顔を逸らして、進行方向を変えてしまう。


「うっ、だめかあ……」


 このままではローレンが起きかねない。悪夢を見せないようにさせるならローレンを起こしたほうが得策なんだろうけど、それではこの馬が逃げるかもしれないし、それになによりローレンが起きる前に解決したいというあたしの中にあるプライドが芽を出したのだ。


「えぇっと、ルシィにキャンバスの中に引きずり込んでもらう……? いやいやそれは最終手段だよ、アリス……」

 むーんむーんとこめかみをつつきながら自問自答を繰り返しているうちに、馬とローレンの距離は近づいていってしまう。


「ダメだよ、ローレンはきょうお疲れなの……! ゆっくり眠らせてあげて!」

 あたしは咄嗟に馬の足にしがみついた。

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